いくつかの相の間の平衡を表した図表をいう。一般に純物質では状態を決める変数(状態量)を二つ選ぶことで、生じるすべての平衡状態を表すことができ、普通、状態量としては圧力と温度とが用いられる。いまもっとも簡単な水の状態を示す( )。曲線TBを融解曲線(または固化曲線)、曲線ATを昇華曲線、曲線TCを蒸発曲線という。これらの曲線上では、両側にある二つの相が平衡になる。すなわち、圧力をある値に指定したとすると、2相が共存する温度が定まることを意味する。曲線でくぎられた部分は気相、液相、固相のいずれかの相を意味する。この面内では、圧力と温度を同時にどのように変えても、一つの相だけが存在する。図で、E点は1気圧のもとで水は100℃で沸騰し、水と水蒸気が共存すること、D点は1気圧のもとで水が0℃で氷結し、水と氷とが共存することを示す。DEの線上(D点、E点は除く)では水だけが存在する。TEの線上では、どの点をとってもその点に対応する圧力および温度は一義的に決まり、その蒸気圧の水蒸気とその温度の水とが共存する。
曲線TFは過冷却の状態にある液体(水)の蒸気圧を示すもので、このような液体は静かに放置したときだけに存在し、その状態を準安定な状態という。Tは三つの曲線が交わる点を表し、三つの相が共存するので三重点という。この点の温度、圧力は一定しており動かすことのできない値である。TC曲線には上限が存在し、この点を臨界点という。図ではC点がそれにあたる。水蒸気はC点の温度(374℃)以上ではどのようにしても水に液化することができない。C点の温度、圧力を臨界温度、臨界圧という。
多成分系では、独立に変化する状態量が増えて複雑となり、平面図で表すことが困難になることがあり、立体図( )で表現することがある。このような多成分系の状態図は実用的に合金、ガラスなどの固溶体の場合に使われ、それらの研究にとくに重要である。
[戸田源治郎]
物質系の異なる相の間の境界を,状態量(変数)の間の関係として図示したもの。通常は,合金や溶液などで二つ以上の相が平衡で分離共存する場合のものを指し,平衡図equilibrium diagram,平衡状態図とも呼ばれる。統計力学の分野では,相図と呼ばれることが多い。
相律によって,1成分系の自由度は最大でも2なので,温度と圧力を変数とすることによって,すべての相を含む状態図を表すことが可能である。1成分系のもっとも一般的な状態図は図1のようになる。液相-固相の境界線(融解曲線という)は,右上がりになるのがふつうであるが,水H2Oなどのように固体の結晶構造によって逆の傾き(図1の破線)をもつ場合もある。気相,液相,固相の三つの相が共存する点Aは三重点,気相-液相の境界線(蒸気圧曲線)の端点Bは臨界点と呼ばれる。また気相-固相の境界を昇華曲線という。ヘリウムのように,圧力が低いと温度を絶対0度(約-273℃)まで下げても固体にならず,したがって点Aにあたるものがない場合もある。またヘリウムの場合は,液相に二つの種類(常流動相と超流動相)があって,その境界線が状態図に加えられる。
二元合金などのように,成分が二つになると最大自由度は3となり,一般的には温度,圧力,組成の3変数を座標軸に取ることになるが,固相と液相に限れば,圧力変化は無視できることが多いので,圧力を一定とし,温度と組成の平面内で状態図を描くのがふつうである。合金系について,この図を作ることは,その系の金属学的研究にとって重要である。2成分系では最大4相までが共存しうるが,4相共存状態は状態図中の孤立した点で表され,3相共存状態は曲線(三重点線または三相線)の形で表される。3成分系の最大自由度は4であるが,この場合も,合金系のように固相,液相だけを問題とするときは,圧力を一定と考え,組成と温度を変数にとって立体的な状態図が用いられる。例えば,A,B,Cの三つの金属からなる三元合金の場合は,A,B,Cを頂点とする正三角形を平面上に描き,三角形内の1点を一つの組成に対応させる。さらに,その平面から鉛直上方に温度軸をとって,各組成に対応する合金の融点を与えることによって立体的な状態図が得られる(図2)。このような状態図を融点図といい,これを底面に写影した平面的なものが用いられることもある。状態図は,冶金学の分野に限らず,相転移の研究一般において,系の相変化の全体的な描像を得るために欠かせないものであり,種々の分野に登場する。
執筆者:小野 嘉之
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
多相平衡における平衡の条件(温度,圧力,組成)を表す図.一成分系においては自由度は最大2(圧力と温度)であるから,横軸に温度,縦軸に圧力をとって異相間の平衡の条件を表す.この場合,単一相の条件は面,二相平衡の条件は線,三相平衡の条件は点(三重点)となる.二成分系では,自由度は最大3で,温度,圧力および組成が変数となりうるが,多くの場合,組成を横軸に,圧力または温度を一定として,縦軸に温度または圧力をとって,気-液,液-液,液-固相など異相間の平衡条件を表現する.三成分系では三角形状態図を用いる.これらの状態図を検討することにより,単に与えられた条件での系の相の状態を一見して知りうるだけでなく,温度,圧力,あるいは組成を変化したときに起こるべき系の相変化を予知することができる.[別用語参照]共融点
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報
(徳田昌則 東北大学名誉教授 / 2008年)
出典 (株)朝日新聞出版発行「知恵蔵」知恵蔵について 情報
出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報
年齢を問わず、多様なキャリア形成で活躍する働き方。企業には専門人材の育成支援やリスキリング(学び直し)の機会提供、女性活躍推進や従業員と役員の接点拡大などが求められる。人材の確保につながり、従業員を...
10/29 小学館の図鑑NEO[新版]動物を追加
10/22 デジタル大辞泉を更新
10/22 デジタル大辞泉プラスを更新
10/1 共同通信ニュース用語解説を追加
9/20 日本大百科全書(ニッポニカ)を更新