召す(読み)メス

デジタル大辞泉 「召す」の意味・読み・例文・類語

め・す【召す】

[動サ五(四)]《「」と同語源。ごらんになるためにお呼び出しになるところから》
「人を呼び寄せる」「招く」「取り寄せる」「呼び出して任ずる」などの尊敬語。「神に―・される」
「御すずり急ぎ―・して」〈帚木
もろこし判官に―・されて侍りける時に」〈古今・九九三・詞書
《「お取り寄せになる」意から》身にとり込む、身につける、また身体に関連する動作をいう。
㋐「食う」「飲む」「着る」「履く」「買う」また、「乗る」などの尊敬語。「お酒をたくさん―・しておられる」「和服を―・していらっしゃる」「花を―・しませ」「車にお―・しになる」
㋑「(風邪を)ひく」「(風呂に)はいる」「(気に)いる」「(年を)とる」などの意の尊敬語。「お風邪を―・す」「お年を―・した方」「お気に―・しましたか」
㋒「切腹する」の尊敬語。「お腹を―・す」
広く、「する」の尊敬語。なさる。→召される
《命令して、無理に呼び寄せる、取り寄せるところから》命によって捕らえる。また、お取り上げになる。現在、複合語に用いる。「―・し取る」「―・し上げる」
補助動詞)尊敬語動詞の連用形に付いて尊敬の意を強める。通常、一語化したものと認める。「しらしめす」「きこしめす」「おもほしめす」など。
[類語](1呼び寄せる呼びつける召し寄せる呼ぶ/(2㋐)食べる上がる召し上がる聞こし召す着るまとう着けるちゃくする着用する羽織る引っ掛ける身ごしらえする身仕舞いするよそおはくかぶる着込む着こなす突っかける召される・お召しになる

