新型インフルエンザや新型コロナウイルス感染症(COVID(コビッド)-19)など新たな感染症への対策を定めた法律。平成24年法律第31号。略して特措法とよばれる。対象は新型インフルエンザ、過去に大流行した再興型インフルエンザ、未知の新感染症で、2020年(令和2)の一部改正で新型コロナウイルス感染症を加えた。感染拡大時に内閣総理大臣が緊急事態を宣言し、外出自粛・休業・営業時間の短縮などを要請して感染拡大を抑える。2009年(平成21)の新型インフルエンザ(H1N1型)の世界的流行を踏まえ、感染症法(平成10年法律第114号)など既存法を補完する目的で2013年に施行された。また2021年の改正では緊急事態宣言に加えて、緊急事態に陥るのを防ぐ「まん延防止等重点措置」を創設。営業時間の短縮などに応じた事業者への財政支援や、医療機関・関係者への支援を定め、命令に応じなかった場合に過料(緊急事態宣言下で最大30万円)を科すと明記した。政府は同法に基づき、2020年4月(当初7都府県、その後全国に拡大)と2021年1月(11都府県)と4月(4都府県)に緊急事態を宣言した。
感染症発生時に、政府は総合調整役となる対策本部(本部長は内閣総理大臣)を設置。内閣総理大臣は、(1)国民の生命と健康に著しく重大な被害を与えるおそれがある、(2)国民生活と国民経済に甚大な影響を及ぼすおそれがある、の2条件を満たした場合、専門家諮問委員会の意見を聞き、緊急事態宣言やまん延防止等重点措置を発令する。感染症の感染状況を4段階で示す政府のステージ指標のうち、爆発的感染や医療体制の機能不全を避けなくてはいけないもっとも深刻なステージ4相当で緊急事態(期間2年以内、延長は1年以内)を、2番目に深刻なステージ3相当でまん延防止等重点措置(期間半年以内、何度でも延長可能)を発出するとしている。まん延防止等重点措置は緊急事態に陥る前だけでなく、緊急事態宣言解除後も適用可能。発令は全国一律にこだわらず、緊急事態宣言は都道府県単位で、まん延防止等重点措置は市区町村など特定区域で発出できる。感染症拡大時の私権制限は「必要最小限のものでなければならない」と同法5条に定めているが、緊急事態下の知事は住民への不要不急の外出自粛、小中高校・保育所・介護施設の休業、延床面積1000平方メートル超の大学、百貨店、映画館、イベント会場、スポーツ・娯楽施設などの使用制限、飲食店などの休業・営業時間の短縮を要請できる。まん延防止等重点措置下では、営業時間の短縮要請のみが可能。要請に従わないと、より強い命令が出され、それでも正当な理由なく従わないと、緊急事態下で最大30万円、まん延防止等重点措置で最大20万円の過料を科す。
入院措置に応じなかったり、入院先から逃げ出したりした場合は最大50万円、立入り検査や疫学調査を拒否した場合は最大30万円の過料。医薬品などの緊急物資や医療施設に関する命令も私権制限を伴う。緊急物資の生産・販売・輸送業者に売り渡し・保管を命令でき、従わない場合、強制収用できる。保管命令に従わずに隠匿・横流しなどをすると、6か月以下の懲役または30万円以下の罰金を科す。医療施設を臨時設置するため、土地や建物に立入検査し、収用できる。検査に応じない場合、30万円以下の罰金に処す。このほか感染国からの入国制限、公的負担による住民への予防接種、死亡した医療従事者への補償、緊急物資・土地・建物を収容された場合の補償、自治体間の相互応援、24時間以内の埋葬・火葬を認める特例措置、生活物資の価格安定、免許証更新や納税期限などの延長、政府系金融機関による融資などの対策がとられる。
[矢野 武 2021年6月21日]
(2013-4-17)
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