平安初期の陰謀的な政治事件。842年(承和9)7月,嵯峨太上天皇葬儀の翌日,近衛府の兵により春宮坊帯刀の伴健岑(とものこわみね)と但馬権守橘逸勢(たちばなのはやなり)の私宅が囲まれ,健岑の同族も捕らえられた。平安京と京から地方へ向かう道の要衝5ヵ所を警固せよとの命令も発せられた。それは嵯峨上皇が没する直前に,阿保親王(平城天皇皇子)が,伴健岑らの陰謀を太皇太后橘嘉智子に密告したことによる。健岑らが上皇死後の混乱に乗じて,皇太子恒貞親王(つねさだしんのう)を奉じて東国に赴いて乱を起こそうとしている,というのである。密告をうけた橘嘉智子は中納言藤原良房にひそかに伝え,先のような軍事行動となったのである。しかし,健岑,逸勢の2人は容易に罪状を認めず,拷問により,捕縛後10日ほどして,健岑は隠岐国,逸勢は非人として伊豆国に遠流とされた。その間に春宮坊は包囲され,皇太子恒貞親王の側近は京外に追放され,恒貞親王は皇太子の地位を剝奪された。配流となった者は90余人を数えた。事件の首謀者は伴健岑,その積極的な協力者が橘逸勢,それに意識的に利用されたのが恒貞親王というのが,当時の公的見解であった。しかし事件の経過やこの後の道康親王(のち文徳天皇)の立太子,藤原良房の昇進などからすれば,外戚関係を通して権力の確立をはかった良房の陰謀事件ではないかと思われる。伊豆への流罪の途中遠江国で亡くなった橘逸勢は10年後には無実として本位に復され,のち御霊会でまつられた。この事件を契機に藤原北家が権力を集中し,〈前期摂関政治〉が形成された。
執筆者:佐藤 宗諄
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平安前期に起こった謀反事件。第54代仁明(にんみょう)天皇は淳和(じゅんな)上皇皇子恒貞(つねさだ)親王を皇太子にたてていたが、藤原良房(よしふさ)は、その妹順子(じゅんし)の所生である仁明天皇皇子道康(みちやす)親王(第55代文徳(もんとく)天皇)の立太子を画策していた。この形勢を察した恒貞親王は皇太子を辞する意志を表明したが、天皇、上皇により慰撫(いぶ)されていた。こうした状況下で842年(承和9)7月、嵯峨(さが)上皇崩御の2日後、春宮坊帯刀(とうぐうぼうたちはき)伴健岑(とものこわみね)、但馬守(たじまのかみ)橘逸勢(たちばなのはやなり)らによる、皇太子を奉じて東国に赴こうとする謀反が発覚した。その発端は、謀主にされかかった阿保(あぼ)親王が密書をもって太皇太后橘嘉智子(かちこ)に告げたことにあり、健岑、逸勢らは逮捕され、恒貞親王は皇太子を廃され、大納言(だいなごん)以下60余人が連座した。健岑らに謀反の意図はあったらしいが、廃太子の理由はあいまいであり、道康親王を皇儲(こうちょ)にしようとした良房の陰謀の疑いが濃く、同年8月に道康親王が立太子し、良房は女(むすめ)を皇太子妃とし、皇室との関係を深めた。
[森田 悌]
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平安初期におきた政治的事件。842年(承和9)7月,阿保(あぼ)親王から太皇太后橘嘉智子(かちこ)への密告により,皇太子恒貞(つねさだ)親王の側近である伴健岑(とものこわみね)と橘逸勢(はやなり)らが逮捕された。直前に嵯峨上皇が没した混乱に乗じ,2人が皇太子を奉じて東国に赴き,反乱を企てているというのが逮捕の理由であった。恒貞親王は皇太子を廃され,首謀者として健岑は隠岐に,逸勢が伊豆に配流(途中遠江で死亡)されるなど多数が処罰された。8月には藤原良房(よしふさ)の甥で仁明天皇の子道康(みちやす)親王(文徳天皇)が皇太子となった。健岑・逸勢らは冤罪の可能性がきわめて高く,上級官人層内部の対立を利用して権力の確立を図った藤原良房の陰謀と推定される。
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…また新設の蔵人所(くろうどどころ)と検非違使(けびいし)は,後世まで永く重要な機能を果たし,貴族政権に大きな地位を占めた。一方,嵯峨天皇の腹心として活躍した藤原冬嗣は,廟堂における北家藤原氏の優位を確立し,冬嗣の後を継いだ良房は,承和の変を機として,伴氏,橘氏等を朝廷から排除し,冬嗣の外孫文徳天皇を皇位につけることに成功した。ついで良房は人臣最初の太政大臣に任命され,その外孫清和天皇が幼少で即位するや,事実上執政の権を握り,さらに866年(貞観8)応天門の変を機に摂政の詔をこうむり,藤原摂関制へ道を開いた。…
※「承和の変」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
年齢を問わず、多様なキャリア形成で活躍する働き方。企業には専門人材の育成支援やリスキリング(学び直し)の機会提供、女性活躍推進や従業員と役員の接点拡大などが求められる。人材の確保につながり、従業員を...
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