改訂新版 世界大百科事典 「知覚異常」の意味・わかりやすい解説
知覚異常 (ちかくいじょう)
sensory abnormality
知覚には一般知覚と嗅(きゆう)・視・聴覚のような特殊知覚があり,一般知覚には痛覚・温度覚・触覚などの表在知覚と振動覚・位置覚などの深部知覚がある。ここでは一般知覚の異常について述べる。
四肢・体幹・頸部および後頭部の知覚は末梢神経から脊髄後根を経て脊髄に入り,温度覚・痛覚などは交差して反対側の脊髄を上行し,振動覚・位置覚などは同側の脊髄を上行して脳幹で交差し,それぞれ反対側の視床を経由して大脳皮質に至る。一方,顔面の知覚は三叉(さんさ)神経から脳幹に入り,同様に交差して反対側の視床を経由して大脳皮質に達する。この伝導路のどこかが障害されると知覚異常を生ずる。
知覚異常には自覚的異常と他覚的異常がある。自覚的知覚異常には,ぴりぴり,びりびりなどと形容される,いわゆるしびれ感や自発痛などがある。他覚的知覚異常については,触覚は筆で軽く触れる,痛覚は針を用いる,温度覚は温水および氷水を入れた試験管を用いる,などして検査する。位置覚は手指または足指を側面から軽くつまみ各方向に動かして調べる。振動覚は音叉を骨の突出した部分に当てて検査する。これらの知覚が正常より低下しているものを知覚鈍麻,まったく感じないものを知覚脱失,亢進しているものを知覚過敏という。また触れることで物の形や材質を判断する立体覚や,2点を同時に刺激してそれを2点として識別する能力である二点識別覚などは複合知覚といわれ,大脳皮質頭頂葉の機能が関係している。
病変の部位により知覚異常はさまざまな分布を示す。末梢神経障害では障害された末梢神経の分布領域に知覚の異常を訴える。末梢神経は集まって神経根をつくり脊髄へ入るが,この神経根が障害されると,それにより支配されるデルマトームといわれる皮膚領域に一致した障害がみられる。四肢末梢に優位な左右対称性の知覚鈍麻は多発性神経炎でよくみられる。脊髄の障害では障害部以下の知覚異常が起こる。脊髄空洞症など脊髄の中心付近の障害では,反対側へ交差する温・痛覚の経路は障害されるが,交差しない深部知覚は保たれ,知覚の解離が生ずる。脊髄の半側が障害されると,病変の高さで同側の知覚が完全に消失し,それ以下同側の半身には深部知覚の低下と,反対側半身には温・痛覚の障害を生ずる(錐体路障害による運動麻痺を併せてブラウン・セカール症候群という)。脳幹部の障害では顔・口腔は病変側の,頸部以下は反対側の知覚鈍麻が生じることがある。大脳病変では反対側半身の知覚鈍麻がみられるが,とくに視床の障害では自発性の激しい疼痛(視床痛)を生ずることがある。大脳皮質頭頂葉の病変では複合知覚が障害される。
→知覚
執筆者:楠 進
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報