状態図(読み)じょうたいず(英語表記)phase diagram

精選版 日本国語大辞典 「状態図」の意味・読み・例文・類語

じょうたい‐ず ジャウタイヅ【状態図】

〘名〙 物質の状態の変化を幾何学的に表わした図表。水の場合には温度と圧力の図で示される。

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デジタル大辞泉 「状態図」の意味・読み・例文・類語

じょうたい‐ず〔ジヤウタイヅ〕【状態図】

ある物質または混合物の状態を示すため、圧力・温度を変数にとって、気相液相固相間の平衡関係を図示したもの。相図そうず

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「状態図」の意味・わかりやすい解説

状態図
じょうたいず
phase diagram

いくつかの相の間の平衡を表した図表をいう。一般に純物質では状態を決める変数(状態量)を二つ選ぶことで、生じるすべての平衡状態を表すことができ、普通、状態量としては圧力と温度とが用いられる。いまもっとも簡単な水の状態を示す(図A)。曲線TBを融解曲線(または固化曲線)、曲線ATを昇華曲線、曲線TCを蒸発曲線という。これらの曲線上では、両側にある二つの相が平衡になる。すなわち、圧力をある値に指定したとすると、2相が共存する温度が定まることを意味する。曲線でくぎられた部分は気相、液相、固相のいずれかの相を意味する。この面内では、圧力と温度を同時にどのように変えても、一つの相だけが存在する。図で、E点は1気圧のもとで水は100℃で沸騰し、水と水蒸気が共存すること、D点は1気圧のもとで水が0℃で氷結し、水と氷とが共存することを示す。DEの線上(D点、E点は除く)では水だけが存在する。TEの線上では、どの点をとってもその点に対応する圧力および温度は一義的に決まり、その蒸気圧の水蒸気とその温度の水とが共存する。

 曲線TFは過冷却の状態にある液体(水)の蒸気圧を示すもので、このような液体は静かに放置したときだけに存在し、その状態を準安定な状態という。Tは三つの曲線が交わる点を表し、三つの相が共存するので三重点という。この点の温度、圧力は一定しており動かすことのできない値である。TC曲線には上限が存在し、この点を臨界点という。図ではC点がそれにあたる。水蒸気はC点の温度(374℃)以上ではどのようにしても水に液化することができない。C点の温度、圧力を臨界温度臨界圧という。

 多成分系では、独立に変化する状態量が増えて複雑となり、平面図で表すことが困難になることがあり、立体図図B)で表現することがある。このような多成分系の状態図は実用的に合金、ガラスなどの固溶体の場合に使われ、それらの研究にとくに重要である。

[戸田源治郎]


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改訂新版 世界大百科事典 「状態図」の意味・わかりやすい解説

状態図 (じょうたいず)
phase diagram

物質系の異なる相の間の境界を,状態量(変数)の間の関係として図示したもの。通常は,合金や溶液などで二つ以上の相が平衡で分離共存する場合のものを指し,平衡図equilibrium diagram,平衡状態図とも呼ばれる。統計力学の分野では,相図と呼ばれることが多い。

 相律によって,1成分系の自由度は最大でも2なので,温度と圧力を変数とすることによって,すべての相を含む状態図を表すことが可能である。1成分系のもっとも一般的な状態図は図1のようになる。液相-固相の境界線(融解曲線という)は,右上がりになるのがふつうであるが,水H2Oなどのように固体の結晶構造によって逆の傾き(図1の破線)をもつ場合もある。気相,液相,固相の三つの相が共存する点Aは三重点,気相-液相の境界線(蒸気圧曲線)の端点Bは臨界点と呼ばれる。また気相-固相の境界を昇華曲線という。ヘリウムのように,圧力が低いと温度を絶対0度(約-273℃)まで下げても固体にならず,したがって点Aにあたるものがない場合もある。またヘリウムの場合は,液相に二つの種類(常流動相と超流動相)があって,その境界線が状態図に加えられる。

 二元合金などのように,成分が二つになると最大自由度は3となり,一般的には温度,圧力,組成の3変数を座標軸に取ることになるが,固相と液相に限れば,圧力変化は無視できることが多いので,圧力を一定とし,温度と組成の平面内で状態図を描くのがふつうである。合金系について,この図を作ることは,その系の金属学的研究にとって重要である。2成分系では最大4相までが共存しうるが,4相共存状態は状態図中の孤立した点で表され,3相共存状態は曲線(三重点線または三相線)の形で表される。3成分系の最大自由度は4であるが,この場合も,合金系のように固相,液相だけを問題とするときは,圧力を一定と考え,組成と温度を変数にとって立体的な状態図が用いられる。例えば,A,B,Cの三つの金属からなる三元合金の場合は,A,B,Cを頂点とする正三角形を平面上に描き,三角形内の1点を一つの組成に対応させる。さらに,その平面から鉛直上方に温度軸をとって,各組成に対応する合金の融点を与えることによって立体的な状態図が得られる(図2)。このような状態図を融点図といい,これを底面に写影した平面的なものが用いられることもある。状態図は,冶金学の分野に限らず,相転移の研究一般において,系の相変化の全体的な描像を得るために欠かせないものであり,種々の分野に登場する。
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「状態図」の意味・わかりやすい解説

