聞こし召す(読み)キコシメス

デジタル大辞泉 「聞こし召す」の意味・読み・例文・類語

きこし‐め・す【聞こし召す】

[動サ五(四)]動詞「聞く」の尊敬語「きこす」に動詞「見る」の尊敬語から転じた「めす」の複合したもの》
本来の「飲む」「食う」の尊敬語から転じて、酒を飲むことを戯れていう。「だいぶ―・して真っ赤な顔をしている」
聞く」の尊敬語。お聞きになる。
し大后はこの事―・さねかも」〈・下〉
聞き入れる」の尊敬語。お聞き入れになる。お許しになる。
「上達部御前に召さむ、と啓し給ふ。―・すとあれば」〈栄花初花
治める」の尊敬語。お治めになる。
難波の海おし照る宮に―・すなへ」〈・四三六一〉
飲む」「食う」の尊敬語。お飲みになる。召しあがる。
「物などたえて―・さず、日を経て青みせ給ひ」〈浮舟
[類語]食べる召し上がる上がる召す

出典 小学館デジタル大辞泉について 情報 | 凡例

精選版 日本国語大辞典 「聞こし召す」の意味・読み・例文・類語

きこし‐め・す【聞召】

  1. 〘 他動詞 サ行四段活用 〙 ( 「きく(聞)」の尊敬語「きこす」に「見る」の尊敬語から転じた「めす」が付いて一語となったもの )
  2. [ 一 ]
    1. 「聞く」の尊敬語。お聞きあそばす。お聞きになる。
      1. [初出の実例]「天皇は、此日(このごろ)八田若郎女に婚ひまして、昼夜戯遊ますを、若し大后は此の事聞看(きこしめさ)ねかも」(出典古事記(712)下)
      2. 「きこしめす御心まどひ何事も思しめしわかれず、こもりおはします」(出典:源氏物語(1001‐14頃)桐壺)
    2. ( から転じて ) 「思う」「考える」の尊敬語。お思いになる。お考えあそばす。
      1. [初出の実例]「うちにもなめく心あるさまにきこしめし人々もおぼすところあらむ」(出典:源氏物語(1001‐14頃)真木柱)
    3. 「聞いて承知する」意の尊敬語。お聞き入れになる。また、お受け入れになる。受納なさる。
      1. [初出の実例]「献るうづの大幣帛(おほみてぐら)安幣帛の足幣帛(たりみてぐら)と、平らけく安らけく聞看(キコシメセ)と」(出典:延喜式(927)祝詞(九条家本訓))
      2. 「『上達部御前に召さん』と啓し給ふ。きこしめすとあれば」(出典:栄花物語(1028‐92頃)初花)
    4. ( 天皇が臣下から政事をお聞きになるところから ) 「治める」「支配する」の尊敬語。お治めになる。
      1. [初出の実例]「何地(いづこ)に坐さば、平らけく天の下の政(まつりごと)を聞看(きこしめさ)む」(出典:古事記(712)中)
      2. 「御出家の後も万機の政をきこしめされしあひだ」(出典:平家物語(13C前)一)
    5. 「飲食する」の尊敬語。召しあがる。
      1. [初出の実例]「其の大嘗(おほにへ)を聞看(きこしめす)殿に屎(くそ)麻理(まり)〈略〉散らしき」(出典:古事記(712)上)
      2. 「物などもきこしめさず、朝がれひの気色ばかり触れさせ給ひて」(出典:源氏物語(1001‐14頃)桐壺)
      3. 「氏光薬を一裹(つつみ)持て参り〈略〉毎朝一七日聞召候へとて」(出典:太平記(14C後)一九)
    6. ( 節会(せちえ)などで、天皇が御饌(みけ)を召しあがるの意から ) 宴をお催しになる。とり行なわれる。
      1. [初出の実例]「今日は新嘗のなほらひの豊の明り聞許之売須(きコシメス)日に在り」(出典:続日本紀‐神護景雲三年(769)一一月二八日・宣命)
      2. 「ことしは、節きこしめすべしとて、いみじうさわぐ」(出典:蜻蛉日記(974頃)上)
    7. ( 近世以後 ) 酒類を飲むことを戯れていう。
      1. [初出の実例]「其内一盃きこしめせと、戸棚の隅より備前徳利(びぜんとくり)取出し」(出典:談義本・教訓続下手談義(1753)三)
      2. 「例によって飲(キ)こしめした、朝から赤ら顔のとろんとした目で」(出典:婦系図(1907)〈泉鏡花〉前)
    8. 一杯くう。うまうまとだまされる。
      1. [初出の実例]「弁慶親弁真といつはりしを、鎌倉中の大名・小名のひげ口へ、うまうまときこしめしたるおかしさよ」(出典:浄瑠璃・百日曾我(1700頃)傾城請状)
  3. [ 二 ] 連用形「きこしめし」に他の動詞が下接して複合動詞をつくり、「聞く」にその動詞の下接した複合動詞を尊敬語化する。
    1. [初出の実例]「其の容姿(かたち)麗美(うるは)しと聞看(きこしめし)定めて」(出典:古事記(712)中)
    2. 「さこそおぼし捨てたるやうなれ、しづかにきこしめしすまさむ事、今しもなむ」(出典:源氏物語(1001‐14頃)若菜下)

聞こし召すの語誌

( 1 )上代では、[ 一 ]用法が多いが、平安時代には[ 一 ]の用法が多く、「めす」が補助動詞化するにつれて、さらに尊敬の意を付け加えるようになり、最高敬語の一つとなった。
( 2 )中世には、尊敬の助動詞「る」を下接して「聞こしめさる」の形でも用いられ、室町時代には、「こしめす」の形も生じる。

出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報 | 凡例

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