翻訳|tense
動詞にみられる文法的カテゴリーの一つで,動詞の表す行為・状態などを時間軸上にどう位置づけるかにかかわるものである。日本語で〈時称〉あるいは〈テンス〉とも呼ばれる。伝統文法では,話者の発話の時点を基準にしてそれを現在とし,前後を過去および未来とするシステムがたてられた。英語でjumped-jump-will(shall) jumpを過去形-現在形-未来形と呼ぶのもそれにならったものである。こうしたようにある時点を基準とする時制体系を絶対時制と呼ぶ。一方,英語の分詞構文や不定詞構文において,分詞,不定詞は主動詞との相対的な時間関係を示すだけであり,これは相対時制の一例である。
時制はあくまでも言語的カテゴリーであって,自然時timeを言語においてどう範疇化するかは,文化によりさまざまに異なった様相を見せる。中国語のようにそもそも時制というカテゴリーの存在しない言語もあれば,細分化された体系をもつ言語もある。時制の範疇が認められないといっても,そのことは当該言語が時間に関する表現手段をもたないということを意味するのではない。時間副詞その他の手段によってそれを行っているのである。したがってまた,現在・過去・未来という三分法も,決して絶対的なものでも普遍的なものでもないということができる。さきの英語の例でも,いわゆる未来形はwill,shallといった助動詞の助けをかりて迂言的に示されるのであり,純粋に形態上からはjumped-jumpの2系列の対立しか認められない。これは過去-現在,あるいはむしろ,過去-非過去と特徴づけられるものである。また未来形は一般に純粋に未来時の表現であるより,(叙)法mood的色彩を濃くもつ。
複雑な体系の例として,アフリカのバントゥー諸語に属するチョクエ語では,〈過去〉的な意味に四つの時制が区別されるのを挙げることができる。すなわち,(1)tu-na-lim-i〈私たちはたった今耕した〉,(2)tw-a-lim-anga〈私たちは今朝耕した〉,(3)tu-naka-lim-a〈私たちは昨日耕した〉,(4)tw-a-lim-ine〈私たちは昔耕した〉である。ここでlim-は〈耕す〉という意味の語根,tu-(tw-)は〈一人称複数=私たち〉を示す接頭辞であって,2番目と最後の要素の違いにより,〈直前-近過去-遠過去-さらに遠い過去〉が区別されるのである。
なお,時制はしばしば相aspect,(叙)法と密接な関係をもってあらわれる。
執筆者:柘植 洋一
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
文法的カテゴリーの一つ。英語でテンスtenseともいう。文表現の内容を時間の流れのどこかに結び付ける手段。言語により、動詞の語形変化によって示されることもあり、助動詞など動詞と結び付く別の語形によって示されることもある。
時制がさす時間は、発話時を中心とする現在時、その前の過去時、あとの未来時に3区分されるのが普通である。基準となる現在時は、瞬時からかなりの長さの時間まで伸縮自在であり、物理的に規定することはできない。文脈および動詞の意味の性質(瞬間動詞・状態動詞など)の組合せにより、さまざまの時間的状況をさす。ある言語が三つの時制を区別しているとしても、実際の用法では三つの時間帯と一対一の結び付きを示すとは限らない。現在時制で過去のできごとを描写する「歴史的現在」、過去時制で現在時についての想定を意味する「非現実用法」などがある。一般に現在時制は、時間とは直接に関係のない、一般的真理とか物事の手順をさすのに用いられるので、積極的に現在時をさすのではないと考えられる。
個々の言語の分析に際しては、日本語のように時制を認めるか否か議論が定まらない場合がある。つまり、時制のかわりに相(アスペクト)を示しているとし、ル形は未完了、タ形は完了を示すという説がある。英語では、時制は認められ、過去時制と非過去時制はあるが、未来時制を認めるか否か議論が定まっていない。中国語北京(ペキン)方言のように、はっきり時制はないといえる言語もある。
実際の用法ではいくつかの語形を組み合わせて、細かい時間表現をすることがある。シタトコロダで近接過去、シテイルトコロダで現在進行、スルトコロダで近接未来を表せる。それとは別に、スルという現在時制あるいは未完了相が話者の意志という「法」(ムード)的意味を伴うというようなこともある。
[国広哲弥]
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… 江戸時代末期となり,定時法で時刻を示す西洋機械時計が安い値段で数多く輸入されて普及し,また一方では定時法を使用していた外国との交渉が増加するにつれて,不定時法を使用していては何かと不都合が起こるようになり,1873年,太陽暦が採用されるとともに時刻法も1日,24時間の定時法が採用された。【橋本 万平】
[現代の時刻制度]
日本で〈定時法〉による標準時制度が始まったのは明治6年(1873)1月1日である。明治5年11月9日の太政官布告により,太陰暦が廃止され新たに太陽暦が採用された。…
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