デジタル大辞泉
「杵」の意味・読み・例文・類語
き‐ね【×杵】
《「ね」は接尾語》
1 臼に入れた穀物などをつくための、木製の道具。脱穀や餅つきなどに用いる。
2 紋所の名。1をかたどったもの。
き【×杵】
きね。
「此の粉舂の女ども、此の音を聞きて、―と云ふ物を提て」〈今昔・二六・二三〉
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き‐ね【杵】
- 〘 名詞 〙 ( 「き(杵)」に、「はね」などと同じ「ね」の付いたもの )
- ① 臼の中に入れた穀物をついて、殻を除いたり、餠をついたりするのに用いる木製の道具。中細、打ち杵など数種ある。き。
- [初出の実例]「杵 昌与反 訓岐禰」(出典:新訳華厳経音義私記(794))
- ② 紋所の名。①をかたどったもの。丸に一つ杵、違い杵などがある。
丸に一つ杵@違い杵
- ③ ( 女性の性器を臼にたとえるのに対して ) 男性の性器をいう俗語。
- [初出の実例]「今の女の尻は去年までは柳で居たっけが、もう臼になったア。どふでも杵(キネ)にこづかれると見へる」(出典:滑稽本・東海道中膝栗毛(1802‐09)初)
- ④ 「きねや(杵屋)[ 二 ]」の略。
- [初出の実例]「七種を娘は杵でたたいてる」(出典:雑俳・柳多留‐一四五(1837))
き【杵】
- 〘 名詞 〙 きね。造語要素のように用いられることが多い。
- [初出の実例]「此粉舂(こつき)の女共、此の音を聞て杵(き)と云物を提て、有限り走り上て見ければ」(出典:今昔物語集(1120頃か)二六)
杵の補助注記
「古事記‐下・歌謡」に「い岐(キ)づきの宮」、「出雲風土記‐出雲」に「杵築(きづ)きたまひき。故、寸付(きづき)といふ」の例が見られる。
しょ【杵】
- 〘 名詞 〙 仏語。古代インドの武器。密教では、煩悩(ぼんのう)を砕く菩提心の表象として用いる。金属製の手で握れるほどの大きさで、形は細長くて手杵(てぎね)に似ている。金剛杵(こんごうしょ)。
- [初出の実例]「真言秘法を弘通し給。然ば五畿七道・六十六箇国、二の島にいたるまでも鈴をとり杵(ショ)をにぎる人たれかこの末流にあらざるや」(出典:日蓮遺文‐本尊問答抄(1278))
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普及版 字通
「杵」の読み・字形・画数・意味
杵
人名用漢字 8画
[字音] ショ
[字訓] きね・きぬた
[説文解字]
[字形] 形声
声符は午(ご)。午に(卸)(しや)の声がある。午は杵の形で杵の初文。〔説文〕六上に「舂(うすつ)く杵なり」という。舂・秦の字の上部は、午(杵)を両手でもつ形である。午は古く呪具ともされ、は杵を拝する形で、(御)・禦の初文。また楯(たて)の形で楯の意に用い、〔書、武成〕「血れて杵を漂(ただよ)はす」の杵は櫓、すなわち盾の意である。
[訓義]
1. きね。
2. きぬた、きぬたのつち、つち。
3. たて。
[古辞書の訓]
〔名義抄〕杵 キネ・ツチ 〔字鏡集〕杵 キネ・タテ・ツク・ツチ
[語系]
杵thjiaは舂sjiong、秦dzienの字に午を含む関係があり、みな杵を用いることをいう。
[熟語]
杵歌▶・杵臼▶・杵声▶・杵砧▶・杵土▶・杵頭▶
[下接語]
衣杵・倚杵・遠杵・寒杵・臼杵・急杵・挙杵・玉杵・舂杵・杵・築杵・砧杵・杵・漂杵・夜杵・薬杵・乱杵・両杵・弄杵
出典 平凡社「普及版 字通」普及版 字通について 情報
杵
きね
臼(うす)と対(つい)になって穀物の脱穀、精白、製粉や餅搗(もちつ)きに使う道具。みそをつくるときに煮た大豆を搗きつぶすのにも使う。杵の古語はキで、のちにキギ、キゲ、キノ、キネ、テキギなどとよぶようになった。構造的には竪杵(たてぎね)と横杵に大別でき、その使用には腕力によるもの、脚力によるもの、水力によるものなどがある。木の杵が一般的であるが、石の臼には石の杵が使われる場合もある。竪杵というのは、丸太の中ほどを手で握れるくらいの太さに削り、ここを持って上下に動かして臼の中のものを搗く。この型の杵は銅鐸(どうたく)に描かれたり、奈良県唐古(からこ)遺跡、静岡県登呂(とろ)遺跡からも出土しており、横杵より古いものである。竪杵は、のちに横杵にかわり、使用が少なくなったが、みそ豆搗きや焼米(やきごめ)搗き、餅の搗き始めには、最近まで丸棒状の竪杵が使われた。水力を利用する水車の杵も構造的には竪杵である。横杵というのは、杵にほぼ直角に横木(柄(え))をつけたもので、手で柄を持って使うものと、踏臼(ふみうす)(唐臼(からうす))といって足で横木を踏んで杵を上下させるものがある。横杵といえば一般的には前者をさすが、これには杵の先端が平らな餅搗き用のものと、凹形になった精白用のものがある。横杵による精白には、穀粒が循環するように、杵よりやや大きめの藁(わら)製の輪を臼の中へ入れることもある。
杵は臼とともに呪(じゅ)的な意味ももち、杵を男性、臼を女性に見立てた民俗がある。たとえば花嫁が婚家に入るときに、門口で杵をまたぐなどの民俗がある。
[小川直之]
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杵【きね】
臼(うす)とともに穀類の脱穀・精白・製粉に用いる道具。竪(たて)杵と横杵に大別され,直角につけた長い柄(え)を両手で持ち,上下してつく米搗(つき)杵,柄の両端に小杵をつけた麦搗杵,臼を地面に埋め,板の一端に杵をつけ他端を踏んでつく踏搗杵などがある。石臼と石杵の使用は新石器時代以前にさかのぼるが,日本では稲作文化の渡来とともに石臼(木臼)と木杵の組合せが普及。現在も農山村では餅つきやみそつきに使用されている。→農具
→関連項目版築
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杵
きね
穀物,木の実および芋類を脱穀,製粉するため,あるいはすりつぶすために臼 (搗・竪臼) と対で使われる道具。竪杵と横杵の2種があり,竪杵のほうが古くて,広い地域で用いられている。農耕の発生とともに各地に出現した。日本では弥生時代の唐古遺跡やその他の遺跡から竪杵の典型的なものが出土している。また杵を使用しているさまが銅鐸にも描写されている。
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出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
きね【杵】
臼(うす)で穀類やもちなどをつくのに用いる道具。丸木の横に長い柄を差し込んだ形の横杵が一般的だが、古くは丸木の中ほどを細くして握りとした竪杵(たてぎね)が広く用いられた。
出典 講談社食器・調理器具がわかる辞典について 情報
世界大百科事典(旧版)内の杵の言及
【河岸】より
…江戸時代に河川や湖沼の沿岸にできた川船の湊。古代~中世には船をつなぐために水中に立てる杭・棹を〈かし〉といい,牱または杵と表記した。船に用意しておき,停泊地で水中に突き立てて用いた(《万葉集》1190)。…
【臼】より
…臼という漢字は,その形からきている。そのとき搗く棒を杵(きね)という。また,搗き砕くのではなくて,磨(す)りつぶす方が砕けやすいこともある。…
※「杵」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」