(読み)ぼう

精選版 日本国語大辞典 「棒」の意味・読み・例文・類語

ぼう【棒】

〘名〙
① 細長くて、手に持って振りまわすことができるくらいの木・竹・金属製などのもの。
※百座法談(1110)三月一日「鉄のはうをささけて閻摩王の門前にいてて」 〔魏書‐爾朱栄伝〕
② 樫(かし)などの堅い木を六尺(約一・八メートル)ぐらいの長さに細長く削って武具としたもの。また、それを使う武術。棒術。
※太平記(14C後)一七「樫の棒(ボウ)の八角に削たるが」
近世、辻番・自身番につめる者が持った長さ三尺(約九〇センチメートル)ぐらいの木。三尺棒。また、明治の初めころの巡査が持った三尺ほどの警棒。
※雑俳・柳多留‐初(1765)「棒の中めんぼくもなく酔は醒」
④ 本来折れたり曲がったりするものが、かたくつっぱってしまうこと。特に足についていい、疲れたりして足の関節の自由がきかなくなってしまうこと。また、その足。
※雑俳・川傍柳(1780‐83)四「下戸の礼棒であるひて帰る也」
⑤ 真直ぐに引いて描いた線。
※道草(1915)〈夏目漱石〉三六「『本月二十三日』丈に棒(ボウ)が引懸けて消してある上に」
⑥ 俳諧・狂歌用語。俳諧師狂歌師が門人の作に点をつけるとき、点に値しない駄作に棒をひいたこと。転じて、下手。駄目。
洒落本・仕懸文庫(1791)二「おぢい、おつるもくびは想応だが、一っかふな棒(ボウ)だぜ」
⑦ 折れたり、まがったりせず、真直ぐであること。単調で変化のないこと。紆余曲折(うよきょくせつ)のないこと。
※人蟻(1960)〈高木彬光〉公式捜査の第一歩「この株はこの一月ぐらいで、百円近く棒にあげました」
⑧ 「めんぼう(麺棒)」の略。
※雑俳・柳多留‐七四(1822)「棒でうつ物とは見えぬ蕎麦の花」
[補注]従来、歴史的仮名遣いは「ボウ」とされているが、鎌倉・室町時代の資料によって「バウ」であるとする説もある。

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デジタル大辞泉 「棒」の意味・読み・例文・類語

ぼう【棒】[漢字項目]

[音]ボウ(呉)
学習漢字]6年
細長い木や金属。「棒術相棒あいぼう片棒金棒かなぼう警棒棍棒こんぼう心棒打棒痛棒鉄棒綿棒麺棒めんぼう針小棒大用心棒
棒で打つ。「棒喝」
まっすぐに描いた線。「棒線
一本調子であるさま。「棒暗記
[難読]篦棒べらぼう棒手振ぼてふ

ぼう【棒】

まっすぐで細長い木・竹や金属製のものなど。「でたたく」「天秤てんびん
棒術。また、棒術に使う長さ6尺(約1.8メートル)ほどの丸いカシの木。「使い手
音楽の指揮棒。「を振る」
まっすぐ引いた太い線。「不要な字句で消す」
疲れなどで足の筋肉や関節の自由がきかなくなること。「足がになる」
[類語]棍棒ポールバー棒杭棒切れ延べ棒丸太丸太ん棒竿

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「棒」の意味・わかりやすい解説


ぼう

人類史上の非常に長い期間にわたり、棒は人間の用いた木質素材の大部分を占めた。大直径樹木の伐採と大体積木材の成形は石器時代には困難であった。金属器時代に入っても、加工用具(とくに鋸(のこぎり))の製造技術が発達し、材木市場が充実するまでは、大体積木材の取得、成形には庶民の手が届かず、得やすい枝、小さな木の幹に手を加えた棒を多目的に利用するのが普通だった。世界の諸民族の少なからぬ部分が、長い棒を縄で縛り合わせた骨組と泥、石、小枝、枯れた草などの入手の容易な素材を組み合わせた住居に住み、棒の原料などを燃やして加熱した食物を同じ燃料で焼成した土器で食べたのは、大直径の材木、大量の薪(まき)を利用しにくかったからである。人類の文化を発展させた道具はその発生から、たたく(槌(つち)類)、切る(ナイフ、斧(おの)など)、削る(鑿(のみ)、丁斧(ちょうな)など)、穴あけ(錐(きり)など)、押さえる(鋏(はさみ)類)などの定型化した道具に至るまで、手でつかむ部分を棒でつくるのが原則だった。加熱処理した尖頭(せんとう)部とドーナツ型重り石をつける部分を両端とするタイプを原型とする「掘棒(ほりぼう)」(豆植え棒など)、シードビーター(扱箸(こきばし)、豆打ち棒など)、調理用の棒(こね棒、すりこぎなど)は採集文化から出現し、農耕文化では鍬(くわ)、鋤(すき)、鎌(かま)などの刃をつけた棒状農具が加わった。棍棒(こんぼう)、槍(やり)、刀剣、銛(もり)、矢などの刃をつけた棒型具、棒を利用したわな類は狩猟・漁労用具、武器として発達した。宗教的象徴にも利用された牧畜用の杖(つえ)は、棍棒または尖頭器のない槍の変形だろう。皮革、藁(わら)などの繊維製品材料や繊維製品自体を調整するたたき棒、糸を紡ぐ錘(つむ)、織布用の梭(ひ)なども重要な棒状用具である。採集狩猟で得た食糧も運んだ掘棒、槍を原形とする陸上運搬用の棒は、車の発達しなかった地域では発達し、日本では天秤(てんびん)棒を用いた零細商業の「棒手振(ぼてふ)り」、駕籠(かご)(乗り物)の進行方向を決める「先棒かつぎ」などの慣用句が生まれた。

