胆沢城跡(読み)いさわじようあと

日本歴史地名大系 「胆沢城跡」の解説

胆沢城跡
いさわじようあと

[現在地名]水沢市佐倉河 八幡

平安時代前期、東北経営のために律令国家によって築造された城。鎮守府としての軍事的機能とともに行政的性格をもつ施設であったとみられ、多賀たが城に置かれていた陸奥国府と統治を分担していたと考えられる。城跡は胆沢扇状地東端部の北上川・胆沢川合流点右岸の段丘上にあり、跡地は方形をなす。南方は藤古とうご沢が天然の堀となっており、西面を旧奥州街道が斜走する。現状はほぼ水田だが、国指定史跡で、史跡公園として保存整備されることになっている。指定面積約四二万平方メートル。

〔歴史〕

律令国家による東北経営は七世紀から行われていたが、八世紀初めには多賀城が創建され、鎮守将軍・按察使などが任命された。「続日本紀」宝亀七年(七七六)一一月二六日条に「発陸奥軍三千人伐胆沢賊」とあり、この頃東北経営の前線が胆沢にまで迫っているが、同一一年には上治郡の大領伊治公呰麻呂が伊治これはる(現宮城県栗原郡築館町)で反乱を起こし、多賀城を攻め炎上させるとともに按察使紀広純以下を殺害している(同書同年三月二二日条)。以後一進一退の攻防が続き、「征東」軍と蝦夷との間で戦闘が繰返されているが、「征東」軍の拠点は多賀城であった。

胆沢の地は征東将軍紀古佐美が「水陸万頃」と評したように(「続日本紀」延暦八年七月一七日条)、律令国家にとって魅力ある地であったが、日高見蝦夷の本国であり、奈良時代の末頃からは北上川上流の蝦夷がここに結集し、「征東」軍と対峙していた。北上川作戦を再開した年の「続日本紀」延暦八年(七八九)六月三日・九日条に載る紀古佐美の奏文の「胆沢之地、賊奴奥区」「胆沢之賊惣集河東」という表現がこのことを物語っている。古佐美の率いる「征東」軍は北上川を左岸に渡って「賊師夷阿弖流為之居」を攻めるが、「巣伏村」の戦いで壊滅的な大敗を喫し、この作戦は不首尾に終わった(同書六月三日条)

出典 平凡社「日本歴史地名大系」日本歴史地名大系について 情報

国指定史跡ガイド 「胆沢城跡」の解説

いさわじょうあと【胆沢城跡】


岩手県奥州市水沢区佐倉河渋田にある古代城柵跡。東は北上高地、西は奥羽山脈に囲まれた北上盆地のほぼ中央、北上川沿いに立地する。征夷大将軍として派遣された坂上田村麻呂(さかのうえのたむらまろ)が802年(延暦21)に築城し、この年、蝦夷(えみし)の指導者アテルイは降伏した。翌年にはこれより北の北上川と雫石(しずくいし)川の合流点近くに、約840m四方の志波(しわ)城(盛岡市郊外)が築かれたが、水害のせいで主要拠点になりえず、812年(弘仁3)ごろに志波城に代わって規模の小さい徳丹城(紫波(しわ)郡矢巾(やはば)町)が築かれた。胆沢城は最前線に位置することから重要視され、国府のある多賀城から鎮守府が移され、陸奥国北部を統治する軍事・行政拠点として、後三年の役(1083~87年)あたりまで機能した。1922年(大正11)に国の史跡に指定された。発掘調査によれば、幅2.4m、高さ3.9mの築地で画された約675m四方という巨大な外郭と、その内部の大垣で囲われた90m四方の政庁域からなる。そして郭内には政庁を中心として、官衙や厨などが配されていた。外郭の外周には幅5mの大溝があり、内周にも幅3mの溝がめぐらされ、築地には各面に門や櫓(やぐら)が築かれた。政庁には正殿や脇殿、正門となる南門などが設けられ、外郭の南門と政庁の南門との間に、引見のためのもう一つの門(政庁前門)が築かれていた。鬼瓦、蕨手(わらびで)刀、硯、木簡などが出土し、すぐ近くの奥州市埋蔵文化財調査センターに展示されている。JR東北新幹線水沢江刺駅から車で約15分。

出典 講談社国指定史跡ガイドについて 情報

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「胆沢城跡」の意味・わかりやすい解説

胆沢城跡
いさわじょうあと

岩手県奥州市にある平安時代の鎮守府の遺跡。胆沢城は,律令政府による胆沢の蝦夷制圧直後の延暦 21 (802) 年に陸奥国胆沢城使の坂上田村麻呂により造営された。その後まもなく鎮守府が多賀城 (→多賀城跡 ) から移され,鎮守将軍,軍監以下の職員および兵士らが配置された。北上川西岸の河岸段丘にあり,北方にその支流胆沢川を控えた遺跡は,1辺約 670mの正方形を呈し,周囲には築地跡が門,櫓の遺構とともに残り,その外側に幅広い溝跡がある。内部には掘立柱建物跡や列柱跡があり,古瓦や土器,木器,鉄器などが出土する。また,築地南方でも建物跡が発見されている。 1922年国の史跡に指定。

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