黄表紙。朋誠堂喜三二(ほうせいどうきさんじ)作。喜多川行麿(ゆきまろ)画。1788年(天明8)刊。3巻。源頼朝が畠山重忠に命じて,鎌倉の大名小名を富士の人穴に入らせて,文武道の士のほかにぬらくら武士を識別し,それを箱根七湯でさらして,文武いずれかの士たらしめようとし,惰弱をこらしめ戒めるという構想をとる。天明7年より始まった老中松平定信による寛政改革の文武奨励に取材したもので,田沼意次(おきつぐ)一派の失脚をとり入れるとともに,改革に際会しての武士たちの狼狽ぶりなどをも風刺する。改革政治取材の端緒をつけた作品で好評を博し,翌89年(寛政1)には恋川春町の《鸚鵡返文武二道(おうむがえしぶんぶのふたみち)》をはじめ,類似作が続出したが,当局の忌諱(きい)に触れ,喜三二も戯作の筆を断った。
執筆者:水野 稔
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
黄表紙。朋誠堂喜三二(ほうせいどうきさんじ)作、歌麿(うたまろ)門人行麿(ゆきまろ)画。1788年(天明8)刊。3巻15丁袋入り本。源頼朝(よりとも)が諸大名を富士の人穴で文武2通りにふるい分け、ぬらくら大名に文武二道の精進を諭す。老中松平定信(さだのぶ)が寛政(かんせい)の改革の前触れとして発した「万石以上以下末々まで……文武忠孝は前々より法令なれば別(べっし)て心入れ」の大名行状調査をうがつ。風刺のパロディーがあたり、「古今未曽有(みぞう)の大流行」(馬琴(ばきん)『江戸作者部類』)のベストセラーになるが、ほどなく弾圧を受け、作者は黄表紙の筆を絶った。
[井上隆明]
『中山右尚他編『江戸の戯作絵本三』(社会思想社・現代教養文庫)』
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