訴訟法上、裁判所がする裁判のうちの決定および命令に対する上訴をいい、民事訴訟法と刑事訴訟法では意義を異にする。
[本間義信]
決定および命令に対する上訴をいう。決定、命令は比較的軽微な事項や迅速な処理を要する事項に対する裁判であるから、これらに対する不服申立ては、事件の実体から切り離して、すなわち、終局判決に対する控訴とは独立して、簡単な手続で解決することにしている。抗告には、通常抗告、即時抗告、特別抗告および許可抗告がある。
[本間義信]
即時抗告とは、裁判の告知後1週間以内に行うことを要する抗告で、迅速な確定が要求されるものにつき法定の場合にのみ(たとえば民事訴訟法21条・44条・71条・75条など)認められる。即時抗告は原裁判の執行停止の効力を有する(同法334条)。
[本間義信]
特別抗告とは、もともと不服申立てができない決定・命令について、それに憲法の解釈の誤りその他の憲法違反のあることを理由として最高裁判所に行うことができる抗告をいい、抗告期間は5日である(民事訴訟法336条)。許可抗告とは、高等裁判所が判例違反その他の法令の解釈に関する重要な事項を含むと認める場合に、許可により認める、最高裁判所への抗告をいう。通常抗告とは、前記以外のものをいうが、抗告できるのは原則として、口頭弁論を経ないで訴訟手続に関する申立てを却下した決定または命令に対してである(同法328条1項)。なお、決定・命令であっても、最高裁判所、高等裁判所および受命・受託裁判官のそれに対しては抗告ができず、そのほか不服申立ての禁止されている裁判、抗告以外の不服申立て方法の認められている裁判に対しても抗告ができない。
抗告にはこのほか、最初の抗告、再抗告(民事訴訟法330条)という分類もある。再抗告は、最初の抗告についての控訴審の裁判に対して、さらに抗告できるものをさし、訴訟の判決に対する上告にあたる。
抗告の管轄裁判所は、上級裁判所であり、簡易裁判所の裁判に対しては地方裁判所、地方裁判所のそれに対しては高等裁判所である。抗告の提起は、原裁判所へ書面で行う(民事訴訟法286条・331条)。審理は任意的口頭弁論に基づき行う。
なお、前記のもの以外に、民事執行法上の執行抗告(民事執行法10条)、民事保全法上の保全抗告(民事保全法41条)がある。
[本間義信]
決定に対する上訴をいう(裁判所の命令に対する不服申立ては準抗告という)。抗告には一般抗告と特別抗告とがあり、一般抗告はさらに、通常抗告(即時抗告ができる場合以外の裁判所の決定に対する抗告)と即時抗告(3日以内に提起を必要とするもので、法がとくに許す旨規定している場合にのみ認められる)に分類される。特別抗告とは、不服申立てができない決定または命令に対して、憲法違反、判例違反の事由があることを理由として最高裁判所へとくに提起することを許された抗告(刑事訴訟法433条1項)をいう。なお、刑事訴訟法では再抗告はできない。
抗告をするには、申立書を原裁判所に提出しなければならない。原裁判所は抗告に理由があると認めるときは決定を更正し、理由がないと認めるときは、抗告裁判所へ送付しなければならない。
[本間義信]
訴訟手続における上訴の一種。同じく上訴手段である控訴と上告が判決に対するものであるのに対し,抗告は決定または命令という簡易な形式の裁判に対する簡略な上訴手続である。抗告という名称は民事・刑事の訴訟法に限らず,非訟事件手続法・少年法など種々の手続法の中で用いられているが,ここでは,民事訴訟法および刑事訴訟法に定められた抗告について説明する。抗告の中で,地方裁判所または高等裁判所の管轄に服するものを一般抗告と呼び,最高裁判所に救済を求める申立てで,特定の理由(憲法違反など)による場合に限って認められるものを特別抗告,高裁が最高裁への抗告を許可した場合に認められるものを許可抗告と呼ぶ。一般抗告の中でも,申立期間の制限されない通常抗告(民事訴訟法では普通抗告ともいう)と,その制限のある即時抗告とが区別されている。
