磁気化学(読み)じきかがく(英語表記)magnetochemistry

改訂新版 世界大百科事典 「磁気化学」の意味・わかりやすい解説

磁気化学 (じきかがく)
magnetochemistry

物質の磁気的性質を測定して,これを化学の問題解決に役立てる物理化学の一分野。反磁性体と常磁性体の区別はM.ファラデーによって発見されたが,磁化率を物質の化学構造および化学反応と結びつける研究が行われたのは19世紀末以降のことである。電子の軌道半径に関係する反磁性は,常磁性体が示す磁化率にもその寄与が含まれる。反磁性体の磁化率は磁場の強さに無関係で,一般に温度にもほとんど影響されない。物質1mol当りの反磁性磁化率は,構成原子の種類と数,およびそれらの間の化学結合の性格に依存する。したがって,イオン結晶においては,これは各イオンの寄与の和で,有機化合物においては,各原子の寄与と各結合の寄与の和で近似される。すなわち,加成則が成り立つ。他方,常磁性は不対電子の存在に起因し,遷移金属イオンや有機遊離基の研究の手段となる。常磁性磁化率の大きさも磁場の強さに関係しないが,不対電子間の相互作用の様式やその強さによって種々の温度変化を示すため,広い温度領域にわたる測定が肝要である。相互作用がない磁気的に希薄な系では,常磁性磁化率は絶対温度に逆比例する。これをキュリー法則という。反磁性磁化率を見積り補正を加えた1mol当りの常磁性磁化率から遷移金属イオンの磁気モーメントを求め不対電子数を知ると,酸化数,錯体の構造,あるいは溶液中における二量体形成などの平衡に関する知見が得られる。相互作用の様式によっては反強磁性,ときにはフェリ磁性強磁性も出現する。磁化率は多成分系はもちろん,単一物質でもすべての磁気的性質の総和であるから,研究手段としての有用性にはおのずから限界がある。第2次大戦後,著しく進歩した核磁気共鳴吸収,電子スピン共鳴吸収などの技術は,ともに磁化率と密接な関係にあり,上記の磁化率の欠点を補い,測定の対象によっては微細構造にまで立ち入った検討ができる利点をもつ。
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出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

化学辞典 第2版 「磁気化学」の解説

磁気化学
ジキカガク
magnetochemistry

物質の磁気的性質を利用して化学の問題を取り扱う物理化学の一分野.元来,反磁性および常磁性物質の磁化率を測定し,物質の化学的構造および化学反応の研究を行うことが主であった.たとえば,反磁性物質についてはパスカルの加成則があり,他方,常磁性物質(常磁性イオン,遊離基,常磁性錯体,三重項状態など)については,これらがもつ不対電子の数や状態が明らかにされてきた.しかし,近年は同じく物質の磁気的性質の利用ではあるが,磁化率測定以外の,常磁性共鳴(あるいは電子スピン共鳴)吸収や核磁気共鳴吸収など,磁場内におかれた不対電子あるいは原子核の磁気モーメントと電磁波の相互作用を利用する新しい有力な方法が急速に発展し,これらは従来の磁化率測定を主とする磁気化学とは一応別の分野あるいは化学研究の手段となっている.

出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「磁気化学」の意味・わかりやすい解説

磁気化学
じきかがく
magnetochemistry

物質の磁気的性質を測定して化学構造,物性,反応を研究する化学の一部門。磁気共鳴吸収の測定法の発達に伴い,研究の対象は拡大され,物理化学の重要な部門を構成している。

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