六訂版 家庭医学大全科 「肝胆膵疾患」の解説
肝胆膵疾患
かんたんすいしっかん
Diseases of liver, gall bladder and pancreas
(お年寄りの病気)
原発性肝がん
高齢者の
したがって治癒切除により長期生存を期待できる患者さんが多く、手術の適応は非高齢者と変わりません。手術前後の管理を注意深く行えば、安全な肝切除が可能です。
転移性肝腫瘍
肝腫瘍のなかで最も頻度が高く、がん死亡者の25~50%、消化器系腫瘍の約半数にみられます。肝切除の適応は、原発巣が根治的に切除されており、肝以外に転移がなく肝病巣が切除可能範囲内に限られていて、全身状態が肝切除に耐えられることなどがあげられます。肺に転移がみられても、これが切除可能な場合には肝切除の適応となります。大腸がんではこのような条件を満たす例が多いのです。
転移性肝腫瘍では肝機能は正常であることが多いので、肝切除術は非常に安全に行うことができます。
胆石症
一方、胆石症の症状は急性あるいは慢性胆嚢炎に伴って生じるもので、主な3つの徴候は上腹部痛、発熱、
治療としては、腹腔鏡下胆嚢摘出術、開腹下胆嚢摘出術、内視鏡的胆管結石摘出術、経皮経肝胆嚢ドレナージ術(PTGBD)が適応を選んで行われます。
胆道がん
胆嚢がんには高率に胆嚢結石を合併することから、胆石症は胆嚢がんの背景因子として重視されてきました。私たちの検索では胆嚢結石957人の胆嚢がん合併頻度は6.0%と、結石のない3525人における胆嚢がんの頻度1.0%に比べて6倍と有意に高率でした(表18)。
胆嚢がんや胆管がんに特有の症状はなく、多くは胆石症、胆道炎に似た症状や所見を示します。胆嚢がんのなかには無症状で、胆嚢摘出術の時に偶然発見されるものがあり、この場合は予後がよいものがあります。症状があるのはいずれも進行がんであることが多く、予後は不良です。胆嚢壁には粘膜筋板がなく、筋層が薄いため、容易に
外科的治療は進行度(とくに深達度)に応じて単純胆嚢摘出術、拡大胆嚢摘出術、肝右葉あるいは部分切除などに胆管切除術やリンパ節郭清を組み合わせて行います。粘膜がんは単純胆嚢摘出術で十分です。固有筋層までの浸潤がんは、全層胆嚢摘出術+リンパ節郭清、漿膜下層までの浸潤がんは、系統的肝亜区域S4a・5切除術(または肝床切除術)+胆管切除術+リンパ節郭清、それ以上の深達度のものは症例に応じて臓器の合併切除を付加します。
急性膵炎
通常は上腹部の激痛で発症し、
治療は原則として保存的に行われます。主なポイントは①膵臓の安静、②疼痛の除去、③ショック、感染の予防・治療などです。しかし、集中治療室(ICU)治療で改善しないものや感染性壊死が認められるものに対しては、外科的治療を考慮します。
高齢者の急性膵炎には、原発性急性化膿性膵炎と呼ばれるべき高齢者ならではの特徴をもった一群があります。その特徴は以下のとおりです。①臨床症状に
膵液による自己消化である実質壊死や脂肪壊死が軽度であるのは、膵臓の老人性変化が理由として考えられます。
膵がん(通常型膵がん)
近年増加の傾向にあり、高齢者に多くみられるため、高齢者の診療にあたっては重要な疾患です。
通常型膵がんは膵管由来の
外科的治療の問題点として、膵臓が
欧米の報告では、膵がんの切除率は25%で、5年生存率は9%、5年生存した人の約半数は膵がんの再発で死亡するとされています。これらを計算すると、膵がんから生還できるのは100人に約1人ということになります。日本における最近の報告でも5年生存率は9%と欧米と同様の報告となっています。
通常型膵がんは、診断がつけば手術を考慮します。遠隔転移のないことや局所の進展が過度でないことが切除の適応となります。拡大リンパ節郭清、血管合併切除は予後の改善にはつながりませんが、がんを取りきる
補助療法として放射線治療や化学療法があります。最近では塩酸ゲムシタビンやTS1などの抗がん薬による治療によって局所の制御や肝転移の予防に対して少しずつ効果が得られるようになってきています。
膵管内乳頭粘液性腫瘍(IPMN)
最近、
最近この腫瘍はIPMNとして世界的に認知されるようになりました。平均初発年齢は66歳と高齢で、男女比は2.2対1と男性に多くみられます。膵頭部に存在する症例が多く70%に及びます。膵管内に存在するうちは予後がよいのですが(図20)、他臓器に浸潤したものでは予後不良となります。高齢者に多く発生することから手術の適応とタイミングが検討されています。
手術適応については、主膵管型であればそれだけで手術適応、分枝型は径が約3㎝以上、隆起性病変や肥厚した隔壁の存在、主膵管が7㎜以上などが手術適応とされます。
膵臓の外科手術
ハーバード大学の検索では、膵切除術はこの10年間の前半と後半を比べると明らかに増加しています。後半では
胃内容の停滞は、
高齢者でも膵頭十二指腸切除術の適応はあります。
現在行われている膵頭十二脂腸切除術では
出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報