デジタル大辞泉 「漆」の意味・読み・例文・類語
うるし【漆/漆=樹】
2 ウルシの樹皮に傷をつけて採取した樹液(
[類語]塗料・ペンキ・ペイント・ラッカー・エナメル・ワニス
出典 平凡社「普及版 字通」普及版 字通について 情報
天然樹脂の油性塗料の一つ。日本、中国、ベトナムなどに産するウルシ科の植物ウルシの表皮に切り傷をつけると、傷口から乳白色の乳濁状の樹脂を分泌する。これを生漆(きうるし)という。主成分はウルシオールで、そのほかに似た構造をもつラッコールやチオコールなどや、水分と少量のゴム質を含んでいる。採取の時期や方法、産地によっていろいろな名称があるが、なかでも盛夏から彼岸にかけて採取するものを盛漆(さかりうるし)といい、これはウルシオールが多く、水分が少ない良質のもので、とれる量も多い。日本産と中国産が良品であり、ほかのものはやや劣る。しかし最近は良品のものは得にくくなっている。
[垣内 弘 2020年9月17日]
生漆は、そのまま塗料にしても光沢が悪く、しかも酸化酵素ラッカーゼにより乾燥が早すぎるので、各用途に応じて加工(変性)が必要である。採取直後の生漆は、空気に触れると固化(樹脂化)する。生漆を木窯(きがま)に入れて常温でかき混ぜ、さらに38~40℃で数時間保存すると黒目漆(くろめうるし)が得られる。この工程を素黒目(すぐろめ)といい、主反応は酸化と脱水と考えられている。このほか、あまに油などの油や、種々の顔料(がんりょう)を加えて最終製品の精漆(せいうるし)が得られる。代表的なものに黄鉛(おうえん)を加えた黄漆(きうるし)があり、美しい黄色の塗料である。なお、生漆を70℃程度に加熱すると、ラッカーゼが作用しなくなり、固化しにくくなる。しかし130℃程度に熱すると、重合反応をおこして固化する。これを焼漆(やきうるし)という。
[垣内 弘 2020年9月17日]
漆は日本や中国で古くから金属や木工塗装用として用いられてきた。とくに黒目漆は漆器類に現在でも珍重されている。漆の塗膜は硬く、付着性、耐水性、光沢などに優れているが、耐候性に乏しく乾燥が遅いなどの欠点がある。生漆からゴム質を除いて加工した漆は焼付け塗料としても用いられる。しかし安価な合成樹脂塗料の発達に伴い、高価で塗布技術に熟練を要する漆は、おもに美術工芸品に使用されている程度で、その使用量は減少している。
なお、漆を手や顔につけるとウルシオールの作用でかぶれを生ずる。
[垣内 弘 2020年9月17日]
『松田権六著『うるしの話』(岩波新書)』
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