時調(読み)じちょう

精選版 日本国語大辞典 「時調」の意味・読み・例文・類語

じ‐ちょう‥テウ【時調】

  1. 〘 名詞 〙 朝鮮歌曲の一様式。詩を朗詠歌唱するため、詩調ともいう。宮廷上流階級遊宴に用いられた俗楽で、詩の内容は英雄烈士をうたったものや、太平を賛美したものが多い。

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改訂新版 世界大百科事典 「時調」の意味・わかりやすい解説

時調 (じちょう)

朝鮮の代表的な歌謡形式。朝鮮語ではシジョsijoという。日本の短歌(和歌)に似た面があり,短歌ともいう。形式は郷歌の形式の一部分を短縮したもので,初章[3・3 3・3],中章[3・3 3・3],終章[3・5~9・4~5]。初章・中章では3・3を3・4ないし4・4などに移動できるが,終章の3は厳守する。郷歌から派生しただけに発生が古く,長い年月にわたって綿々と歌い継がれて今日に及び,現在も韓国では詩壇の一角に確固たる地位を占めている。今日伝わる時調のうち最も古い作品は三国時代のものである。作者は王侯貴族から庶民に至るまでの幅広い層を網羅している。とくに秀れた歌人に高麗の禹倬,李兆年,李朝の宋純,鄭澈(ていてつ),尹善道いんぜんどう)などがいる。女性歌人には妓生(キーセン)の出身が多く,なかでも黄真伊(こうしんい)は珠玉のような佳句を残し今日まで愛唱される。

 李朝後期になって平民文学が台頭すると,時調も平民のあいだで盛んに作られ,その結果知識層の歌人の作品とは一風変わった様相を呈するようになった。まず形式面で従来の定型を破った,より長く自由な形式に仕上げており,これらを〈オッ時調〉〈辞説時調〉と呼ぶ。詩想面では,両班(ヤンバン)たちの作品が観念的で倫理的な内容であるのとは違い,大胆率直,官能的な内容に滑稽味をまじえ,写実的であり,ほとんど日常生活に即した題材を扱っている。英祖朝(1725-76)の音楽家,李世春は新しく時調を歌えるように曲を作った。従来は朗詠するだけであったのが,この新曲を得て当時の人々は喜んで歌う方向へと目を向け,以後は時調を作るよりも既作の歌を歌唱する風潮が起きた。〈短歌〉という呼称もこのころから時節歌調をつづめた〈時調〉(時の新しい調べの意)へと変わっていく。この時期には多数の歌手が生まれ,彼らは私設音楽所を設けては後輩を養成するようになり,教材の必要から《海東歌謡》《青丘永言》《歌曲源流》などの歌集が撰集された。
朝鮮文学
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「時調」の意味・わかりやすい解説

時調
じちょう / シジョ

朝鮮固有の定型詩。三章六句体、45字内外で構成される。音律数は三・四調または四・四調が基本となるが、1音節または2音節程度の加減は許される。しかし、終章の初句はかならず3音節に、また第二句は5音節以上と決められている。これを基本形として、第二章(中章)を伸ばした中時調、長時調があるが、終章の形式は守られている。時調の淵源(えんげん)は、新羅(しらぎ)時代の郷歌(きょうか)に求める説もあるが、一般的には高麗(こうらい)末に始まるとされている。朝鮮独特の文芸ジャンルとして、日本の短歌のように今日もなお生き続けている。初めは詩余、長短歌、新翻などとよばれていた。

 時調という名称が使われたのは18世紀ごろで、「時節歌」または「節歌調」、つまり当代の流行歌調という意味であった。したがって時調は、文学ジャンルの名称というよりは音楽の曲調の名称で、それがいつのまにか定型詩の名称に転じた。内容としては懐古歌、忠節歌、恋君歌、逃避棄世歌など多様であるが、花鳥風月や男女の恋愛を歌ったものがとくに多い。「涙にとどむるその袖(そで)を 君うち払い行くなかれ/眼界(まなじ)はるけきかの土手に 日の暮れはつる旅の空/うつろ旅籠(はたご)のともしびを かかげて坐(ざ)せば淋(さび)しきに」(李(り)明漢作、田中明訳)。李朝中期以後『青丘永言』『海東歌謡』『歌曲源流』などの時調集が編纂(へんさん)され絶頂に達した。作者は国王から妓女(ぎじょ)、庶民に至るまで幅が広い。

[尹 學 準]

『若松実編・訳『韓国の古時調』(1979・高麗書林)』『尹學準著『時調――朝鮮の詩心』(1978・創樹社)』

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「時調」の意味・わかりやすい解説

時調
シジョ
sijo

朝鮮の定型短詩。高麗王朝の末頃 (14世紀末) 形式が完成したと推定される。1首が3章から成る定型詩で,基本形は1章が4単位,破格形は4単位以上。1単位はだいたい3~4字で構成される。ただし,第3章の第1単位はほとんど3字で固定され,第2単位は5字以上。 17世紀末までは基本形の平 (ピョン) 時調が多く,両班 (ヤンバン) 階級の学者,文人が即興的に感懐をうたったものが主であったが,その後金天沢,金寿長ら平民出身の時調作家が輩出した。作風も道学的,観念的なものから,写実的で諧謔的,享楽的になり,形式も破格形であるオッ時調 (中型時調) ,辞説 (サソル) 時調 (長型時調) が多くなる。

時調
じちょう

時調」のページをご覧ください。

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百科事典マイペディア 「時調」の意味・わかりやすい解説

時調【じちょう】

朝鮮の古典詩歌の形式の一つ。高麗末から李朝時代初期に始まったとみられる。3・4・3・4の音節単位を3個重ねた短歌と呼ばれるものが中心だが,後にはさらに長く続けた〈辞説時調〉も現れた。形式はさほど厳密ではない。主に酒宴の席で歌われ,内容は支配階層の朱子学的理念に基づいたものが多く,男女の愛情を歌ったものは少ない。
→関連項目キーセン(妓生)

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普及版 字通 「時調」の読み・字形・画数・意味

【時調】じちよう

時勢。

字通「時」の項目を見る

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世界大百科事典(旧版)内の時調の言及

【朝鮮音楽】より

…17世紀後半になると唐楽はしだいに郷楽化し,郷楽は発展し変化しながら栄えた。18世紀にいたると,時調や詩文学の繁栄に伴い,歌曲の歌辞(詞),時調と呼ばれる芸術的な声楽が確立し,民衆の中では,パンソリと呼ぶ語り物音楽が発達し,多くのパンソリの名歌手が出現した。一方器楽にも〈散調(さんぢよう)〉という独奏楽器のための楽曲形式がおこり,宮廷音楽も含めて,器楽も声楽も民族音楽の大成期を成した。…

【朝鮮文学】より

…まず詩歌の幕開きは〈楽章〉と呼ばれる歌体で,典型的作品に《竜飛御天歌》《月印千江之曲》がある。郷歌以来の朝鮮固有の歌謡形式を踏襲し短縮した〈時調〉は高麗末に形式が完成するが,李朝の代表的詩歌となった。17世紀末ころまでは学者の即興詩的な色彩が強く,作風も道徳的で観念的であるが,金天沢,金寿長らの平民作家が輩出し,写実的で諧謔的,享楽的になり,形式も短型の〈平時調〉から中・長型の〈オッ時調〉〈辞説時調〉の破格型が生まれた。…

※「時調」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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