新薄雪物語(読み)シンウスユキモノガタリ

デジタル大辞泉 「新薄雪物語」の意味・読み・例文・類語

しんうすゆきものがたり【新薄雪物語】

浄瑠璃時代物。三段。文耕堂三好松洛小川半平竹田小出雲の合作。寛保元年(1741)大坂竹本座初演仮名草子薄雪物語」を脚色。幸崎伊賀守の娘薄雪姫と園部兵衛の息子左衛門との恋物語に、秋月大膳の謀反や刀工正宗らの話をからませる。中の巻「園部館」が「合腹あいばら」「三人笑い」といわれて有名。

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改訂新版 世界大百科事典 「新薄雪物語」の意味・わかりやすい解説

新薄雪物語 (しんうすゆきものがたり)

人形浄瑠璃。時代物。角書は〈時代世話〉。3段。文耕堂三好松洛,小川半平,竹田小出雲の合作。1741年(寛保1)5月大坂竹本座で初演。おもな配役は上巻切を竹本此太夫,中巻切を竹本内匠太夫,下巻竹本播磨少掾,竹本志摩太夫ほか。人形は園部兵衛・正宗を桐竹勘十郎,園部左衛門を桐竹門三郎,幸崎(さいさき)伊賀守を竹川七郎治,薄雪姫を吉田文三郎,団九郎を吉田才治ほか。直接の原拠は1632年(寛永9)に刊行の浮世草子《薄雪物語》であるが,これはまず,85年(貞享2)江戸森田座の歌舞伎《薄雪物語》で劇化され大当りをとって以来,《薄雪今中将姫》(1700初演)などが上演されたが,これらの影響を受けて人形浄瑠璃に作られたと思われる。花の清水寺の出会い以来,相愛の仲の園部兵衛の息左衛門と幸崎伊賀守の娘薄雪とは秋月大膳に謀られて将軍呪詛(じゆそ)の疑いを受け,両方の父が子に代わって切腹する。両家の妻もその場に立ち合い,複雑な悲惨事が展開する。左衛門と薄雪とは大和に隠れる。刀工正宗の子団九郎は大膳の陰謀に加わるが,正宗に右の小腕を斬られて改心し,大膳の悪を暴露する。正宗の助力で左衛門主従は大膳を討ち,左衛門は父の所領をつぐ。見どころは上巻〈清水〉,中巻〈園部館〉,下巻〈正宗内〉。近松没後,しだいに合作制へ移行した浄瑠璃は寛保(1741-44)ごろになると合作者の数も増加し,本曲にも立作者文耕堂を筆頭に4名の作者の署名を見る。5段組織の作品の場合,三段目の切(一作品中の中心の場)は立作者が執筆するのが普通であるが,3段組織の本作を5段組織に当てると,三段目切に相当する場は中巻の中〈園部兵衛館〉で,初演時の竹本播磨少掾の語り場に当たる。将軍調伏の嫌疑のかかった息子,娘に代わって切腹したそれぞれの父が2人の妻の嘆きの前で苦痛をこらえての大笑いをする悲痛極まる描写である。この部分は,地味な中にも微妙な人間の感情を巧みに表現する文耕堂の作風の特徴をよく示し,これに最適の芸風を持つ播磨少掾が語り生かした。合作制度は1人の作者によるものに比し,種々の弊害を生じたが,本曲のこの場を見るかぎり,作者と太夫の特徴を完全に発揮したわけで,後期浄瑠璃の欠点を逆に最も生かしえた点で,浄瑠璃史上,意義深い作品である。本作が歌舞伎化されたのは,同じ1741年(寛保1)の8月京の早雲長太夫座で,民谷四郎五郎,榊山小四郎,菊川喜代太郎らにより上演された。生締(なまじめ),若衆,赤姫,国崩し,色奴(いろやつこ)など多彩な役柄が登場するが,人形浄瑠璃同様〈園部館〉が〈合腹(あいばら)〉〈三人笑い〉といわれて眼目。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「新薄雪物語」の意味・わかりやすい解説

新薄雪物語
しんうすゆきものがたり

浄瑠璃義太夫節(じょうるりぎだゆうぶし)。時代物。3段。文耕堂(ぶんこうどう)、三好松洛(みよししょうらく)、小川半平、竹田小出雲(こいずも)合作。1741年(寛保1)5月、大坂・竹本座初演。浮世草子『薄雪物語』(1632)の脚色で、通称「新薄雪」または「薄雪」。初演の3か月後には歌舞伎(かぶき)化され、上の巻「清水花見(きよみずはなみ)」、中の巻「幸崎邸詮議(さいざきていせんぎ)」「園部邸合腹(そのべていあいばら)」、下の巻「鍛冶屋(かじや)」が現代に残り、この4場が通しで多く上演される。「花見」は、華やかな清水の観音堂を背景に、園部兵衛(ひょうえ)の息左衛門(さえもん)と幸崎伊賀守(いがのかみ)の息女薄雪姫が奴(やっこ)妻平(つまへい)と腰元籬(まがき)のとりもちで恋を語る場面。天下をねらう秋月大膳(あきづきだいぜん)にくみする刀鍛冶団九郎が、左衛門の奉納した太刀(たち)に調伏のやすり目を入れるという筋(すじ)で、姫と左衛門の色模様、妻平の立回りなど、古風な様式美に満ちている。「詮議」は、大膳の策謀により左衛門と薄雪姫が密通の罪のほか反逆の疑いまでかけられるが、葛城民部(かつらぎみんぶ)の情理ある裁断により、姫は園部家へ、左衛門は幸崎家へ預けられる場面で、民部の明快なさばき役の演技が見どころ。「合腹」は、兵衛・伊賀守がそれぞれ子供を逃し、責を負ってともに腹を切り、互いの親心を知って兵衛の妻梅の方と3人で苦しい笑いを交わす、という筋で別名「三人笑い」。親の情愛が痛切に描かれ、切腹を隠して登場する陰腹(かげばら)の演技、3主役が苦痛と悲哀をこらえて笑い合う皮肉な技巧により、古典劇中でも有数の格調高い場面といえる。「鍛冶屋」は、清水で大膳に殺された来国行(らいくにゆき)の息国俊(くにとし)が、吉助の名で五郎正宗(まさむね)に弟子入りして極意を授けられ、かくまわれていた薄雪姫の供をする。団九郎は秘密の湯加減を盗もうとして父正宗に片腕を切られ、改心して大膳一味の討っ手を追い散らす。この場は団九郎の手負いになっての物語と片腕1本での立回りが見ものである。

[松井俊諭]

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歌舞伎・浄瑠璃外題よみかた辞典 「新薄雪物語」の解説

新薄雪物語
しん うすゆきものがたり

歌舞伎・浄瑠璃の外題。
作者
松田文耕堂 ほか
補作者
松屋来助(2代) ほか
初演
寛保1.8(京・榊山座)

出典 日外アソシエーツ「歌舞伎・浄瑠璃外題よみかた辞典」歌舞伎・浄瑠璃外題よみかた辞典について 情報

世界大百科事典(旧版)内の新薄雪物語の言及

【文耕堂】より

竹田出雲との合作には,38年8月《小栗判官車街道(おぐりはんがんくるまかいどう)》,39年4月の《ひらかな盛衰記》,40年7月の《将門冠合戦(まさかどかむりがつせん)》などがある。41年(寛保1)5月の《新薄雪物語(しんうすゆきものがたり)》を,三好松洛,小川半平,竹田小出雲と合作した後は,文耕堂の署名入りの作品は消える。このころ没したのではないかと推定される。…

※「新薄雪物語」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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