(1)狂言の曲名。《棒縛》と書く。太郎冠者狂言。大蔵,和泉両流にある。主人は,いつも自分が外出したすきに,2人の召使い,太郎冠者と次郎冠者が盗み酒をすることに気づき,ある日一計を案じ,太郎冠者の両腕を左右に広げたまま棒に縛り,次郎冠者は後ろ手に縛ってから外出する。残された2人は,やはり酒が飲みたくなり,苦心の結果,不自由な格好のまま大盃に酒をくみ,互いの口まで運んで飲むという,珍妙な酒盛りを始め,歌舞に興ずるところへ主人が帰宅し,叱責される。登場は主,太郎冠者,次郎冠者の3人で,太郎冠者がシテ。ただし以上の筋立ては和泉流で,大蔵流では太郎冠者と次郎冠者が入れ替わり,次郎冠者がシテ。酒を題材に,日本古来の武芸の一つ棒術を配し,主従の対立を明るく描く。曲中舞われる小舞は大蔵流では《七つに成る子》の一部と《十七八》,和泉流では《七つ子》と《暁の明星》。
執筆者:羽田 昶(2)舞踊劇。長唄。《棒しばり》と書く。岡村柿紅作詞。5世杵屋(きねや)巳太郎作曲。6世尾上菊五郎振付。1916年1月東京市村座で初演。配役は太郎冠者(7世坂東三津五郎),次郎冠者(6世尾上菊五郎),大名(初世中村吉右衛門)。狂言の《棒縛》をそのまま歌舞伎舞踊にした作品。松羽目物の狂言舞踊の一。舞踊の名手2人に,踊りにとって重要な手を縛って踊らせる皮肉な趣向にねらいがある。曲全体が明るくにぎやかにできているうえ,筋が単純でわかりやすく,2人が不自由な手で協力しあって酒を飲む段どりなど,一般受けする要素が多く含まれているため,予想どおりの大成功で,6世菊五郎が繰り返し上演した。現在も人気のある演目としてしばしば上演されている。
執筆者:服部 幸雄
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狂言の曲名。太郎冠者(たろうかじゃ)狂言。留守にすると召使いたちが酒を盗み飲みすると知った主人は、まず太郎冠者を呼び出して次郎冠者(シテ)を縛る方策を相談し、さて次郎冠者を召すと、近ごろ稽古(けいこ)しているという棒術を使わせ、すきをみて左右に伸ばした両手首を棒に結わえ付けてしまう。ついで不意に太郎冠者も後ろ手に縛って、主人は安心して外出する。ところが、2人はそれでも酒蔵へ入り、次郎冠者が手首に持った大盃(おおさかずき)で酒壺(さかつぼ)から酒をくみ、飲もうとするが、無理である。しかたなく太郎冠者に飲ませ残念がるが、思い付いて太郎冠者の後ろ手に大盃を持たせて自分も飲む。両冠者は上機嫌になり、そのぶかっこうな姿で舞をまい、酒宴を楽しんでいるところへ主人が帰宅する。太郎冠者は主人に追い込まれるが、次郎冠者は縛られたまま棒を使い逆に主人を追って入る。以上は大蔵(おおくら)流の筋で、和泉(いずみ)流では太郎冠者がシテで、両冠者の演技がほぼ入れ替わる。明るく楽しく、また姿が笑いを誘うので、海外公演の演目に加えられるのが常である。1916年(大正5)岡村柿紅(しこう)が大蔵流の筋に従って歌舞伎(かぶき)舞踊化し、6世尾上(おのえ)菊五郎、7世坂東(ばんどう)三津五郎が初演した。
[小林 責]
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…歌舞伎舞踊の一系統。能舞台を模して,正面に大きく根付の老松,左右の袖に竹を描いた羽目板,下手に五色の揚幕,上手に切戸口(臆病口)のある舞台装置で演ずるものをいう(ちなみに能舞台では正面の羽目板を〈鏡板(かがみいた)〉といい,松羽目とはいわない)。題材はほとんど能,狂言から採り,衣装,演出も能,狂言に準ずる。歌舞伎はその発生期から先行芸能である能,狂言から芸態,演目を摂取していた。しかし歌舞伎舞踊に大きな地位を占める〈石橋物(しやつきようもの)〉(石橋)や〈道成寺物〉など能取りの所作事も,能を直訳的に歌舞伎に移すのではなく,単に題名や詞章の一部を借りるのみで,自由な発想ともどきの趣向によって換骨奪胎し,みごとに歌舞伎化していた。…
※「棒縛」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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