日本大百科全書(ニッポニカ) 「自然アンチモン」の意味・わかりやすい解説
自然アンチモン
しぜんあんちもん
antimony
半金属元素鉱物の一つ。自然砒(ひ)、自然蒼鉛(そうえん)と同系同構造。自然砒との中間物は安砒鉱stibarsen(化学式SbAs)という和名が与えられ、独立種として扱われている。少量成分としてヒ素(As)を含む。他の成分が微量検出された結果も報告されているが、通常の方法で研磨すると、共存する鉱物の微粒がその表面に付着、表面を汚染し、そのままの結果では、それが本来のものか、周囲の鉱物によるものか判断できない。確実なのはヒ素のみである。自形は普通立方体に近い菱(りょう)面体をなすが、正三角形の底面が発達した上下対称のやや低い菱面体となることもある。また球状、集落状、腎臓(じんぞう)様を呈し、放射状の内部構造を示すこともある。
深~浅熱水性鉱脈型金属鉱床中に産するほか、石灰岩接触交代作用で生成されたスカルン中に産することもある。またカリフォルニア州カーンKern郡では、温泉起源と考えられる堆積(たいせき)性のホウ酸塩鉱物の濃集部に、重さ数キログラムに及ぶ塊状集合を成して産する。日本では群馬県利根(とね)郡片品(かたしな)村車沢に露出する石英脈中に、ミアジル鉱、銀安四面銅鉱とともに顕微鏡的な微細粒として産する。
共存鉱物として報告されているものは、自然銀、輝安鉱、安砒鉱、方鉛鉱、閃(せん)亜鉛鉱、車骨鉱、石英などのほか、カーン郡ではウレクス石ulexiteなどのホウ酸塩と共存する。分解物は白安鉱が多いが、黄安華が生成されることもある。同定は完全な劈開(へきかい)、非常に強い金属光沢と錫(すず)白色による。白安鉱は光沢が強く、黄安華は黄色なので、これらが認められると、その集合の内部に包有されていることもある。テルル鉛鉱は外観・光沢ともに類似するが劈開面が直交する。元素名アンチモニーについては、諸説あるがラテン語のアンチモニウムantimoniumに由来するという説以外は確定していない。
[加藤 昭 2016年9月16日]