那智滝(読み)なちのたき

日本歴史地名大系 「那智滝」の解説

那智滝
なちのたき

[現在地名]那智勝浦町那智山 飛滝

那智川上流の那智山中にある滝。山中には烏帽子えぼし山・大雲取おおくもとり山・妙法みようほう山・舟見ふなみ峠より流れ出る四つの渓流が流れ、多くの滝がある。これを「那智四十八滝」と総称する。

那智大滝(一の滝。単に那智滝という場合は、大滝をさすことが多い)は那智山大鳥居をくぐり、杉木立の茂る石段を下った鳥居前方にその全貌がみえる。高さ一三三メートル、幅一三メートル、滝壺の深さは一〇メートルに及ぶ。滝の頂上、銚子ちようし口から三本になって滝が落ちるところから、三筋みすじの滝ともいわれ、お滝などともよばれる。わが国有数の名瀑で国指定名勝。一の滝より下った所に文覚もんがくの滝があり、文覚荒行の滝として知られる。「熊野年代記」は仁徳天皇五年に那智滝が出現したと伝え、また「熊野権現金剛蔵王宝殿造功日記」は、孝昭天皇の時にこの那智滝に飛滝ひろう権現の本地仏千手観音が顕現したと伝えている。那智滝が文献にみえるのは「枕草子」に「那智の滝は、熊野にありと聞くがあはれなるなり」とあるのが早いようで、「平家物語」巻一〇(熊野参詣)には「三重に漲りおつる滝の水、数千丈までよぢのぼり、観音の霊像は岩の上にあらはれて、補陀落山ともいツつべし」と記される。

那智滝への信仰は古くからあったようで、那智山の信仰は滝が神聖視されたことに始まるともいわれている。一説に奥之院といわれる妙法山に登るための禊を行う場であったという。滝修行は那智籠山修行として行われ、すでに延喜七年(九〇七)には浄蔵の滝修行がみえ(扶桑略記)、そのほか仲山・林懐・花山法皇などの名もみえている(「元亨釈書」「扶桑略記」など)

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改訂新版 世界大百科事典 「那智滝」の意味・わかりやすい解説

那智滝 (なちのたき)

和歌山県南東部,東牟婁(ひがしむろ)郡那智勝浦町の那智山中にある滝。原生林が繁茂する山中には四つの渓流と多くの支流が流入して各所に滝があり,総称して〈那智四十八滝〉という。一般に那智滝といえばこのうち一ノ滝のことで,〈那智大滝〉〈お滝〉と呼ばれ,熊野那智大社の別宮飛滝(ひろう)神社の神体とされる。石英粗面岩断崖を落下する落差は133m,幅は13m,滝壺の深さは10mで国指定名勝。3本になって落下することから〈三筋の滝〉とも呼ばれ,滝のしぶきにふれると延命長寿の効験があると信じられてきた。滝の水は那智川となって熊野灘に注ぐ。

 熊野三山の一つとしての那智山の信仰は,この滝を神聖視することに始まるといわれ,古くから滝修行が行われてきた。《枕草子》にも〈那智の滝は熊野にありと聞くがあはれなるなり〉と記される。歌枕でもあり,西行は〈雲消ゆる那智の高嶺に月たけて光をぬける滝の白糸〉(《山家集》)と詠んでいる。巨勢金岡筆という伝えのある《那智滝図》(根津美術館蔵,国宝)は著名。なお那智四十八滝は,曾以(そい)の滝,波津以(はつい)の滝など各々に名があるが,一ノ滝の下流にある曾以の滝は,高雄の文覚が三七日(21日間)の滝修行をした滝として,文覚の滝ともいわれる。文覚の滝行は《平家物語》巻五の〈文覚荒行〉にも語られる。現在は,この滝でのみ滝行が許可される。
熊野大社 →那智山
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百科事典マイペディア 「那智滝」の意味・わかりやすい解説

那智滝【なちのたき】

和歌山県那智勝浦町,那智山中にある滝。那智四十八滝の一ノ滝(大滝)で,スギ,ヒノキ原始林におおわれた石英粗面岩の断崖にかかる。高さ133m,幅は落口で12〜13m。熊野那智大社の別宮飛滝(ひろう)権現の神体。《枕草子》に〈那智の滝〉とみえ,《平家物語》には〈三重に漲りおつる滝の水,数千丈までよぢのぼり〉などと記される。また歌名所として《八雲御抄》などにあげられ,西行らに詠まれている。2004年紀伊山地の霊場と参詣道として世界遺産条約の文化遺産リストに登録された。
→関連項目那智山

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「那智滝」の意味・わかりやすい解説

那智滝
なちのたき

和歌山県南東部、東牟婁(ひがしむろ)郡那智勝浦(かつうら)町の那智山にある滝。国指定名勝。那智山を流下する那智川が熊野(くまの)酸性岩の黒雲母花崗(うんもかこう)岩と第三紀中新統の宮井層との接合点につくる滝で、高さ133メートル、幅13メートル。那智山中の「四十八滝」の一の滝とされる日本有数の名瀑(めいばく)。那智権現(ごんげん)の神滝とされ、滝下に飛滝神社(ひろうじんじゃ)がある。また古くから滝修行が行われる。

[小池洋一]


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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「那智滝」の意味・わかりやすい解説

那智滝
なちのたき

和歌山県南東部,那智勝浦町にある滝。大雲取越の舟見峠 (884m) に源を発する那智川にかかる那智十二滝のなかの一の滝で,高さ 133m,幅 12m。 1972年名勝指定。修験道の滝修行場で,那智権現の神滝とされ,飛瀧 (ひろう) 神社の神体となっている。熊野観光の中心地でもあり,毎年7月 14日に滝本で行われる扇祭は,那智の火祭として知られる。吉野熊野国立公園に属する。

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事典 日本の地域遺産 「那智滝」の解説

那智滝

(和歌山県東牟婁郡那智勝浦町那智山)
美しき日本―いちどは訪れたい日本の観光遺産」指定の地域遺産。

出典 日外アソシエーツ「事典 日本の地域遺産」事典 日本の地域遺産について 情報

世界大百科事典(旧版)内の那智滝の言及

【熊野大社】より

…和歌山県熊野地方にある本宮,新宮,那智の3ヵ所の神社の総称。本宮(熊野坐(くまのにます)神社)は現在熊野本宮大社と称し,東牟婁(ひがしむろ)郡本宮町に,新宮(熊野早玉神社)は現在熊野速玉大社と称し,新宮市に,那智は現在熊野那智大社と称し,東牟婁郡那智勝浦町に鎮座する。 熊野は古くから霊魂観と縁の深い土地で,早くから山岳修行者の活躍が見られた。天平時代の永興禅師(《日本霊異記》)と平安中期の応照律師(《法華験記》)とがとくに有名で,山間の修行場が随所に形成された。…

【那智山】より

…大雲取山(966m)を最高に,光ヶ峰(686m),妙法山(750m),烏帽子(えぼし)山(909m)などを含む那智川上流一帯の山塊で,表面はかなり浸食が進んで壮年期的な山地となり,年間降水量は3500mmを超える多雨地帯である。これが那智滝の豊富な水源をなし,樹種300余種におよぶという,暖地性広葉樹を主とするうっそうたる原始林に覆われる。またこの那智原始林(天)はシダ植物の多いことでも知られる。…

※「那智滝」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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