組織地形(読み)ソシキチケイ(英語表記)structurally controlled landforms

デジタル大辞泉 「組織地形」の意味・読み・例文・類語

そしき‐ちけい【組織地形】

地質構造を反映した地形。特に、岩石・地質の浸食の受けやすさの違いによって生じる地形をさし、ケスタメサビュートなどが知られる。→変動地形

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改訂新版 世界大百科事典 「組織地形」の意味・わかりやすい解説

組織地形 (そしきちけい)
structurally controlled landforms

諸岩石間の削剝に対する抵抗性の差異に由来する差別削剝の結果として生じた地形(差別削剝地形)の総称。地質構造を強く反映している地形は,従来,構造地形と総称され,最近では火山地形volcanic landform,変動地形tectonic landformおよび組織地形の3種に大別されているが,組織地形には前2者と形態的に類似したものもある。そのため,変動地形を主対象とする一部の日本人研究者が,変動地形と差別削剝地形とを区別して記載するために,組織地形という用語を提案した。しかし,地形の組織とは地形構成物質(岩石と土)の性質(構造,物性など)の総称であるから,組織のない地形は存在しない。ゆえに,組織地形という用語はあまりにも包括的に過ぎ,浸食地形ばかりでなく,堆積地形,有機物定着地形(例,サンゴ礁)などすべての地形を包含するものであるかのような混同誤解を招きやすい。したがって,〈組織地形〉の概念を上述の命名趣旨に合わせて表現する用語としては,〈差別削剝地形〉が最もふさわしい。

 削剝とは,地形構成物質が外的営力によって除去され,低所に運搬され,その結果として地表が低下する現象の総称であり,(1)河食,風食,波食,氷食などの浸食と,(2)主として重力の作用による地すべり崩落土石流クリープなどの集団移動(マス・ムーブメント),の2種に大別される。

 外的営力を受ける地形構成物質の性質,すなわち岩石物性の異なる複数岩石が分布する地域では,同一の外的営力が加わっても岩石ごとに削剝様式(地形構成物質の除去・移動のしかた,その方向,速さ,量)が異なるために,長期間には各岩石の分布地域の間に地形的差異が生じる。たとえば,高度,斜面形,傾斜,谷密度,河系模様,谷底幅,崩壊密度,海岸線の平面形・断面形などが異なる。そのため,地質境界にほぼ一致した直線状,弧状あるいは環状の急崖,傾斜急変線,谷,尾根,孤立丘などが生じる。それらが変動地形や火山地形に形態的に似ていることもある。このように物性の異なる岩石間における差別的な浸食または集団移動の結果として生じた地形が差別削剝地形つまり〈組織地形〉なのである。

 削剝様式は,(1)外的営力の性質(種類,大きさ,頻度),(2)外的営力を受ける地形構成物質の性質(岩石物性),(3)外的営力の加わる時間,の三つの基本的要因に制約される。また,削剝過程に関与する岩石物性としては,(1)岩石の力学的強さ--鉱物岩屑の凝結程度,(2)不連続性--地層面,葉理面,節理面,粒子間隙,(3)不均質性--鉱物種,粒径の不均等配列など,(4)透水性--空隙率,空隙孔径,割れ目密度,(5)風化特性--破砕,変質,膨張・収縮性,(6)溶解性--化学成分,(7)地質構造--地層面,節理面などの傾斜・方向など,(8)異方性--上記諸性質の方向による差異,などが重要である。

 削剝様式は前述のように岩石物性ばかりでなく,外的営力の性質と継続時間にも制約されるので,差別削剝地形の成否およびその特徴を制約する最も重要な岩石物性の種類は,場所と地質時代の経過によって空間的にも時間的にも変化する。たとえば,泥岩砂岩,レキ岩などの粒径の異なる堆積岩互層で構成される山地や丘陵をみると,一般に泥岩分布地域は相対的に低く,谷密度も大きいが,砂岩やレキ岩の分布地域は高くて,谷の少ない滑らかな尾根である。互層の傾斜が異なると,それに対応してホグバックケスタメーサなどの差別削剝地形が生じる。これらの地形は岩石の力学的強さの差異に起因することもあれば,細粒堆積岩ほど透水性が小さく,風化しやすいために粗粒岩より急速に削剝されることに起因することもある。しかし逆に,同じ強さであっても節理の多い泥岩が節理の少ない砂岩よりも高くて滑らかな尾根を形成していることもある。さらに,これらの互層が強大な圧力をもつ山岳氷河で浸食されると,岩石間の差別浸食は起こらず,一様なU字谷ができる。一方,力の小さな風による浸食をうけると,同一の地層内のわずかな硬軟の差を反映して微細な差別削剝地形が生じる。

 以上のように,差別削剝は,いろいろな性質の板を重ねた厚いベニヤ板を切断する場合,道具が紙やすり,鉄やすり,かみそり,なた,ナイフ,のこぎり,おののどれであるかによって,切口の形が異なることにたとえられる。かくして,差別削剝地形は物性の差異の著しい岩石が接している地域ほど,また外的営力の種類が多様で,かつそれらの大きさと頻度の小さい地域(たとえば半乾燥地域)ほど顕著に形成される。日本では,深成岩,火山岩,変成岩,堆積岩のどれかが整合,不整合,断層で接する地域をはじめ,固結岩と未固結岩の間,岩脈,岩床,断層破砕帯,温泉変質帯,石灰岩とその周囲,風化岩と未風化岩の間などの境界部に顕著な差別削剝地形がみられる。地形図の読図や空中写真の判読によって差別削剝地形を精査すると地質境界(正しくは岩石物性境界)が推定できる。
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出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

世界大百科事典(旧版)内の組織地形の言及

【構造地形】より

…一方,ニュージーランドや日本のような新しい地質時代(新第三紀の後半以来現在まで)の地殻運動や火山活動が活発な変動帯では,断層や褶曲運動が現在も活発で,地殻内部やマントル上部に原因をもつ地殻運動(地殻変動)に起因する地形が多く認められる。そこで,従来〈構造地形〉として一括されていた地形を,岩石の性質や地質構造を反映した浸食地形と,地殻変動(地殻運動)に起因する地形とに二分することが1950‐60年代にニュージーランドや日本の地形学者によって提唱され,前者を〈組織地形〉,後者を〈変動地形〉とよぶようになった。しかし,一部では従来のように〈構造地形〉の語を厳密に定義せず,組織地形と変動地形との両方に用いている場合があるので注意を要する。…

※「組織地形」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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