天皇が年の初めに太上天皇,皇太后の宮に行幸して,正月のあいさつをすること。朝覲行幸ともいう。朝覲は本来は諸侯が天子に拝謁する意。多くは正月2日または3,4日を用いるが,吉日を選ぶこともあり,一定していない。嵯峨天皇の809年(大同4)8月を起源とするが,これは正月でなく,正月の行事としては仁明天皇の834年(承和1)をはじめとする。850年(嘉祥3)正月4日の例では,天皇は母后の橘嘉智子に朝覲のため冷泉院に行幸し,小雪降る北風の寒いなかに天皇が階下にひざまずき,また還るとき階下より鳳輦(ほうれん)に召すようにとの母后の命を天皇は固辞したが,左右大臣が〈礼は敬のみ,命の如くせしめ給ふべき〉と言上し,天皇は御簾の前にいたり,北面してひざまずき,階下に輦を寄せて,殿を下り輦に乗ったという。《続日本後紀》では,これを〈孝敬之道,天子より庶人に達す〉と記しており,この儀には孝道思想のあらわれがあるといえよう。中断はあったが江戸時代までみられた。
執筆者:山中 裕
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
出典 平凡社「普及版 字通」普及版 字通について 情報
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