古代に作られていた乳製品の一種。酥とも書かれる。《政事要略》には,文武天皇4年(700)10月に蘇を作らせたという記事があり,これが文献上最古の記録と思われる。奈良時代になると平城宮址出土の木簡に〈近江国生蘇三合〉と見え,《正倉院文書》には周防国や但馬国で蘇を作っていたようすがうかがわれる。平安時代になると,大宰府のほか46ヵ国を6区分して,毎年順番に蘇を貢進させたことが《延喜式》に見え,これらから,奈良・平安期にはほぼ全国的に蘇が生産され貢進されていたことがうかがえる。この蘇は内蔵寮に保管され,必要に応じて諸行事の際に使われていた。《江家次第》などによると,大臣大饗(だいきよう)の際には,天皇から蘇と甘栗をつかわされる決りで,その勅使を〈蘇甘栗使(そあまぐりのつかい)〉と呼んだ。また二宮大饗の献立には蘇が加えられるのが例であった。しかし,このように重用された蘇であったがはたしてきちんと貢納されていたかどうかは疑わしく,815年(弘仁6),845年(承和12)の2度にわたり,貢蘇の期日を守るべき太政官符が出され,865年(貞観7)には貢蘇の期を違えた国司の処罰規定が定められている。やがて蘇をはじめとする乳製品は律令政治の命運とともに衰退し,1334年(建武1)の《若狭国貢蘇役文書案》を最後にほとんど記録上から姿を消す。
蘇については,《本草和名》《和名抄》《医心方》などが中国の文献を引用して,牛乳から酪(らく),酪から蘇,蘇から醍醐(だいご)が作られ,酪はニウノカユと呼ばれ,蘇は黄白色をしており,醍醐は蘇の精液であるという。蘇の作り方に関する唯一の手がかりは《延喜式》民部下にある〈蘇を作る法は,牛乳1斗を煎(せん)じて蘇1升を得る〉,つまり牛乳を1/10に煮つめたものという記述である。これにしたがって実験してみたところ,黄白色になるように煮つめるには低温で加熱する必要があり,さらに焦げつかせないためには途中から湯煎にするなどのくふうを必要とした。約150時間かけて黄白色の粉末状の固体が得られたが,それでも1/9程度にしかならず,1/10にまでするにはかなりの時間と技術を要するものと思われた。醍醐が蘇の精液とすると,蘇が液体であったとも考えられるが,上の実験からは,蘇は固体状の栄養に富んだ食品であったといえそうである。
執筆者:飯野 亮一
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
乳製品の一種。平城宮跡出土木簡(もっかん)に近江国の「生蘇(なまそ)三合」が確認されており,奈良時代には貴族を中心に摂取されていた。「延喜式」に記される製法によると,乳1斗を煮つめて蘇1升をえるとある。また諸国貢蘇番次が定められており,平安時代には46カ国から献上され,内蔵寮(くらりょう)が管掌した。大臣大饗(だいじんだいきょう)などの儀式にも用いられ,蘇甘栗使(そあまぐりのつかい)が派遣されて下賜されたが,中世には姿を消した。
出典 山川出版社「山川 日本史小辞典 改訂新版」山川 日本史小辞典 改訂新版について 情報
出典 日外アソシエーツ「動植物名よみかた辞典 普及版」動植物名よみかた辞典 普及版について 情報
…天津が集産地であったから日本では天津栗というが中国では板栗といい,品質は最も優れている。日本では平安時代,大臣に新任されたときの大饗(たいきよう)などのさい,朝廷から蘇(そ)と甘栗を賜るならわしがあり,それを届ける勅使を蘇甘栗使(そあまぐりのつかい)と呼んだ。この甘栗は干栗(ほしぐり)であったと思われるが,《延喜式》には干栗のほかに〈搗栗(かちぐり)〉〈平栗(ひらぐり)〉と呼ぶものもあり,それらと甘栗の違いはよくわからない。…
…日本では,大化改新のころ,福常(善那ともいう)が孝徳天皇に牛乳を献上し,天皇は善那に〈和薬使主〉の姓と〈乳長上〉の職を与えたという。その後,宮中で乳牛が飼われたこともあり,《延喜式》には諸国に〈蘇(そ)〉を作って献上させたことが記されている。蘇は現在の練乳に相当するものとされているから,この時代には酪農がかなり進み,牛乳が利用されていたことが想像できる。…
…哺乳類における乳腺の分泌液で,子の理想的な食物である。乳汁の組成は動物の種類によって異なり,ウシでは乾燥重量で,タンパク質と脂肪がおのおの20%,糖が60%を占める。それぞれの量は,子の成長が早い種類ほど多い。子の体重が生まれたときの倍になるまでの平均日数は,アザラシが5日,アナウサギが6日,イヌが8日,ネコが9日,ヒツジが10日,ブタが18日,ウマが60日であるが,乳汁1l中のタンパク質の量(g)は,アザラシ119,アナウサギ104,イヌ97,ネコ95,ヒツジ70,ブタ37,ウマ20である。…
※「蘇」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
〘 名詞 〙 年の暮れに、その年の仕事を終えること。また、その日。《 季語・冬 》[初出の実例]「けふは大晦日(つごもり)一年中の仕事納(オサ)め」(出典:浄瑠璃・新版歌祭文(お染久松)(1780)油...
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