畜生(読み)ちくしょう

精選版 日本国語大辞典 「畜生」の意味・読み・例文・類語

ちく‐しょう ‥シャウ【畜生】

〘名〙 (tiryañc の訳語)
① (人に飼養されて生きているものの意から) 禽獣虫魚などの総称。畜趣。ちきしょう。
※霊異記(810‐824)上「畜生すら猶恩を忘れずして恩返報す。何(いか)に況(いは)むや義人にして恩を忘れむや」 〔韓非子‐解老〕
※百座法談(1110)閏七月八日「三途八難の遠き道と申は地獄餓鬼畜生にこそは候なれ」 〔法華経‐譬喩品〕
③ 他人をののしっていう語。人でなし。強く憎んだりうらやんだりした時にいう語。感動詞的にも用いる。こんちくしょう。やつ。ちきしょう。
※虎明本狂言・河原太郎(室町末‐近世初)「其やうな事が有ものか、あのちくしゃうが」
塩原多助一代記(1885)〈三遊亭円朝〉六「貴所(あなた)どうか多助の畜生を殺してください」 〔隋書后妃伝・宣華夫人陳氏〕

ちき‐しょう ‥シャウ【畜生】

〘名〙 「ちくしょう(畜生)」の変化した語。感動詞的にも用いる。
西洋道中膝栗毛(1870‐76)〈仮名垣魯文〉七「畜生(チキセウ)(〈注〉チクシャウ)」
ヴィヨンの妻(1947)〈太宰治〉一「ちきしゃう! 警察だ。もう承知できねえ」

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デジタル大辞泉 「畜生」の意味・読み・例文・類語

ちく‐しょう〔‐シヤウ〕【畜生】

《〈梵〉tiryañcの訳。人に飼われる生き物の意。傍生・横生とも訳す》
鳥・獣・虫魚の総称。人間以外の動物
畜生道」の略。
人を憎んだり、ののしったりしていう語。感動詞的に、怒りや失望などの気持ちを表すときにも用いる。「畜生め、おぼえてろ」「畜生、うまくいかないなあ」
[類語]動物けものけだものじゅう獣類畜類野獣百獣鳥獣禽獣きんじゅうアニマル四つ足猛獣海獣珍獣

ちき‐しょう〔‐シヤウ〕【畜生】

ちくしょう(畜生)」の音変化。

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改訂新版 世界大百科事典 「畜生」の意味・わかりやすい解説

畜生 (ちくしょう)

サンスクリットのtiryag-yoniの訳語。原語のtiryac(本来はtiryañc)は〈横の〉を,yoniは〈生れ〉を意味している。それゆえ,〈横に動く生き物〉で,獣・動物を指す語である。畜生と訳したのは,前半部のtiryacのなまった形に畜の音を当て,後半のyoniは意味をとって生としたものかと思う。〈傍生(ぼうしよう)〉とも訳されている。古来,人が食用や力役(りきやく)のために畜養するけものであるから,畜生と名づけられたと誤って解釈され,また傍生の傍は傍行(ぼうこう)(横ざまに動く)の意味ともされている。仏教では,仏や人間やすべての動物の状態やあり方を順位をつけて分類して十界(じつかい)とするが,畜生趣(ちくしようしゆ)(畜生の状態)はそれらの下から3番目で,地獄,餓鬼(がき)と合わせて三悪趣(さんあくしゆ)と呼ばれ,悪い行いの結果生まれるところとされている。また,この語は本来仏教用語であったが,その意味から広く他人をののしったり,人生の悪行や苦しみをあらわす場合にも用いられている。
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普及版 字通 「畜生」の読み・字形・画数・意味

【畜生】ちくしよう(しやう)・きゆう(きう)せい

鳥獣の類。また、人を罵っていう。〔隋書、后妃、宣華夫人陳氏伝〕上(しやう)疾に仁壽宮に寢す。夫人と太子と、同(とも)に疾に侍す。~太子の(せま)ると爲る。~夫人然(げんぜん)として曰く、太子、禮無しと。上恚(いか)りて曰く、畜生、何ぞ大事を付するに足らん~と。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「畜生」の意味・わかりやすい解説

畜生
ちくしょう

「人間以外の生物」を意味する仏教用語。サンスクリット語はティリヤンチtiryañcで、傍生(ぼうしょう)とも訳し、「身体を地面に平行にして進むもの」を意味する。漢訳「畜生」は、人間に養われ酷使される動物の意。いずれにしても好ましくない生存形式として、地獄、餓鬼(がき)とともに「三悪道」を構成し、六道(ろくどう)の一つに数えられる。『倶舎論(くしゃろん)』に「傍生の本拠地は大海であるが、のちに流転(るてん)して諸処に広がった」とある。経典により、空行(くうぎょう)、陸行(りくぎょう)、水行(すいぎょう)の3種、昼行、夜行、昼夜行の3種、胎生(たいしょう)、卵生(らんしょう)、湿生(しっしょう)、化生(けしょう)の4種などに分けられている。なお日本では人をののしることばに用いられる。

[定方 晟]

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百科事典マイペディア 「畜生」の意味・わかりやすい解説

畜生【ちくしょう】

傍生(ぼうしょう)・横生(おうしょう)とも。仏教で説く六道や三悪道の一つ。本能のままに生活した人間が,死後,鳥獣虫魚などの動物に生まれ変わるという苦難の世界。

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「畜生」の意味・わかりやすい解説

畜生
ちくしょう
tiryañc

仏教用語。一般にけだものをいう。六道の一つとされ,生前に悪徳の行為をしたものは,死後にこれに生れ変るという。

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