放免(読み)ほうめん

精選版 日本国語大辞典 「放免」の意味・読み・例文・類語

ほう‐めん ハウ‥【放免】

〘名〙
① (━する) ゆるすこと。義務を免除し、あるいは処罰することをやめ、あるいは怒りを解くこと。
※続日本紀‐養老四年(720)三月己巳「無公私、皆従放免
平家(13C前)一一「あやまりなきよしをゆうぜられ、放免にあづからば」
② (━する) 身体の拘束を解き、行動の自由を回復させること。
※延喜式(927)二九「其為人凶悪衆庶共知者。不放免
※幼学読本(1887)〈西邨貞〉五「獅子は少しく考へたる様子にて、直ぐに鼠を放免せり」 〔宋史‐太祖紀〕
検非違使庁最下級の職の一つ。また、その人。釈放された囚人で、犯罪人の捜索・逮捕・囚禁または流人の護送などにあたったもの。ほうべん。法便。
※小右記‐長和三年(1014)四月二一日「使庁狼藉今時看督長・放免等横行京中、切市女笠
④ (━する) 法律で用いる語。
(イ) 刑に服していた者を刑期が終了した場合に、監獄から釈放すること。〔仏和法律字彙(1886)〕
青春(1905‐06)〈小栗風葉〉秋「二年六ケ月の刑期今日満ちて、関欽哉は放免(ハウメン)されて出て来たのである」
(ロ) 拘留を受けた被疑者被告人を釈放すること。
花間鶯(1887‐88)〈末広鉄腸〉上「一度拘留になったものは、〈略〉容易に放免(ハウメン)にならず」

ほう‐べん ハウ‥【放免】

〘名〙 (「べん」は「免」の漢音) =ほうめん(放免)
随筆安斎随筆(1783頃)一四「放免(ハウベン)検非違使庁の下司、車賤雑役の者也」

出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報

デジタル大辞泉 「放免」の意味・読み・例文・類語

ほう‐めん〔ハウ‐〕【放免】

[名](スル)
からだの拘束を解いて自由にすること。刑期を終えた者や、無罪とわかった被疑者被告人を釈放すること。「無罪放免
義務や職務などを解除すること。「幹事役から放免される」
検非違使けびいしに使われた下部しもべ。釈放された囚人で、犯罪人の捜索や護送などに当たった。ほうべん。
[類語]釈放保釈

ほう‐べん〔ハウ‐〕【放免】

ほうめん(放免)3」に同じ。
伊勢国てまかりけるに、―両三人ぞ付けられたる」〈平家・五〉

出典 小学館デジタル大辞泉について 情報 | 凡例

改訂新版 世界大百科事典 「放免」の意味・わかりやすい解説

放免 (ほうめん)

検非違使庁(けびいしちよう)で雑用に使われた下部(しもべ)。元来は罪人の釈放を意味したが,使庁が彼らを用いたことからこの名称がおこった。検非違使庁の官人の指揮に従って,犯人の追捕(ついぶ),囚禁,流人(るにん)の護送,死体の処理などに従事した。賀茂の祭に華美な服装で行列に加わり,新制で過差(過度に華美なこと)禁断の対象になったりしたが,《江談抄》によれば放免の華美な服装は贓物(ぞうぶつ)(盗品)を着用したものであった。絵巻物には,護送にあたる放免は派手な狩衣を着て異形の杖をもった姿で描かれている。放免の収入源としては贓物もあるが,南北朝期には紺年預得分料足が与えられていたことが《師守記》にみえる。室町幕府の侍所(さむらいどころ)に検非違使庁の機能が移るとともに放免もなくなった。
執筆者:

出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

日本大百科全書(ニッポニカ) 「放免」の意味・わかりやすい解説

放免
ほうめん

検非違使庁(けびいしのちょう)の下部(しもべ)で、放免された罪人を追捕(ついぶ)、囚禁(しゅうきん)の事に従わしめた。罪人あがりで犯罪について知悉(ちしつ)しており、追捕にあたり有用であった。しかし、放免自ら罪を犯すことが珍しくなく、『小右記(しょうゆうき)』長和(ちょうわ)3年(1014)4月21日条に、狼藉(ろうぜき)を行い、看督長(かどのおさ)らとともに京中を横行し市女笠(いちめがさ)を切るなどの行為があったとみえ、『長秋記(ちょうしゅうき)』大治(だいじ)4年(1129)12月6日条には、追捕の間に放免が東大寺聖宝僧正五師子(ごしし)の如意(にょい)を盗取したとある。『今昔(こんじゃく)物語』にも、強盗などの悪事を働く話がみえる。賀茂祭のときは美服をつけて事に従ったが、『江談抄(ごうだんしょう)』によれば、贓物(ぞうぶつ)を用いたという。

[森田 悌]

『谷森饒男著『検非違使ヲ中心トシタル平安時代ノ警察状態』(1921・私家版/復刻版・1980・柏書房)』

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

普及版 字通 「放免」の読み・字形・画数・意味

【放免】ほう(はう)めん

解放。釈放。〔宋史、太祖紀〕(開宝四年三月)詔す。廣南、人の男女を買ひて奴婢と爲し、轉じて傭利するらば、竝(み)な放せよ。

字通「放」の項目を見る

出典 平凡社「普及版 字通」普及版 字通について 情報

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「放免」の意味・わかりやすい解説

放免
ほうめん

平安~鎌倉時代に,刑期終了後,または刑を免じられて,検非違使 (けびいし) に犯人探索のために使われた者。社会的には非人として扱われた。放免が使われた頃は,検非違使庁の綱紀がゆるみ,検非違使自身も不正を行う状態であったため,放免も悪事を行う者が多かった。

出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報

世界大百科事典(旧版)内の放免の言及

【下部】より

…したがって,下部の一般的な職務内容は,野盗・山賊等の追跡・逮捕,獄囚に対する拷訊,流罪人の配所への護送などであった。この下部をその職務の性格によって分類すると,走下部(はしりしもべ)と放免の2種類になる。走下部とは,いわゆる走使いのことであり,放免とは,罪人の罪をゆるして,その代償に犯罪人の探索や密告収集活動に従事させたものである。…

※「放免」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

今日のキーワード

黄砂

中国のゴビ砂漠などの砂がジェット気流に乗って日本へ飛来したとみられる黄色の砂。西日本に多く,九州西岸では年間 10日ぐらい,東岸では2日ぐらい降る。大陸砂漠の砂嵐の盛んな春に多いが,まれに冬にも起る。...

黄砂の用語解説を読む

コトバンク for iPhone

コトバンク for Android