状態図
じょうたいず
phase diagram

物質系の状態を表わす温度,圧力,組成などの量の間の関係を示す図。一般には,いくつかの成分物質がいくつかの相で平衡に共存している不均一系の多相平衡を表わす図をさし,平衡状態図または平衡図ともいう。状態図は温度,圧力,組成などの状態量の指定された値における物質の安定な相や,また成分の組成などを示すので,物質,特に合金などの研究において重要である。状態図は自由度の数の座標軸を用いて図示され,自由度の数は相律によって決められる。一成分系の自由度は2で,状態図は温度を横軸,圧力を縦軸にとった平面図で表わされるのが普通である。二成分系の自由度は3で,状態図は温度,圧力,組成 (成分の質量比) を3軸とする立体図となるが,通常は変数の1つ,たとえば圧力を一定とした平面図の組で表わす。これらは立体的な状態図を平行断面で切った断面図の組で,その曲線は地図の等高線に相当する。三成分系の自由度は4で完全な状態図は描けないが,通常は変数の1つ (たとえば合金に対しては影響が小さい圧力を選ぶ) を一定にとり,3成分を正三角形の各頂点に配した三角座標 (三角形内の点で組成を示す) と,この面に垂直な温度座標とを用いて描いた立体的な融点曲面 (図1) で状態図に代用させることが多い。この図形の三角柱の側面は融点図を表わす。また,この曲面を底面に投影した平面図 (図2) もしばしば用いられる。四成分系以上の状態図はさらに複雑となるが,多元合金や海水に関する研究に用いられる。

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化学辞典 第2版 「状態図」の解説

状態図
ジョウタイズ
phase diagram

多相平衡における平衡の条件(温度,圧力,組成)を表す図.一成分系においては自由度は最大2(圧力と温度)であるから,横軸に温度,縦軸に圧力をとって異相間の平衡の条件を表す.この場合,単一相の条件は面,二相平衡の条件は線,三相平衡の条件は点(三重点)となる.二成分系では,自由度は最大3で,温度,圧力および組成が変数となりうるが,多くの場合,組成を横軸に,圧力または温度を一定として,縦軸に温度または圧力をとって,気-液,液-液,液-固相など異相間の平衡条件を表現する.三成分系では三角形状態図を用いる.これらの状態図を検討することにより,単に与えられた条件での系の相の状態を一見して知りうるだけでなく,温度,圧力,あるいは組成を変化したときに起こるべき系の相変化を予知することができる.[別用語参照]共融点

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知恵蔵 「状態図」の解説

状態図

相図ともいう。物質が、その置かれた環境に応じ、つまり、温度、圧力、磁場や電場の強さなどの状態変数に対して、どのようにその存在状態(固相、液相、気相など)を変えるかを示す。2成分以上では、濃度が変数に加わり、相にも各種化合物相や、それらの溶相が加わる。複数の相が共存する場合を不均一系という。ある不均一物質系が特定の環境下でどのような相で構成されるか、その結果、どのような化学反応や相変態が起こるかを予想できる。化合物の合成、混合物の分離・抽出・精製、金属製錬、合金やセラミックスの製造など物質製造のあらゆる局面で、製造条件(特に、温度)と製品及びその特性制御の基本的なツールとして活用される。 状態図の基本は、各温度で十分な時間をおいて各相間の関係を安定させて作った平衡状態図であるが、焼き入れ、焼き戻しなど熱処理と呼ばれる材料製造の実用面では、物質の原子レベルでの移動速度が温度変化の速度に追随できないために生ずる不安定相も考慮した非平衡状態図も利用される。

(徳田昌則 東北大学名誉教授 / 2008年)

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百科事典マイペディア 「状態図」の意味・わかりやすい解説

状態図【じょうたいず】

ある物質についての各の間の平衡関係を表した図。独立変数としては,温度,圧力,体積,濃度のうち熱力学的自由度に相当する数だけとるが,一成分系(純物質)の場合には一般に温度と圧力が用いられる。水の状態図では融解曲線(液相と固相の境界線)上では水と氷,昇華曲線(固相と気相の境界線)上では氷と水蒸気がそれぞれ平衡状態で共存し,三重点(融解,昇華両曲線の交点)においては氷と水と水蒸気の3者が共存する。→状態方程式
→関連項目三重点

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岩石学辞典 「状態図」の解説

状態図

相図

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