(読み)クイ(その他表記)pile

翻訳|pile

デジタル大辞泉 「杭」の意味・読み・例文・類語

くい〔くひ〕【×杭/×杙/株】

(杭・杙)地中に打ち込んで支柱目印にする棒。
切り株。くいぜ。
「(大象ガ)足に大きなる―を踏み貫きたり」〈今昔・五・二七〉
[類語]棍棒ポールバー棒杭棒切れ延べ棒丸太丸太ん棒竿

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精選版 日本国語大辞典 「杭」の意味・読み・例文・類語

くいくひ【杭・杙・株】

  1. 〘 名詞 〙
  2. くいぜ(株)」の略。
    1. [初出の実例]「法師らが鬚の剃り杭(くひ)馬つなぎいたくな引きそ法師は泣かむ」(出典:万葉集(8C後)一六・三八四六)
  3. ( 杭・杙 ) 地中に打ち込み、または埋め立てて、目印や支柱などにする木、鉄、コンクリートなどの棒。くえ。
    1. [初出の実例]「朝猟に 汝夫(なせ)が通りし 橋の前 久比(クヒ)を宜しみ」(出典:琴歌譜(9C前)七日あゆだ振)
    2. 「庭にくひどもうちて、据ゑわたしたり」(出典:宇治拾遺物語(1221頃)一)
  4. ( 杙 ) ( 「とき(時)の杙(くい)」の略 ) 中古、宮中で時刻を知らせる札をささえるために立てた杙。
    1. [初出の実例]「時のくひさす音などいみじうをかし」(出典:枕草子(10C終)二九〇)

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「杭」の意味・わかりやすい解説


くい
pile

構造物の荷重支持地盤に伝えるために設置する柱状の地中構造体。通常、上部構造からの荷重は杭頭に伝達され、杭周辺あるいは杭先端部から地盤に支持される。基礎杭のほか各種用途に利用され、使用目的により土止め杭、抑止杭、防衝杭など種々の呼称がある。近年、施工技術の進歩に伴い大径、長尺杭の施工が可能となり、直径数メートル以上の大断面の杭も施工されている。

 荷重の支持機構により支持杭摩擦杭とに大別される。支持杭は、杭先端部が十分な支持力のある良質な地層に根入れされているものをいう。これに対して杭先端が良質な支持層に達せず、主として杭とその周辺の土との摩擦抵抗力によって荷重を支えるものを摩擦杭という。また、水平荷重に対して設計上柔らかな弾性材として扱えるものを杭といい、剛体に近い挙動を示すものはケーソンcaissonとして区分される。したがって、大径杭になると、施工はケーソンと同様な工法をとりながら、設計上は杭として分類されることもある。杭本体を構成する材料あるいは施工法により分類すると、既製杭と場所打ち杭とに大別され、さらに既製杭は打込み杭と埋込み杭とに分けられる。

[河野 彰・清水 仁・鴫谷 孝]

既製杭

コンクリート杭には、鉄筋コンクリート杭プレストレストコンクリート杭、高強度プレストレストコンクリート杭、およびコンクリート杭と鋼杭の中間的なものとしての鋼管コンクリート合成杭などがある。断面形状はいずれも円形中空が一般的である。鋼杭はパイプ状の鋼管杭とH形断面のH杭とに大別されるが、日本では鋼管杭が多用される。地盤沈下に伴い杭に作用する下向きの摩擦力(ネガティブフリクションnegative friction)による杭の破損を防止するために、特殊なアスファルト表面処理を施した杭も製作されている。打設方法には、打撃または振動により打ち込む方法と、地盤に穿孔(せんこう)して挿入するなどの方法により杭を埋設する埋込み杭工法とがある。

[河野 彰・清水 仁・鴫谷 孝]

場所打ち杭

あらかじめ地盤中に孔(あな)を掘削し、その孔の中に現場打ちコンクリートを打ち込み築造する無筋、鉄筋あるいは鉄骨コンクリート杭。場所打ち杭の初期のものとして、明治末期から大正期にかけてペデスタルpedestal杭などの打撃貫入式の場所打ち杭が導入され、その後30余年にわたって使用された。1950年代以降、各種の機械掘削式大口径場所打ち杭工法が相次いで導入、開発され、急速な発展を遂げ今日に至った。1930年(昭和5)ごろから用いられてきた人力掘削式の深礎工法は、特殊な設備や機械を必要とせず、掘削地盤を直接確認しながら施工できるなどの利点があり、いまなお条件に応じ広く使用されている。

[河野 彰・清水 仁・鴫谷 孝]


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改訂新版 世界大百科事典 「杭」の意味・わかりやすい解説

