海難審判所(読み)カイナンシンパンショ

デジタル大辞泉 「海難審判所」の意味・読み・例文・類語

かいなんしんぱん‐しょ【海難審判所】

国土交通省の特別機関。平成20年(2008)10月設置。海難(船舶事故)が発生した際に、海難審判法に基づいて海技従事者等の海難当事者の懲戒などを行う。東京の海難審判所のほか、函館仙台門司長崎など全国8か所に地方海難審判所が置かれる。JMATジェーマット(Japan Marine Accident Tribunal)。
[補説]海難審判所は、それまで海難審判庁が海難発生に際して行ってきた「原因究明」と「行政処分(懲戒など)」のうちの後者を引き継いだもの。「原因究明」については国土交通省の運輸安全委員会が引き継いでいる。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「海難審判所」の意味・わかりやすい解説

海難審判所
かいなんしんぱんしょ

海難審判法(昭和22年法律第135号)により、特別の機関として国土交通省に置かれる行政機関。海難が海技士、小型船舶操縦士や水先人の職務上の故意または過失によって発生したものであるときは、海難審判所により裁決をもって懲戒がなされることとされており、そのための海難の調査および審判を行うことを任務とする。旧・海難審判庁が有していた権能のうち、この懲戒に関するものを継承する機関として2008年(平成20)に創設され、旧・海難審判庁の原因究明に関する事務は、運輸安全委員会に統合された。

 海難審判所には、審判官と理事官が置かれ、政令で定められている定数は、審判官が25人、理事官が23人である。海難審判所長は審判官をもってあてられる。海難審判所は東京に置かれ、3人の審判官のうち1人を審判長とした合議体で、旅客の死亡を伴うものや環境に重大な影響を及ぼしたもの等の重大な海難の審判を行う。これ以外の海難については、函館(はこだて)、仙台、横浜、神戸、広島、門司(もじ)(那覇に支所を有する)、長崎に置かれる地方海難審判所が、原則として1人の審判官によって管轄区域で発生した海難の審判を行う。地方海難審判所長も審判官をもってあてられる。

 懲戒の事前行政手続である海難審判所の審判は、審判官が裁判官類似の権限を行使し、理事官が検察官類似の権限を行使する、裁判類似の準司法的なものとなっている。審判は、海難が海技士等の職務上の故意または過失によって発生したものであると理事官が認めたときに、その開始の申立てによって審判が開始され、審判官は独立してその職権を行使する。審判は公開の審判廷で行われ、口頭弁論に基づいて裁決が行われなければならないとされている。裁決による懲戒は、免許の取消し、1か月以上3年以下の業務停止、戒告の3種類が法定され、裁決に不服がある場合には、行政事件訴訟法上の原則と異なり、海難審判所長を被告として東京高等裁判所に裁決の取消訴訟を提起することができる。裁決が確定した場合は、理事官がこれを執行する。

[北見宏介 2022年5月20日]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「海難審判所」の意味・わかりやすい解説

海難審判所
かいなんしんぱんじょ

海難の調査および審判を行なう国の行政機関。2008年海難審判庁を再編し,国土交通省特別の機関として設置された。海難審判法(昭和22年法律135号)に基づき,職務上の故意または過失によって海難を発生させた海技士,小型船舶操縦士または水先人に対する懲戒を行なうための海難の調査および審判を行なうことを任務とする。海難審判庁が行なっていた事故原因の究明については運輸安全委員会に移管された。地方海難審判庁と高等海難審判庁による二審制を一審制に改め,海難審判所(東京都)が重大な海難を,地方海難審判所が各管轄区域で発生した重大事件以外の海難を取り扱う。地方海難審判所は北海道函館市,宮城県仙台市,神奈川県横浜市,兵庫県神戸市,広島県広島市,福岡県北九州市(門司),長崎県長崎市の 7ヵ所に置かれ,門司地方海難審判所の支所が沖縄県那覇市に設けられている。海難審判所には審判官および,審判の請求や海難の調査などを司る理事官が置かれ,いずれも必要な法律および海事に関する知識経験を有する者として政令で定める者のなかから国土交通大臣が任命。各海難審判所の所長は審判官をもってあてられる。海難審判所では 3人の審判官で構成する合議体で,地方海難審判所では 1人の審判官により審判が行なわれる。海難が海技士,小型船舶操縦士または水先人の職務上の故意または過失によって発生したものであるときは,裁決をもってこれを懲戒しなければならないとされている。裁決に不服がある場合,東京高等裁判所に裁決取消を求める訴えを提起することができる。

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