なんらかの法的根拠によって,すでに獲得した権利。これをどの程度保護すべきかが,立法論上および解釈論上議論される。近代自然法論者の一部は,私的所有権を自然法上の既得権であるとして,その不可侵性を主張したが,これは法実証主義者,社会連帯主義者,国家主義者,社会主義者などから批判され,ほとんど過去のものとなっている。実定法上問題となるのは,法の改正や解釈運用の変更に際して,既得権をどのように扱うかである。これについては,法的安定性や期待権の保護の見地から,既得権を保護すべしとする要請があり,これは遡及効(そきゆうこう)をもつ立法は避けるべきだという一般的要請等のかたちであらわれるが,それも絶対的なものではなく,とくに旧法と新法,旧解釈と新解釈の間に価値観の変化がある場合には,既得権が廃止されることも多い。
国際私法上は,一国で獲得した権利は他国もこれを尊重すべしとする既得権保護の原則が唱えられている。これについては,A国法からみて違法な仕方でB国で取得した権利をA国の裁判所が当然に保護すべきだとするのは,国際私法の原則からみて行き過ぎであるとして批判されている。とくに第三世界諸国は主権侵害として批判し,多国籍企業の国有化などに際しては論争点の一つとなる。
執筆者:長尾 龍一+長谷川 晃
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法的根拠に基づいて、すでに獲得した権利。近代自然法学者の一部は、私的所有権を自然法上の既得権であるとして、国家権力もそれを侵すことができないと説いたが、法実証主義、国家主義、社会主義などの立場から批判され、現在ではほとんど過去のものとなっている。実定法上、既得権をどのように扱うべきかは、法の改正や解釈運用に際して問題とされる。既得権保護の要請は遡及(そきゅう)効をもつ立法を避けるなどの形で現れるが、絶対的なものではなく、旧法と新法、旧解釈と新解釈との間に価値観の変化がある場合には、既得権が廃止されることも多い。
国際私法上、既得権をどのように解するかについて争いがある。一国で適法に取得された権利は他国もこれを尊重すべしとする原則が唱えられているが、A国法からみて違法に取得されたB国法上の権利を、A国の裁判所が当然に保護すべきであるとするのは行きすぎであるとして批判される。既得権保護の問題は、現在とくに第三世界の諸国における多国籍企業の国有化問題に関して争われている。
[長尾龍一]
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…アメリカ合衆国において,合衆国最高裁判所が既得権vested rightsの保護を重視していたことを示す例として,よく引かれる1819年の判決。ダートマス大学は,1769年にイギリス国王から特許状を受けて設立されたものであるが,1816年にニューハンプシャー州の議会は,法律でこの特許状の定めを変更した。…
※「既得権」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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