出典 小学館デジタル大辞泉について 情報 | 凡例

精選版 日本国語大辞典 「召す」の意味・読み・例文・類語

め・す【召・見】

  1. ( 動詞「みる(見)」に上代の尊敬の助動詞「す」が付いて音の変化したもの )
  2. [ 1 ] 〘 他動詞 サ行五(四) 〙
    1. [ 一 ]
      1. ( 見 ) 「見る」の尊敬語。御覧になる。
        1. [初出の実例]「いにしへを思ほすらしもわご大君吉野の宮をあり通ひ売須(メス)」(出典:万葉集(8C後)一八・四〇九九)
      2. 「統治する」の尊敬語。お治めになる。
        1. [初出の実例]「やすみしし わが大君 高照らす 日の皇子 荒栲の 藤原が上に 食(を)す国を 売之(メシ)給はむと」(出典:万葉集(8C後)一・五〇)
      3. 「人を呼び寄せる」「招く」の尊敬語。お呼び寄せになる。
        1. [初出の実例]「はしきやし栄えし君のいましせば昨日も今日も吾(わ)を召(めさ)ましを」(出典:万葉集(8C後)三・四五四)
        2. 「聞けども聞けども飽かぬものは、母氏が我子と召(めシ)し御音なり」(出典:東大寺諷誦文平安初期点(830頃))
        3. 「かしこき相人ありけるを聞こしめして、宮のうちにめさんことは、宇多の帝の御誡めあれば」(出典:源氏物語(1001‐14頃)桐壺)
      4. 特に「呼び出して官職につかせる」の尊敬語。御任命になる。
        1. [初出の実例]「中臣の鎌子の連を以て、神祇(つかさ)の伯(かみ)に拝(メス)」(出典:日本書紀(720)皇極三年正月(岩崎本訓))
      5. 「呼びよせてかわいがる」の尊敬語。寵愛なさる。目をおかけになる。
        1. [初出の実例]「時に皇孫、姉(あね)は醜(みにく)しとおほして、御(メサ)ずして罷(ま)けたまふ」(出典:日本書紀(720)神代下(鴨脚本訓))
      6. ( 上位者が無理に呼び寄せるというところから ) 命によって捕える。「めしいましむ」「めしおく」「めしきんず」「めしこむ」「めしすう」など、複合語として用いることが多い。
        1. [初出の実例]「強盗の張本ありけり。今津に宿りたるよしきこしめして、西面の輩をつかはして、からめ召れける時」(出典:古今著聞集(1254)一二)
      7. 「名づける」の尊敬語。(ある名で)お呼びになる。
        1. [初出の実例]「『まつよひ、かへるあした、いづれかあはれはまされる』と御尋ありければ〈略〉とよみたりけるによってこそ、待よひとはめされけれ」(出典:平家物語(13C前)五)
      8. 物などを「取り寄せる」「差し出させる」の尊敬語。お取り寄せになる。提出おさせになる。
        1. [初出の実例]「仁和寺に菊の花めしける時に」(出典:古今和歌集(905‐914)秋下・二七九・詞書)
      9. 特に、「買う」の尊敬語。お買いになる。お買い上げになる。お求めになる。
        1. [初出の実例]「女の、よきつみやめすと売りありきけるを聞きて」(出典:続詞花和歌集(1165頃)戯咲)
        2. 「花をうる人も〈略〉花をめせ花をめせと云て、たれが処へもゆけども」(出典:中華若木詩抄(1520頃)上)
      10. ( 上位者、官の命によって無理に取り寄せるところから ) 命によって取りあげる。お取りあげになる。
        1. [初出の実例]「申うくるところの詮は、ただ重盛が頸をめされ候へ」(出典:平家物語(13C前)二)
        2. 「先祖所領を半分めさるる事そもなに事ぞ」(出典:曾我物語(南北朝頃)一)
      11. 身にとり入れる、着ける、さらに、身体の一部に関連する動作をいう尊敬語。
        1. (イ) 「食う」「飲む」の尊敬語。めしあがる。
          1. [初出の実例]「石麻呂に吾物申す夏痩によしといふ物そむなぎ取喫(めせ)〈売世(メセ)反也〉」(出典:万葉集(8C後)一六・三八五三)
          2. 「大かはらけをぞまゐらせしに、三度はさらなる事にて、七八度などめして」(出典:大鏡(12C前)四)
        2. (ロ) 「着る」「はく」の尊敬語。おめしになる。おはきになる。
          1. [初出の実例]「あを色の御唐衣、蝶をいろいろに織りたりしめしたりしいふかたなくめでたく」(出典:建礼門院右京大夫集(13C前))
          2. 「夜も明方になりぬれば、めしもならはぬ草鞋しめはき給ひて」(出典:御伽草子・鉢かづき(室町末))
        3. (ハ) 行水などをなさる。風呂をお使いになる。
          1. [初出の実例]「御行水をめさばやとおぼしめすはいかがせんずる」(出典:平家物語(13C前)三)
        4. (ニ) 「(腹を)切る」の尊敬語。切腹なさる。
          1. [初出の実例]「かなはぬ所にて御腹めされん事、なにの義か候べき」(出典:平治物語(1220頃か)中)
        5. (ホ) 「(年を)とる」の尊敬語。年をおとりになる。
          1. [初出の実例]「段々お年を召して来ると」(出典:落語・樟脳玉(下の巻)(1891)〈三代目三遊亭円遊〉)
        6. (ヘ) 「(風邪を)ひく」の尊敬語。
          1. [初出の実例]「お風でもめしてはお悪うございますから」(出典:滑稽本・浮世風呂(1809‐13)二)
      12. 広く「する」「作る」の尊敬語として用いることがあるが、多くは「めされる」の形で用いる。→召される[ 一 ]
        1. [初出の実例]「トノノ ゴシュッケ mexebatote(メセバトテ)」(出典:ロドリゲス日本大文典(1604‐08))
    2. [ 二 ] 補助動詞として用いる。
      1. 他の尊敬語動詞の連用形に付いて、尊敬の意をつけ加えるのに用いる。「おもほしめす」「きこしめす」「しろしめす」など。通常一語化したものとされている。
      2. 特に近世、動詞の連用形に付いて、尊敬の意を添える。まれな用法で、通常は「めされる」が用いられる。→召される[ 二 ]
        1. [初出の実例]「此会座におゐて、たやすく仏心をしりめす事、我等より仏縁ふかき、面々の御仕合と申ものでござる」(出典:盤珪仏智弘済禅師御示聞書(1688‐1704頃)下)
  3. [ 2 ] 〘 自動詞 サ行五(四) 〙
    1. 「乗る」の尊敬語。お乗りになる。
      1. [初出の実例]「それより御輿にめして福原へいらせおはします」(出典:平家物語(13C前)四)
    2. 「(風呂に)はいる」の尊敬語。おはいりになる。
      1. [初出の実例]「お風呂が涌ましたから、誰様ぞ入湯(メシ)ませんか」(出典:人情本・英対暖語(1838)三)

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