油の行商人,とくにその振売商人。古代から中世までは,油の原料はゴマ,エゴマなどが多く,おもに灯火用とされた。14世紀からは油座によって生産と販売が独占され,油売はこの油座から配給をうけて京をはじめ各地に行商した。近世に入って菜種油,綿実油の生産が増大,油座に代わって生産,流通の中心となった大坂の油問屋から各地の問屋や小売店に買い取られた。油売はこの卸売,小売から買い受けて,町中の小口の消費者に振売をした。曲物の塗桶を天秤でかつぎ,藍木綿の着物に渋染の胸前垂れをしていた。子どもの胸前垂れやよだれかけを〈油屋さん〉〈あぶちゃん〉と呼ぶのはこれに由来する。仕事を怠けることを〈油を売る〉というのも油売の業態からきたことばである。油は曲物の桶にいれて担って売り歩いたので急いで歩くことはできず,また買手の容器に注ぐのにも小さいひしゃくを使ったので,時間がかかり,敏しょうな行動はできなかったからである。
執筆者:遠藤 元男
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