江戸前期の俳人。また,書画に巧みであった。姓は野々口,名は親重(ちかしげ),通称は伝に庄右衛門,市兵衛,宗右衛門,次郎左衛門など,別号は松翁,松斎,如入斎。雛人形の細工を業として雛屋(ひなや)と称し,紅粉(べに)染にも巧みで,紅屋,紅粉屋とも称した。京都の人。家業のかたわら,烏丸光広(からすまるみつひろ)に和歌を,猪苗代兼与(いなわしろけんよ)に連歌を学び,古典にも通じて《十帖源氏》《稚(おさな)源氏》を著した。連歌ひいては俳諧の系列の違いから,里村北家出身の貞徳とも,同南家出身の重頼とも合わず,《犬子(えのこ)集》(1633)の編集をめぐって重頼と争い,《誹諧発句帳》(同)を対立刊行。やがて立圃流なる一流を立てて閉じ籠り他派との交流を絶った。1636年(寛永13)刊《はなひ草》に,一門の拠るべき法式が示されている。絵画では三十六歌仙のくつろいだ姿を戯画風に仕立てた《休息歌仙絵》が知られるほか,略筆で軽妙な俳画や浮世絵を描いた。吉田半兵衛らに続く上方浮世絵において,また俳画においてもその先駆的役割は特筆される。40年ころ,家業不振のため没落,東下して滞在10年,以後も京・江戸間をしばしば往復奔走したが家運は挽回できなかった。51年(慶安4)以後,備後福山藩2代水野勝俊,同3代勝貞に仕え俳事に専念した。
俳風は,〈連歌にすこし誹言(はいごん)をもたせたる句体をすかるゝと見えたり〉(《五条百句》)という貞室の批評が当たっている。〈霧の海の底なる月はくらげ哉〉(《誹諧発句帳》)。
執筆者:乾 裕幸+鈴木 廣之
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江戸前期の俳人。野々口氏。名親重(ちかしげ)。通称庄右衛門。別号松翁、松斎、如入斎。京の人。家業により雛屋(ひなや)と称し、別に紅屋ともいった。貞門(ていもん)の古老的存在であったが、『犬子集(えのこしゅう)』(1633)編集の件で同門の重頼(しげより)と争い、師のもとを去り、以後独自で優雅な俳風を確立。京より江戸、福山、大坂などに移り住み、多くの門人を育て、晩年はまた京に戻った。早くより連歌や和歌を学び、古典にも精通して『源氏物語』の梗概(こうがい)書『十帖(じゅうじょう)源氏』『おさな源氏』の著もある。絵画にも優れ、その軽妙な筆致は俳画の祖と称されている。撰集(せんしゅう)に『誹諧発句(はいかいほっく)帳』『小町踊』、作法・俳論書に『はなひ草』『河船(かわぶね)付徳万歳』、句集に『そらつぶて』がある。
[雲英末雄]
天も花にゑへるか雲の乱足
『木村三四吾著『野々口立圃』(『俳句講座2 俳人評伝 上』所収・1958・明治書院)』
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…出雲国松江の生れと伝えられるが,早くから京都に住し,撰糸(せんじ)売を営んで大文字屋を号した。貞門七俳仙に加えられるが,本来は里村南家の2代昌琢(しようたく)に連歌と俳諧を学び,北家出身の貞徳とは文学的にも感情的にもむしろ対立的関係にあり,俳諧最初の類題句集《犬子(えのこ)集》(1633)の編集をめぐって,共編者である北家出身の立圃(りゆうほ)と意見が衝突,袂を分かったのをきっかけに,貞徳との不和も表面化した。〈天性剛正ニシテ誤ヲ見テ止ル事ナシ〉(《誹家大系図》)と評された剛腹・強情な性格のために,貞室,正式(まさのり),春澄(はるずみ)ら多くの人びととの論争に明け暮れる生涯を送った。…
…機知と滑稽味,卑俗,即興性,日常的題材,平明さ,軽さ,といった概念は,俳諧が短歌から派生し,貞門,談林を経て蕉風の〈軽み〉の完成に至る俳諧の本質を端的に示しているが,それはそのまま俳画の特質を指摘する言葉でもある。宗祇,宗鑑,守武ら俳諧の始祖といわれる人々や,貞門俳諧の指導者であった松永貞徳らは,俳画といえるものを遺さなかったが,貞門に学んだ立圃(りゆうほ)は,俳諧独特の機知や滑稽味を反映した作品を遺した。西鶴は即興軽口の新風を誇示したその句風をそのまま反映する即興的表現を試み,俳画に新たな展開を与えた。…
…俳諧撰集。親重(ちかしげ)(立圃(りゆうほ))編。1633年(寛永10)刊。…
…俳諧論書。親重(ちかしげ)(立圃(りゆうほ))著。1636年(寛永13)成立。…
※「立圃」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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