どのような種類の決定・命令に対して抗告の申立てができるかは,民事・刑事それぞれの訴訟法に定められている。民事では,口頭弁論を経ないで訴訟手続に関する申立てを却下した決定,命令,および判決で裁判すべき事項につき誤って下された決定・命令に対して通常抗告の申立てができる(民事訴訟法328条)。前者にあたる例として,仮差押申請を却下した決定に対する抗告などがある。刑事では,勾留・保釈・押収・押収物の還付または鑑定留置に関する決定,および裁判所の下したその他の決定で,判決に至る審理の過程で管轄や手続上の問題について下された決定以外のものに対して,通常抗告の申立てが認められている(刑事訴訟法419条,420条)。刑事の通常抗告の例としては,保釈請求却下決定に対する抗告などがある。即時抗告の対象となりうる裁判は,民事でも刑事でも個々の裁判についての条文の中にその旨が示されており,民事では判決更正決定に対する抗告(民事訴訟法257条2項),刑事では公訴棄却決定に対する抗告(刑事訴訟法339条2項)などがそれにあたる。このように,民事でも刑事でも抗告の対象となる裁判は,ある程度限定されている。これは,判決に至る本案審理の過程で生じる手続問題を処理するために下される決定・命令に対しては,最終的結論である判決に対する上訴を通じてその適否を争う機会を与えれば足りる場合があるからである。それらの裁判の一つ一つについて独立の上訴手段たる抗告を認めることは,かえって訴訟手続を煩雑にするという考慮に基づくのである。また,最高裁判所は最上級の裁判所であるためと,最高裁判所の負担超過を防ぐために,最高裁判所と高等裁判所の決定・命令に対しては,一般抗告は認められない。その代りに,刑事訴訟に限って,高等裁判所の決定に対して同じ裁判所に異議の申立てをすることができる(刑事訴訟法428条)。
抗告の申立ては,民事・刑事を通じて,原則として不服の対象となる原裁判を下した裁判所に書面を提出して行う。即時抗告の申立期間は,原裁判を告知されたときから,民事では1週間,刑事では3日間である(民事訴訟法332条,刑事訴訟法422条)。申立ての理由は,原則として制限されないので,事実問題,法律問題のいずれについての不服も理由とすることができる。ただ,刑事の勾留決定に対しては,犯罪の嫌疑のないことを理由として抗告をすることはできない(刑事訴訟法420条3項)。即時抗告の申立ては,原裁判の執行を停止する効力を持つが,通常抗告の申立ては,特に裁判所が命じない限り,その効力を持たない(民事訴訟法334条,刑事訴訟法424条)。申立てを受けた裁判所は,いわゆる再度の考案をして,抗告を正当と認めるときはみずから原裁判を更正する。そうでなければ事件を抗告裁判所となる直近の上級裁判所(ただし刑事ではつねに高等裁判所)へ送ってその審査を受ける(民事訴訟法333条,刑事訴訟法423条2項)。抗告裁判所の決定に対しては,先に述べた特別抗告を除き,さらに抗告を申し立てることはできない。ただし,民事訴訟では,以上のような原則とは異なった手続も認められており,口頭で抗告を提起すること,抗告裁判所に直接これを提起すること,および地方裁判所が抗告審として下した決定に対して法令違反を理由として再抗告を申し立てること(民事訴訟法330条)ができる。
なお,ある種の命令に対する不服申立手続が準抗告と呼ばれるが,これは上級裁判所による審査を求める申立てではないので,厳密な意味での抗告の一種ではないとされている。
→上訴 →決定 →命令
執筆者:後藤 昭
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出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…裁判所は決定の前に口頭弁論を開くか否かは自由であり(民事訴訟法87条1項但書),裁判所が適当と認める方法で当事者に告知すればよく,公開の法廷で言い渡す必要はないし(119条),告知と同時に効力を生ずる。決定に対する不服申立は常にできるわけではなく,できる場合でも抗告というかなり簡略な方法しか認められていない(328条以下)。また,ある裁判をした裁判所がその裁判を変更できないという拘束力(自縛性)は判決よりも弱く,訴訟指揮に関する決定はいつでも取り消すことができるし,抗告がなされた場合,決定をなした原裁判所はその決定を更正することもできる(再度の考案)。…
※「抗告」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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