 宗教的支配者が手にした神権的象徴としての棒は、古代エジプトの宗教をはじめとする多数の制度的・国家的宗教の重要呪物(じゅぶつ)だった。男性の象徴としての棒に特別な意味を考え、増産儀礼に用いる文化も少なくなかった。日本では、先史時代の石棒に性的象徴性が予想され、民俗例では小(こ)正月行事に用いる多様な祝い棒(嫁打ち棒、粥掻(かゆかき)棒など)に同様の性的呪力があるとされた。

[佐々木明]

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改訂新版 世界大百科事典 「棒」の意味・わかりやすい解説

棒 (ぼう)

棒は棒切れと呼ばれるごとく,手近に得られる木材を主としてさすが,道具を身体の延長と考えると,棒はまず手の延長となり民具として実用的に使用される。これには武器としての棒も含まれる。次に,棒には象徴的な意味があり,神霊の依代や祝棒となるほか樹木崇拝や柱の信仰などとも関連する。

 民具としての棒には主として突く,打つ,支える,延ばす,かつぐなどの機能がある。豆をまく際に植え穴をあける〈豆植え棒〉,麦の脱穀に用いる〈クルリ棒〉,人や物を支える〈杖〉や〈てんびん棒〉,食品加工に用いる〈こね棒〉や〈麵棒〉などが代表であるが,このほか農具の〈掘り棒〉〈わら打ち棒〉〈豆打ち棒〉,運搬具の〈梶棒〉〈荷い棒〉〈荷杖〉,食品加工具の〈すりこぎ〉など枚挙にいとまがない。また積雪期の野兎狩りに投げ具として使うバイ(棒)は文字どおり棒切れであり,ツグラの下にあてる〈ゆすり棒〉やかご編みなどの型に使う〈輪棒〉,運搬用の〈コロ〉や〈車輪〉は棒のもつ丸みや回転性を利用したものである。このように,棒といってもその形態はいわゆる棒状でないものも多い。

 杖は棒の使用の一例だが,なかには背負い梯子の横木を支えて休止する荷杖ともなるようにくふうされたものもある。弘法大師,西行法師など旅の高僧や貴人が杖をさしたのが根づいたという杖桜などの杖立伝説も各地にある。さらに,来訪神が託宣や祝福に訪れる際に携えてくる杖も,呪力ある棒の一例である。棒は最も原始的な武器の一つとされるが,愛知県尾張地方には〈棒の手〉と呼ばれる民俗芸能がある。農民の自衛武術にはじまるとする説と神事芸能に発するという両説があるが,いずれにせよ,この地方の〈馬の塔〉祭礼の警固役として行われている。こうした棒の象徴的な使用の民俗例は,小正月行事に豊富にみられる。小正月の祝棒の多くはヌルデやヤナギで作られ,ホタキ棒とか鳥打ち棒などと呼ぶ地方もある。この祝棒で果樹を打つ〈成木責め〉,子どもたちが唱え言をいいながら嫁の尻を打つ〈嫁打ち棒〉〈嫁孕(はら)み棒〉などいずれも棒のもつ増産の呪力がその背景にある。また,粥占をするのに使う〈粥かき棒(粥杖)〉も小正月の祝棒の一例で,削掛けの系統をひくものである。

 諏訪の御柱(おんばしら)祭と同様に,棒を大地に立てる場合には,とくに神の依代や世界樹として観念され,やがてこれが装飾化されて山鉾,幣束,旗ざおなどとなり,天と地,神と人を結ぶものの象徴と考えられていくのである。
祝棒 → →棒踊
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