デジタル大辞泉
「纓」の意味・読み・例文・類語
えい【×纓】
1 冠の付属具で、背後の中央に垂らす部分。古くは、髻を入れて巾子の根を引き締めたひもの余りを後ろに垂らした。のちには、幅広く長い形に作って巾子の背面の纓壺に差し込んでつけた。時代により形状が異なり、垂纓・巻纓・立纓・細纓・縄纓などの区別がある。
2 冠が落ちないようにあごの下で結ぶひも。
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えい【纓】
- 〘 名詞 〙
- ① 冠の装飾具。冠のうしろに長く垂れるもの。古くは、髻(もとどり)を入れて巾子(こじ)の根を引き締めた紐の余りを、うしろに垂らした。のちには、別に両端に骨を入れ羅(うすぎぬ)を張り、巾子の背面の纓壺(えつぼ)に、差し込んで垂らした。主として文官は垂纓(すいえい)、武官は巻纓(けんえい)で、江戸以降、天皇は立纓(りゅうえい)を用いた。五位以上は有文(うもん)、六位以下は無文。そのほか柏夾(かしわばさみ)、細纓(ほそえい)、縄纓(なわえい)があり全部で六種。
- [初出の実例]「風はやきほどに、えひふきあげられつつたてるさま、絵にかきたるやうなり」(出典:蜻蛉日記(974頃)下)
- ② 冠を固定するために、あごの下で結ぶ紐。
- [初出の実例]「伏乞、陛下、解レ網而泣レ辜、絶レ纓而報レ讎」(出典:性霊集‐四(835頃)請赦元興寺僧中璟罪表)
- 「泥裏有泥なり、踏者あしをあらひ、また纓をあらふ」(出典:正法眼蔵(1231‐53)春秋)
- [その他の文献]〔楚辞‐漁父〕
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普及版 字通
「纓」の読み・字形・画数・意味
纓
23画
[字音] エイ・ヨウ(ヤウ)
[字訓] ひも・かざりひも
[説文解字]
[字形] 形声
声符は嬰(えい)。嬰は貝の首飾り。首にけて垂らす飾り紐。〔説文〕十三上に「冠の系(ひも)なり」とみえる。
[訓義]
1. ひも、かざりひも。
2. 冠のひも。
3. 馬のむながいを繁纓という。
[古辞書の訓]
〔名義抄〕纓 エンビ・カカル・カムザシス 〔字鏡集〕纓 フサ・カク・カカル・カムサシス・カフリノヲ・カフリノタレヲ・エンビ・ワキアケ・マサシ
[語系]
纓・嬰・瓔iengは同声。鞅iangは馬の繁纓。
[熟語]
纓冠▶・纓▶・纓襟▶・纓▶・纓綬▶・纓▶・纓▶・纓佩▶・纓縻▶・纓▶・纓▶・纓絡▶
[下接語]
衣纓・華纓・解纓・衿纓・結纓・紅纓・香纓・珠纓・襲纓・条纓・纓・塵纓・世纓・請纓・絶纓・組纓・帯纓・濯纓・長纓・朝纓・繁纓
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纓
えい
古代以来、貴族階級が公服に用いた冠(かんむり)の付属物で、冠の後方に垂らす部分。飛鳥(あすか)時代後期に中国より導入されたイラン式の漆紗冠(しっしゃかん)は、髪を頭上に束ねた髻(もとどり)を、巾子(こじ)という筒に入れ、その上から袋状に仕立てた絹や布をかぶり、髻の根元を共裂(ともぎれ)の紐(ひも)で結んで締め、結び余りを後ろに垂らした。この垂らした部分を纓とよび、その形より燕尾(えんび)ともいった。平安時代に冠が大きく固くつくられるようになると、纓も幅広く長いものとなって、後ろにただ綴(と)じ付けて垂らした。鎌倉時代になると形式化して、纓の元を冠に取り付けた纓壺(えいつぼ)に上から差し込んで、しなって垂れ下がる形となった。凶事または非常の際には、纓を巻いて白木の柏夾(かしわばさみ)によって留めた。武官の用いるものは、内に巻いて巻纓(けんえい)とよび、黒く塗った夾木(はさみぎ)で留めた。六位以下の武官は、纓の輪郭である纓筋(えいすじ)だけを折り曲げて纓壺に差し込み、細纓(さいえい)といった。これに対して普通に垂らしたものを垂纓(すいえい)とよぶこととなった。
[高田倭男]
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纓
えい
日本独自の冠の付属品の1つ。冠の縁を2分して額のほうを磯 (いそ) ,後方を海 (うみ) といい,海に挿し入れて垂らす細長い布を纓と称した。元来は令制の頭巾の結び余りから変化したもので,地質が羅のような薄い地であったので,平安時代 (9世紀) に漆をはいて形を固定し,院政頃 (10世紀) より冠と纓が分離するようになった。形も初めは燕尾であったのが長方形となり,天皇の纓は高く直立する立纓 (りゅうえい) であるが,文官は垂纓 (すいえい) といって纓を垂れ下げ,武官は巻纓 (けんえい) といって巻くのが普通であり,その巻き方も衣紋の流儀によって異なる。また六位以下の武官が警固や駆馳 (くち) をする際には,挙動が便利なように纓筋だけの鯨鬚黒塗りのものを輪にして挿し,これを細纓 (ほそえい) と称した。葵祭,石清水祭,春日祭などに供奉する衛士,馬副 (うまぞえ) はこれを用いる。
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纓【えい】
冠の装飾具。冠の後部にさしてたらすもの。平安中期までは2枚の羅(ら)をたらし,燕尾(えんび)といったが,のち両側にクジラのひげを入れて羅を張った1枚の堅いものになった。天皇は直立した立纓(りゅうえい),臣下は垂纓(すいえい),武官は巻いてとめた巻纓(けんえい),六位以下はクジラのひげを2本たわめてさしただけの細纓(ほそえい)を用いた。
→関連項目冠
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世界大百科事典(旧版)内の纓の言及
【冠】より
…これらの冠は大会,饗客(きようきやく),斎時などに用い,別に黒の絹でつくられた鐙冠(つぼこうぶり)という,当時の壺状鐙の形をなしたものがあった。その後,冠の裂地には二,三の変改があったが,天武天皇のときに新たに漆紗冠(しつしやかん)と圭冠(けいかん)とが制定され,前者は唐制にのっとったもので,冠の前後に四つの纓(えい)がついており,前纓は平時は上にあげて髻の前で結び,後纓は垂らすか,あるいは髻の上を結んだひもにはさんだ。これが後世の冠の祖となったもので,当時の形態を知るものに法隆寺伝来聖徳太子の像がある。…
※「纓」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」