改定された「日米新ガイドライン」では、「日本有事」(日本に対する武力攻撃があった場合)に対処するために自衛隊と米軍が「共同作戦計画」を、また「周辺事態」(日本周辺地域における事態で日本の平和と安定に重要な影響を与える場合)に対処するために日米両政府が「相互協力計画」を、「平素から検討」するとしている。この二つの計画の検討は「周辺事態が日本に対する武力攻撃に波及する可能性のある場合又は両者が同時に生起する場合に適切に対応し得るよう」「整合を図る」ものと規定されている。
「共同作戦計画」については、自衛隊と米軍とがどのような軍事分担を行うかについての「基本的な考え方」「作戦構想」「作戦に係る諸行動及びそれに必要な事項」が定められた。
また、「相互協力計画」については、「周辺地域」で軍事行動をとる米軍に対して、3分野9機能40項目の対米協力を行うこととし、それを具体的に規定している。このなかには自衛隊の兵站(へいたん)協力、情報協力、船舶検査、機雷除去、捜索・救難活動などと並んで、国土交通省、警察庁など関係各省庁が関与して行う活動(2001年1月の中央省庁改編によって省庁の数は減ったが、実体に変更はない)、また地方公共団体、民間等が協力して行う活動が含まれている。
1998年1月20日、米国防長官、外務大臣、防衛庁長官の「日米安全保障協議委員会の構成員」による三者会談(東京)で、「ガイドライン」でその設置が定められていた「包括的なメカニズム」が発足した。この機構の任務は、
(1)「共同作戦計画についての検討」
(2)「相互協力計画についての検討」
(3)「準備のための共通の基準の確立」
(4)「共通の実施要領等の確立」
である。「包括的なメカニズム」には日米安全保障協議委員会、日米防衛協力小委員会のほか、新たに自衛隊と在日米軍、米太平洋軍によって構成される「共同計画検討委員会」(BPC)が設置され、また、「日米防衛協力のための指針の実効性の確保について」の閣議決定(1997年9月29日)に基づいて組織された「『指針』関係省庁局長等会議」が組み込まれた。なお、この会議のメンバーは、2001年1月6日からの中央省庁改編によって所属省庁は変化しても、メンバー(局レベル)の変更はない。この「包括的なメカニズム」の構成は「必要に応じて改善される」ことになっている。
これとは別に「緊急事態において各々の活動に関する調整を行うため」の「調整メカニズム」を「平素から構築しておく」とされていたものが、2000年9月11日にニューヨークで開催された日米安保協議委員会で正式に設置された。
この調整メカニズム(「日米間の調整メカニズム(BCM)」)は、軍事レベルのものとして「日米共同調整所」が、また、これと相互に調整・情報等交換を行うものとして、「日米合同委員会」(既存。地位協定の実施に関する案件を扱う)と「日米政策委員会」(新設。日米合同委員会の権限に属しない案件を扱う)両委員会の下部機構として「合同調整グループ」(ガイドライン・タスク・フォース/運営委員会)が新たに設置された。
この「合同調整グループ」は、日本側から安全保障・危機管理室、外務省、防衛庁(2007年以降は防衛省)、自衛隊、必要な場合には他の関係省庁の代表者が、アメリカ側からは在京アメリカ大使館、在日米軍の代表者から構成されている。これは課長レベルの実務機関である。
新「ガイドライン」は、旧「ガイドライン」合意以降約20年間にわたる自衛隊と米軍による軍事協議・研究および軍事演習の蓄積をふまえて策定されたものであって、日米の「共同作業」の焦点は軍事レベルから政治レベルにシフトしたといえる。また、新「ガイドライン」では、日米安保体制における日本の軍事分担が単に「日本防衛」のみならず、「周辺地域」(アジア・太平洋地域)における米軍の軍事行動に対する兵站支援、情報支援に拡大したといえよう。
[松尾高志]
新「ガイドライン」では「立法上、予算上又は行政上の措置」が「期待される」こととなったため、日本政府にとっては「共同作戦計画」と「相互協力計画」の実施を可能とする法整備が政治的に現実的な課題となった。このため、1999年(平成11)5月24日に、「周辺事態」における「相互協力計画」を実施するための、
(1)「周辺事態に際して我が国の平和及び安全を確保するための措置に関する法律」(「周辺事態法」)
(2)「日本国の自衛隊とアメリカ合衆国軍隊との間における後方支援、物品又は役務の相互の提供に関する日本国政府とアメリカ合衆国政府との間の協定を改定する協定」(「日米物品役務相互提供協定(ACSA(アクサ))改正協定」)
(3)「自衛隊法の一部を改正する法律」
が国会で可決され、成立した。
なお、この国会で積み残しとなっていた「船舶検査法」(周辺事態に際して実施する船舶検査活動に関する法律)が、2000年11月30日に成立し、「周辺事態」に対処する法整備は完結した。
「日本有事」の際の「日米共同作戦計画」を実施するための「有事法制」に関しては、2003年(平成15)6月に武力攻撃事態法、安全保障会議設置法、自衛隊法が、04年6月に外国軍用品等海上輸送規制法、米軍行動円滑化法、交通・通信利用法、国民保護法、国際人道法違反処罰法、捕虜等取り扱い法および03年に改正された自衛隊法がそれぞれ成立、改正され、いちおうの完成をみている。
[松尾高志]
『松尾高志編『平和資料 新ガイドラインと戦前有事法制』(1998・港の人)』