紫式部日記絵巻(読み)ムラサキシキブニッキエマキ

デジタル大辞泉 「紫式部日記絵巻」の意味・読み・例文・類語

むらさきしきぶにっきえまき〔むらさきシキブニツキヱまき〕【紫式部日記絵巻】

鎌倉中期の絵巻。「紫式部日記」の本文を多少省略・変更した詞書ことばがきに、絵を施したもの。絵24段・詞書24段が残る。

出典 小学館デジタル大辞泉について 情報 | 凡例

精選版 日本国語大辞典 「紫式部日記絵巻」の意味・読み・例文・類語

むらさきしきぶにっきえまき ‥シキブニッキヱまき【紫式部日記絵巻】

絵巻物。現存四巻。詞書二四段。絵二四段。紙本着色。鎌倉初期の作。詞書(ことばがき)藤原良経、絵藤原信実の筆と伝えるが確証はない。紫式部日記から画題に適した箇所を選んで描いたもの。画風濃彩の作り絵式。書は金銀切箔(きりはく)、禾(のぎ)砂子を散らした料紙に後京極様で書かれている。藤田美術館五島美術館・東京国立博物館のほか個人が分蔵。国宝・重要文化財

出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報

日本大百科全書(ニッポニカ) 「紫式部日記絵巻」の意味・わかりやすい解説

紫式部日記絵巻
むらさきしきぶにっきえまき

鎌倉時代の絵巻。『紫式部日記』の本文を多少の省略、変更を施して詞書(ことばがき)とし、各段に絵を添えたもの。もとは10巻余り、60~70段程度の構成であったと推定される。現在は詞24段(うち一段は模写)、絵24段(詞と絵の場面が一致するもの22段)が残り、大阪・藤田美術館、東京・五島(ごとう)美術館(ともに国宝)、日野原家(重文)その他に分蔵されている。絵は平安時代の『源氏物語絵巻』などの作り絵の系統を引くが、建築の屋台引きに斜線を縦横に駆使し、機知に富んだ多彩な構図が特徴的。人物の描写にも動きと表情が現れ、引目鈎鼻(ひきめかぎはな)による伝統的な顔がみられる一方、写実味を加えた新しい形式の顔貌(がんぼう)表現が支配的である。詞書の書風は後京極(ごきょうごく)様を示し、また絵は新時代の傾向を伝統様式のうえに巧みに生かした宮廷絵師の筆とみられる。書画の作風から、13世紀前半(1220~40)の制作と推定されている。

[村重 寧]

『小松茂美編『日本絵巻大成9 紫式部日記絵詞』(1978・中央公論社)』

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

改訂新版 世界大百科事典 「紫式部日記絵巻」の意味・わかりやすい解説

紫式部日記絵巻 (むらさきしきぶにっきえまき)

《紫式部日記》のほぼ全文をこまかく絵画化し,詞書を添えた絵巻で,鎌倉初期,13世紀前半ころの制作と考えられる。当初は大規模な構成であったと推察されるが,現在はおよそ日記の順に,蜂須賀家本,藤田美術館本,旧森川家本(現,五島美術館ほか),日野原家本と,4巻が分かれて(合計24図)遺る。物語絵巻として前代の徳川・五島本《源氏物語絵巻》の系統をひく濃彩作絵(つくりえ)の技法によりながら,引目鉤鼻(ひきめかぎはな)の顔貌描写形式などは簡略な筆のタッチで表現するなど類型化し,各画面は人物の心理や情趣を鋭く造形化するというより,単なる説明的な挿図と化しているといえよう。むしろこの絵巻においては,機知的な構図法,小振りながら自然なプロポーションをもつ人物表現,ことにいわゆる強(こわ)装束の独特の形態,金・銀泥を多用した庭前の景など,多分に抽象的装飾的な造形美が強調され,新しい時代の美感をつくり出している。
執筆者:

出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「紫式部日記絵巻」の意味・わかりやすい解説

紫式部日記絵巻
むらさきしきぶにっきえまき

紫式部の『紫式部日記』の絵画化作品。 13世紀前半作,紙本着色。4巻が五島美術館,藤田美術館その他に分蔵。このほか残欠2図がある。絵 24段,詞 24段 (うち1段は模写) が現存するが,当初はその2倍半ぐらいの絵と詞が絵巻 10巻ほどに仕立てられていたと思われる。『源氏物語絵巻』の系統をひき,各画面は大小ほぼ一定の紙幅に収められ,吹抜屋台による屋内描写,引目鉤鼻の顔貌表現,作り絵の彩色法などによって描かれている。一方,機知的な画面構成や人物像,鋭い線描やはなやかな色感などは,鎌倉時代初頭の宮廷文化復興期における新感覚を示している。宮廷絵師の工房制作によるものと考えられる。

出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報

山川 日本史小辞典 改訂新版 「紫式部日記絵巻」の解説

紫式部日記絵巻
むらさきしきぶにっきえまき

「紫式部日記」を絵画化した13世紀中頃の絵巻物。当初は日記のほぼ全文を絵画化したと推定されるが,現在は絵・詞(ことば)とも23段,4巻分が伝存。「源氏物語絵巻」に代表される濃彩作絵(つくりえ)技法の物語絵の伝統をひくが,屋台の線が鋭角的に交差する構図やすっきりとした色感,より自由な面貌描写などに鎌倉時代の新しい造形感覚がうかがわれる。紙本着色。縦約21cm。藤田美術館・五島美術館蔵のものは国宝。

出典 山川出版社「山川 日本史小辞典 改訂新版」山川 日本史小辞典 改訂新版について 情報

旺文社日本史事典 三訂版 「紫式部日記絵巻」の解説

紫式部日記絵巻
むらさきしきぶにっきえまき

鎌倉初期,『紫式部日記』を題材とした絵巻物
詞を九条良経(兼実の子),絵を藤原信実が描いたと伝えられる。現存4巻(詞23段。絵24段)。国宝。

出典 旺文社日本史事典 三訂版旺文社日本史事典 三訂版について 情報

今日のキーワード

焦土作戦

敵対的買収に対する防衛策のひとつ。買収対象となった企業が、重要な資産や事業部門を手放し、買収者にとっての成果を事前に減じ、魅力を失わせる方法である。侵入してきた外敵に武器や食料を与えないように、事前に...

焦土作戦の用語解説を読む

コトバンク for iPhone

コトバンク for Android