自画像(読み)ジガゾウ(英語表記)self-portrait
autoportrait[フランス]
Selbstbildnis[ドイツ]

デジタル大辞泉 「自画像」の意味・読み・例文・類語

じが‐ぞう〔ジグワザウ〕【自画像】

自分で描いた自分自身肖像画
[類語]肖像ポートレート画像影像彫像塑像画面実像虚像残像

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精選版 日本国語大辞典 「自画像」の意味・読み・例文・類語

じが‐ぞうジグヮザウ【自画像】

  1. 〘 名詞 〙 自分で描いた自分の肖像。
    1. [初出の実例]「鉛筆の自画像」(出典:我等の一団と彼(1912)〈石川啄木〉四)

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改訂新版 世界大百科事典 「自画像」の意味・わかりやすい解説

自画像 (じがぞう)
self-portrait
autoportrait[フランス]
Selbstbildnis[ドイツ]

彫刻または絵画(素描,版画も含む)による美術家の自己表現で,肖像芸術の特異かつ重要な一部門をなす。美術家にとって自身の容姿はもっとも身近な描写対象であるため,自画像または自刻像は美術とともにつねに存在するとも言える。西洋の文献では,たとえば大プリニウスの《博物誌》に前6世紀の彫刻家の自刻像に関する記載があり,また中世にもそれに類する逸話や作品が伝存するが,モデルを特定できる作例は14世紀末ころ以降となる。プラハ大聖堂の彫刻家P.パルラーの自刻像(1374-85)は現存するもっとも古いものの一つで,フィレンツェ洗礼堂扉のギベルティのそれ(1426)などとともに,みずから関与した記念碑的建築や彫刻作品の一隅に自身の肖像を残したいとする念願の表現である。中国や日本では自画像の観念は西洋よりも希薄で,画僧明兆が淡路島に住む母親へ送ったという自画像(14世紀中ごろ)などは例外的である。

 自画像の制作に鏡を用いることは15世紀初頭のフランスの写本画に女性が鏡の前に座って自身の姿を描くさまが図示されていること,またデューラーの1484年の銀筆素描の銘文に鏡像である旨が記されていることなどから明らかである。その場合両手を添えて描いた3/4正面像となることが多く,筆をもつ右手が画中では左手となって他方の手のうしろに隠され,また眼は自身を正視する形で後から描き入れられるのが定石である。ヤン・ファン・エイクの《赤いターバンの男》(1433)がもし自画像であるとすれば,上記の型はヤン・ファン・エイクによって15世紀初頭にネーデルラントで創始されたことになる。これに対しルネサンス期のイタリアでは画家が画中の一人物として登場する型が多く,それを〈助手像としての自画像〉と呼ぶが,やはりモデルを確定しうる例は少なく,ゴッツォリが《三博士の参拝》(1458)中に名前を記した帽子をかぶる自身の姿を描いたのが有名である。

 前記1484年の銀筆自画像で13歳の自身の姿を克明に記録したデューラーは,3点の油彩自画像のほかにも数点の〈助手像〉(油彩),そして多くの素描をものしたが,それらはなんらかの願望や理想を込めた奉納像votive tablet的な性格をもっている。これに対し,約60点の油彩および20点の版画の自画像を残したレンブラントの場合は,40年にわたる画業を通じてつねに自己を凝視し,比類なき絵画による自叙伝を構築して近代的自画像の概念を確立した。しかしこれは,新興国オランダの市民社会において初めて可能であったことと思われる。すなわち,ほぼ同時期のスペインの宮廷画家ベラスケスは《宮女たち》(1656)を,制服姿で作画中の自身を立たせた〈アトリエ図〉として描き,またカトリック圏ネーデルラントの画家ルーベンスやファン・デイクはいずれも貴族としての顕示的な姿において自画像を描き,レンブラントに見る自己とのひたむきな対決の姿勢は見られない。その一方,18世紀後半以降市民社会が確立し,職人組合や宮廷からもしだいに独立した芸術家は,自己の特殊性を強調する形で自画像を描き,それはときにはボヘミアン的または自虐的な姿をさえ示すようになる。その好例が約40点の自画像を残したゴッホである。20世紀に入り自画像は肖似性を超えて,心象として表現されたり象徴的特色を帯びることにもなる。アンソールピカソの場合がそれである。

