封建社会の基本的階級関係である領主と農民との関係をみると,領主が土地を領有し,生産者たる農民は,その領主の土地を分有(保有)して耕作している。領主はその領有権(上級所有権)に基づいて,農民から封建地代を収取するのであるが,この地代収取を実現するための方法の本質的特徴をなすものが,経済外的強制である。マルクスは,この特徴を,資本主義の場合と対比することによって明らかにした。すなわち,資本主義の下では,労働者は自分の労働力を資本に売って賃金という代価を受け取るが,このとき労働者の剰余労働は,労働力売買という商品交換の経済法則によって,強制なしに資本に収奪されていく。これに対して封建社会では,農民は土地保有権(下級所有権)をもって自立した経営を行い,その生産物を我が物としている。そのため農民の剰余労働である地代は,商品交換の経済法則ではとれないのである。それゆえ農民から地代を取り立てるためには,領主の強制力が必要となってくる。この強制力が,経済外的強制である。つまり経済法則ではなく,経済外的な力ということである。この強制力は,領主が農民に対してもっている直接的な権力,すなわち人格的な支配力から生じている。その人格的な支配力は,土地の給付をめぐる領主と農民との間の恩恵と奉仕という関係に由来している。恩恵と奉仕という関係が,他の面で支配と従属という関係として現れてくるのである。こうした人格的な支配関係は,制度的には身分制として現れる。身分,つまり生れながらにして定まっている人々の上下の関係が,領主の経済外的な強制力の必然的な根拠と意識されているのである。領主は,この強制を執行し遂行するための機構として,一つは武力機構,つまり封建家臣団の機構をもち,もう一つとして領主裁判権をもっていた。こうした機構によって農民の抵抗を抑えつけ,地代を順調に収取し得たのである。以上のような本質的構造のうえに,さらに具体的な地代収取のための規則や統制が形成されたのである。こうした強制は,労働地代収取の農奴制においては,強制的に労働をさせるための鞭の力として現れていたが,地代が生産物地代・貨幣地代と形態を変えていくと,ストレートな強制力として現れるよりも,一種の契約的関係として制度化されていくことが多かった。
執筆者:安孫子 麟
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
資本主義社会においては、剰余労働の収取は、労働力という商品の売買、つまり商品交換の法則性(経済法則)を媒介として行われるが、資本主義以前の封建社会においては、労働力が商品化されていないので、剰余労働の収取は商品交換の法則性によって媒介されることがない。封建社会において剰余労働の収取を媒介するものが経済外的強制である。
すなわち、封建社会においては、支配者たる領主は、その所領の全体に対する上級所有権者として各種の領主的諸権利を所持しているが、直接生産者たる農民は、それぞれ、一定の広さの土地の保有者(下級所有権者)であり、その保有地を自己の労働に基づいて経営することによって自己を再生産している。このように、直接生産者たる農民が事実上その生産手段と不可分に結合している場合には、領主が農民の剰余労働を封建地代として収取しようとすれば、領主は、その領主的諸権利という、経済外的な強制力を発動するほかはない。したがって、封建社会においては、封建的な権利・義務の関係という形をとった経済外的強制が剰余労働の収取を媒介しているのである。その強制力は、直接の暴力として現れる場合もあるが、多くは、封建的身分規定に基づく一定の慣習として現れ、領主裁判権がその強制力に法的な保障を与えることになる。
[遅塚忠躬]
『高橋幸八郎著『市民革命の構造』(1950・御茶の水書房)』▽『マルクス著『資本論』第3巻第6編第47章(向坂逸郎訳・岩波文庫/岡崎次郎訳・大月書店・国民文庫)』
出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報
…封建社会では,個々の領主の支配する所領(荘園)が生産関係の基本単位をなしており,そこでは,直接生産者たる農民および手工業者などはそれぞれ生産手段(土地および用具など)と結合しており,領主は,その所領全体の封建的土地所有者として,それら直接生産者を支配している。そして,直接生産者の剰余労働ないし剰余生産物(自分と家族の維持に必要な部分を除いた剰余部分)は,経済外的強制(領主の行使する武力や裁判権や慣習など)によって,領主の手中に徴収されるのであり,こうして徴収された剰余労働ないし剰余生産物の総体が封建地代なのである。封建地代の形態としては,労働地代(賦役労働),生産物地代,貨幣地代の3者があり,歴史的にはこの順序で推移するが,二つまたは三つの形態が複合している場合もある。…
※「経済外的強制」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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