中国において,季節に応じて定められた令。ここにいう令は,法令,禁令,儀礼,祭祀,政務などの総称。《礼記(らいき)》月令(がつりよう)篇〈天子すなわち公卿太夫とともに国典を飭(ととの)え,時令を論じて以て来歳の宜(よろし)きを待つ〉にもとづく。旧中国では,自然と人間とは感応しあっており,宇宙の秩序と調和は人間のいとなみを自然のリズムに順応させることによってもたらされる,とする考え方があった。この時令思想の源流は農耕である。なぜなら農民は天体の運行や地上のもろもろの自然現象に留意して播種の時期などを決定せねばならなかったからである。《詩経》豳風(ひんぷう)七月の詩は,のちの漢の崔寔(さいしよく)《四民月令》の先駆をなす,素朴な農事暦である。たとえばその一節に歌う,〈四月には秀(みの)る葽(くさ)あり,五月には鳴く蜩(せみ)あり,八月にはそれ穫(と)りいれし,十月には蘀(かれは)の隕(お)つ〉。このような農事暦に陰陽五行説や天人相関説の呪術的な宇宙論などが結びつけられ,君主の治政に組みこまれたのが時令であり,《礼記》月令篇はその古典にほかならない。〈月令〉は春秋時代の作とされる《逸(いつ)周書》中の一篇としてつとに存在したが,その本文は失われて伝わらない。また,《呂氏春秋》十二紀篇に《礼記》月令篇とほぼ同文を収めるが,ここでは後者によってその一端を見てみよう。まず1年を12月に分かったのち,各月について(1)その月の太陽・星の位置,(2)陰陽五行論にもとづいた,日・帝・神・動物・音・律・数・味・臭・祭祀などの配当,(3)その月に現れる自然現象や動植物の活動,(4)以上に応じた天子の起居,飲食,衣服,道具,(5)および儀礼,政務,法令,農事などを記し,(6)その月にそむいた時令を行えば天変地異が生じる,と結ばれる。たとえば,冒頭の孟春(初春)の月の条にいう,〈日は営室にあり,昏(くれ)に参(しん)(星)中(ちゆう)し,旦(あした)に尾(星)中す。その日は甲乙,その帝は太皞(たいこう),その神は句芒(こうぼう),その虫は鱗,その音は角。律は大蔟(たいそう)に中(あた)り,その数は八,その味は酸,その臭は羶(せん),その祀は戸,祭るときは脾を先にす。東風 凍を解き,蟄虫(ちつちゆう)はじめて振(うご)き,魚 氷に上り,獺(だつ)魚を祭り,鴻鴈(こうがん)来る。天子 青陽の左个(さか)(部屋の名)におり,鸞路(らんろ)(馬車の名)に乗り,倉竜を駕し,青旂(せいき)を載(た)て青衣を衣(き)……孟春に夏令を行えば則ち雨水時ならず,草木蚤(はや)く落ち,国 時に恐れあり。秋令を行えば……〉。旧中国において,死刑などの刑罰を春夏(万物生成の時)に行わず,かならず秋冬(万物収斂(しゆうれん)の時)に執行する慣例があったのは,この時令思想にもとづいている。
執筆者:三浦 国雄
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
出典 平凡社「普及版 字通」普及版 字通について 情報
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