震え(読み)フルエ

デジタル大辞泉 「震え」の意味・読み・例文・類語

ふるえ〔ふるへ〕【震え】

ふるえること。特に、寒さや恐怖のためにふるえること。「震えがとまらない」「震えがくる」
[類語]身震い武者震い戦慄胴震い震駭震える震え上がるおののくわななく恐れおののく寒気さむけ悪寒おかん熱気風邪気風邪気味

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改訂新版 世界大百科事典 「震え」の意味・わかりやすい解説

震え (ふるえ)

身体一部または全部が不随意的に律動的運動を起こしている状態のことで,一般にはかなり広範な意味で用いられている。すなわち,寒冷や発熱時の全身の震えshivering,緊張,興奮時の手足の震え(生理的振戦),不随意運動症としての震え(病的振戦),さらにてんかんによる痙攣けいれん)発作convulsionまでも含めて考えられていることがある。しかし震えということばを医学的に振戦tremorに相当することばと解すれば,全身の震えや痙攣発作は,これとはまったく異質のものであり除外して考える必要があろう。ここでは震えを医学的な意味での震え,振戦と解して話をすすめたい。

振戦

フランスの神経学者デジュリンJules Dejerine(1849-1917)は20世紀の初めに振戦の定義を,〈ある身体軸(関節)のまわりの一平面内の不随意的律動的オシレーション〉としているが,今日われわれはこの定義により振戦を他の類似した不随意運動(たとえば舞踏病チックミオクローヌスアテトーシスなど)から区別している。ガレノスは2世紀にすでに病的震えの状態を記載しており,安静時に出現する〈palpitatio〉と運動時に出現する〈tremor〉とを区別していた。このように振戦を,それが出現する筋肉の活動状態により分けて考えることは合理的で,臨床的にはさらに一つを加えて次の三つに分類している。

(1)安静時振戦 仰臥位で手足を自然に伸展し,なにも考えない状態で出現する振戦。パーキンソン症候群に伴う振戦がこのタイプの振戦の代表である。毎秒5~7回であることが多い。

(2)姿勢時振戦 仰臥位または座位で両上肢を前方に挙上したような一定の肢位で出現する振戦。本態性振戦といわれるものやバセドー病に伴う振戦,頭部外傷後に出現する振戦のある種のものはこのタイプであることが多い。(1)と同じくらいの頻度のものもあるが,しばしばもっと速くて細かい振動(毎秒10回前後)がみられる。

(3)運動時振戦 随意運動に伴って出現する振戦で,小脳疾患に伴う振戦,頭部外傷後の振戦の一部,脳血管性障害後に出現する振戦はこのタイプのものが多い。体幹筋を含む粗大な振戦(毎秒3~5回)である。しかしこの分類は基本型を示したもので,実際上はこれらの混合したタイプもみられる。たとえば意図性振戦(目的運動を行うときに強くなる振戦)といわれるものは(2)(3)の混合したものである。これらの振戦はすべて安静時より精神的興奮時に強まり,睡眠中は出現しないのが特徴である。振戦の薬物治療は原疾患により異なり,パーキンソン症候群でみられる振戦はl-ドーパが,その他ではβ遮断剤が有効である。薬物で効果が得られないときは定位的視床手術,とくに腹中間核の選択的凝固が,どの種類の振戦に対しても有効であることが明らかにされている。

 振戦の発現機序はまだ不明の点が多いが,サルで中脳被蓋腹内側部の小細胞性赤核と黒質の中間部に凝固を行うと,平均して2週間後にその対側肢に毎秒5~7回の自発性振戦が発現してくることが明らかにされている。

 なお,生理的振戦は毎秒10回前後の速い細かいオシレーションで,正常人で興奮時,緊張時にみられるものである。いわゆる恐怖による震えもこれに含まれる。発現機序は病的神経とやや異なるとされており,とくに脊髄反射の回路が重要視されている。
痙攣
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百科事典マイペディア 「震え」の意味・わかりやすい解説

震え【ふるえ】

全身または身体の一部の筋肉に不随意的に起こる律動性振動の俗称。寒冷刺激や精神感動により,あるいは発熱時に一時的に起こるが,病的なものは,医学用語としては,大部分は振顫(しんせん)に属し,一部は痙攣(けいれん)に属する。

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世界大百科事典(旧版)内の震えの言及

【悪寒】より

…発熱の初めなどに感じる,ぞくぞくとした不快な寒けをいう。顔面蒼白となり,骨格筋の不随意的な震えを伴うことが多い(これを悪寒戦慄(せんりつ)という)。感染によって外因性発熱物質が体内に入ると,白血球などに作用して内因性発熱物質が産生・放出され,血行を介して体温調節中枢の存在する脳の視床下部を特異的に刺激する。…

【体温】より

…環境温が中等度で暑くも寒くもない状態では,皮膚血流を増減させて皮膚温を加減し,熱放散を調節することだけで体熱平衡を維持することができる。この血管運動調節域よりも環境温が低下すると,皮膚血管が収縮し,震えすなわち骨格筋の律動的な収縮によって熱産生を増加させ,またアドレナリンや甲状腺ホルモンの分泌も高まる。環境温が上昇すると,皮膚血管の拡張によって多量の体熱が体表面にもたらされ,対流・放射による熱放散が増加するが,それでも平衡を保つのに不十分なときには発汗が始まる。…

※「震え」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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