出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
卵や雛をもつ親鳥が,近づいた外敵に対してけがをしているかのような動作をとり,注意を自分の方に向けつつ移動して,外敵を卵や雛から遠ざけてしまう行動で,一種の利他的行動といえる。シギ・チドリ類,カモ類,キジ類など,地上に巣をつくる鳥でよく見られる。チドリ類では,親鳥は外敵が近づくと,そのすぐ近くまで飛んでいき,背を向けると同時に翼を広げて地面をたたくような動作をする。そして中腰のまま,脚をひきずるようにして少しずつ外敵から遠ざかる。外敵はこうした動作をとった親鳥にひきつけられて,その動く方向へと移動し,結局,卵や雛から離れた方に行ってしまう。こうした擬傷は,卵や雛のそばにいてそれらを守ろうとする衝動と,外敵から逃れようとする衝動の二つが入り混じって現れる,儀式化された行動と考えられている。
執筆者:樋口 広芳
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
動物が傷ついたふりをして敵をだますこと。チドリやカモなどの鳥類やある種の淡水魚において知られ、保育中の親が捕食者の注意を自分にひきつけて子を守るために行う。コチドリなどでは、捕食者が巣に近づくと、親鳥はまず巣から離れて、そこで地上に降りて翼をばたつかせ、あたかも傷ついて飛べないかのようにもがく。このようにして捕食者の注意を雛(ひな)からそらせ、捕食者が自分のすぐそばまでくると突然飛んで逃げる。すこし移動しては同じ行動を繰り返し、巣から十分に遠ざかった所で舞い上がって姿を消す。この行動は、巣にとどまろうとする衝動と、逃げようとする衝動の葛藤(かっとう)から発達した本能的なものであると考えられる。
[桑村哲生]
『エドムンズ著、小原嘉明・加藤義臣訳『動物の防衛戦略』全2冊(1980・培風館)』
…カモメはひなが親のくちばしの一部をつつくと餌を吐き出して与え,危険が近づくと警戒声を発し,ときには外敵に攻撃を加える。ウズラやヒバリのように親鳥が傷ついたまね(擬傷)をして,捕食者に自分を追わせひなのいる場所から遠ざける鳥もいる。孵化したひなが未成熟で羽毛も生えず,目もあいていないような場合(晩成性または留巣性),親鳥は長期間,餌を運んで育雛(いくすう)する。…
※「擬傷」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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