 日本では先に触れた明兆の自画頂相(ちんそう)のほかにも,雪舟の71歳の寿像(1490,現存するのは雲谷等益の模写),雪村周継(16世紀末),良寛(19世紀はじめ)などの自画像や,自画像と伝えられる岩佐又兵衛(勝以(かつもち))像(1650ころ),北斎晩年の素描,また円空や木食明満の自刻像等が知られるが,いずれも特殊な偶発的な作品である。自画像の概念が明確となるのは20世紀になって西洋美術の影響下においてであり,岸田劉生黒田清輝小出楢重らの作例がよく知られている。
肖像
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「自画像」の意味・わかりやすい解説

自画像
じがぞう
selfportrait

画家あるいは彫刻家が自分自身を表現した作品をいうが、彫刻の場合はとくに自刻像ともいう。すでにギリシアの画家たちが試みたことを文献は伝えている。中世にその例は少ないが、彫刻、ミニアチュールなどに若干の例がみられる。15世紀ころ、フランドル、イタリアにおいて祭壇画、壁画などの群像中に自画像を描くことが行われ始めるのは、芸術家における個我の意識の発達に即応するものと思われる。またベネチアでの板ガラスの製作が、鏡による自画像の制作を促したことも否めない。通常、自画像は、鏡によって制作されるため、制作中のポーズとなり、斜めの姿勢、当然、左右逆になる。この種の制作中の自画像は、17世紀には「高貴な」ポーズとさえ考えられ、職業的な誇りの自覚を示している。また、たとえば、レンブラントの数多くの例が示すような他のポーズでの自画像もある。現象的には自画像をこの二つのタイプに分類することが可能であるが、しかしいずれの場合も個の自覚と心理的な自己省察にかかわる。単にモデルが手近にいないためという理由ではなく、なんらかの自己省察が画家たちをして自己に対面せしめると考えてよい。まったく自画像を描かなかった芸術家の例も少なくない。しかし他方に、レンブラント、ゴッホのようにきわめて多く自画像を描いた芸術家もいる。またピカソは青年期を除いてほとんど自画像らしいものを描かなかったが、他のさまざまな対象に託して自己を語っている。たとえば版画連作の「彫刻家」や、晩年の「画家とモデル」のテーマなどである。一般に自画像は、注文あるいは売却の意図でなされるものではなく、芸術家の意識の高揚なり沈潜(たとえばゴッホの『ほうたいを巻いた自画像』など)の状況で描かれるだけに、かえって多くの優れた傑作を残している。

中山公男

日本

もともと日本画には自画像の伝統はなく、幕末以後に西洋画の移入に伴って日本でも描かれ始めたものであるため、近代でも日本画には少なく、主として洋画家たちがこれに取り組んだ。最初の記念作は高橋由一(ゆいち)が明治直前に描いたとされる『丁髷(ちょんまげ)姿の自画像』であろう。また、東京美術学校西洋画科の最初の指導者となった黒田清輝(せいき)は、卒業制作に自画像を一課題としたが、その刺激のもとに青木繁(しげる)らの秀作が生まれた。明治末から大正にかけて自我と個性への意識が高まり、萬鉄五郎(よろずてつごろう)、岸田劉生(りゅうせい)は多くの自画像を描き、また関根正二、村山槐多(かいた)、中村彝(つね)、小出楢重(こいでならしげ)らが優れた自画像を残している。昭和期では、個性否定の戦時下において松本竣介(しゅんすけ)と靉光(あいみつ)の描いた毅然(きぜん)たる自画像が特筆に値するであろう。

[小倉忠夫]


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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「自画像」の意味・わかりやすい解説

自画像
じがぞう
self-portrait

自己の顔貌を表現した絵画および彫刻。記録に残る最初の自画像は,プリニウスが伝える前6世紀のギリシアの彫刻家テオドロスのブロンズ像。美術家が作中の人物群に自画像を描き込んで署名の代用としたことはおそらく古代エジプト以来行われていたと考えられるが,個性の自覚が強く意識されたルネサンス期にはそれが特に盛んとなり,またデューラーをはじめ幾多の美術家によって純然たる自画像も制作されるようになる。 17世紀にはレンブラントが約 60点の絵と 20数点の銅版画の自画像を残し,近代ではクールベやゴッホの自画像がよく知られている (→肖像 ) 。

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世界大百科事典(旧版)内の自画像の言及

【メッケネム】より

…後期にはホルバイン(父)らの画家たちと提携して,彼らの下絵を版画化し,版画出版を業として初めて成功させた。また,妻イダを伴った自画像(1490年代)は,版画による自画像の最初期の作例である。【八重樫 春樹】。…

※「自画像」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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