杭 (くい)
pile

目印や支柱の長い棒,あるいは木の切株という意味もあるが,土木や建築など工学の分野では,地中に鉛直あるいは斜めに打ち込み,上部構造物を支えたり,あるいはこれに加わる鉛直もしくは水平方向の力に抵抗する基礎工事用の構造部材をいう。杭の支持機構からは,杭先が岩盤などの十分な支持力のある支持層まで達していて,杭の支えている荷重の大部分が杭先から支持層に伝達される支持杭と,杭先が支持層まで達しておらず,杭とその周りの摩擦によって荷重を周辺の地盤に伝達する摩擦杭に大別されるが,実際の杭はこの両方性質を兼ね備えたものが多い。杭の支持力は地盤の良否,杭の寸法,打込み時の貫入量などで推定するが,載荷試験で定めるのが確実である。なお,地盤沈下の際には杭を下向きに引き込む方向に摩擦力が作用するため杭も沈下するが,これは杭に特殊アスファルトを塗布して防ぐことができる。

 軟弱な粘土地盤の改良の際に用いられる砂杭(サンドパイル)などの特殊なものもあるが,杭の材料としては,木,コンクリート,鋼などが一般的である。木杭は非常に古くから用いられてきたが,腐食や木材資源の枯渇の問題から現在ではあまり用いられていない。コンクリート杭はその製造方法から工場または現場で製作されてから地中に貫入する既製コンクリート杭と,地中に掘削した穴に鉄筋コンクリートを打設して作る場所打杭とがある。既製コンクリート杭には鉄筋コンクリート杭(RC杭),プレストレストコンクリート杭(PC杭),高強度コンクリート杭(AC杭)などがあり,直径は通常30~60cm,許容支持力はおよそ15~120tである。日本では1930年代にRC杭が利用されたのが最初である。場所打ちコンクリート杭が日本に導入されたのは60年ごろで,その施工法には多くの種類がある。原則として杭打機で打ち込まれる既製杭に比べ,施工時の騒音や振動が少ないという利点がある反面,施工中の穴の崩壊の危険性,完成した杭を直接目で確認することができないなどの欠点もある。通常,直径80~150cm,許容支持力100~300tである。鋼杭は鋼管を用いた鋼管杭とH形鋼を用いるH形鋼杭に大別される。日本で本格的に採用されたのは60年以降である。鋼杭は軽くて強いので,硬い地層に打ち込むのに適しており,地震などの水平力に対しても大きな抵抗力をもっている。腐食に対して弱い欠点があるが,耐久性として数十年以上は期待できる。鋼管杭はおよそ直径50~120cm,長さ30~50m,許容支持力100~250tのものが多く使用される。鋼杭は矢板として利用されることも多い。なお既製杭の施工には杭打機のハンマーの打撃で打ち込む方法(打込杭)と,あらかじめ穴を掘るか,あるいは杭の中空部を通じて土を掘りながら設置する方法(埋込杭)があり,後者はハンマーの打撃による振動や騒音は軽減されるが支持力は低い。
基礎
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普及版 字通 「杭」の読み・字形・画数・意味


人名用漢字 8画

[字音] コウ(カウ)
[字訓] わたる・ふね・くい

[字形] 形声
声符は亢(こう)。亢は頏(のど)のように亢直の状態にあるものをいう。その形の舟を航、その船で水を渡ることを杭という。〔詩、衛風、河広〕「一(あし舟)之れを杭(わた)る」はその意。〔広雅、釈詁二〕に「渡るなり」とみえる。わが国では杙(くい)の意に用いる。弋がその象形の字である。

[訓義]
1. わたる、わたし舟でわたる。
2. ふね、わたし舟。
3. 国語で、くい。

[古辞書の訓]
〔名義抄〕杭 タクラブ・アグ・ヨル・コバム・ムカフ・キハマル 〔字鏡集〕杭 ヘダツ・ヨシ・アタ(グ)・カタ・オホフ・キハマル・コバム・ヨル・ムカフ・ナラフ・タクラブ・スクフ・スクヨカ

[語系]
杭・航hangは同声。航は方版、あるいは両小船を並べて渡る意で、いわゆる方舟をいう。

[熟語]
杭絹・杭紗・杭絶・杭筏

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「杭」の意味・わかりやすい解説


くい
pile

構造物を固定したり支持したりするため,地盤中に打込む棒状のもの。杭の種類としては,その設置方法から打込みによるものと穿孔によるもの,製造方法から既製杭 (木杭,鉄筋コンクリート杭,PC杭,鋼管杭,H形鋼杭など) と,鉄筋コンクリート杭などの場所打杭 (→場所打コンクリート杭 ) に分けられる。また,鉛直荷重の支持機構から強固な支持層に荷重を取らせる支持杭と,杭全長の周面摩擦力で荷重を取らせる摩擦杭とに分けられる。

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百科事典マイペディア 「杭」の意味・わかりやすい解説

杭【くい】

地中に打ち込んで構造物の支持や土留めに使用する構造部材。木材,コンクリート,鉄筋コンクリート,鋼材等が用いられる。支持の機構からは,堅い地盤に打ち込む支持杭と,地盤の摩擦力を利用する摩擦杭とに分けられるが,実際の杭では両方の性質を兼ね備えたものが多い。
→関連項目杭打機

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