配偶者のある者が重ねて法律上の婚姻をすること。内縁(事実上の婚姻)を重ねることや妾関係とは区別される。法律上,重婚とは,婚姻・離婚をめぐる事実上の関係と法的評価が重なりきらないところに発生する問題であり,次の各場合がある。第1は,日本の民法上・戸籍上の重婚である。第2は,形骸化した法律婚(外縁ともいう)と内縁が競合する場合の〈重婚的内縁〉である。第3は,〈外国法上の重婚〉である。日本のような戸籍制度をもたず,個人別の身分証書制度(身分登録制度)をとる欧米では,重婚は《ジェーン・エア》を持ち出すまでもなく,日常的に起こりうる必然性をもっている。第4は,〈国際私法上の重婚〉である。A国(日本を含む)で法律上有効な婚姻をした者が,B国でその国の方式により配偶者以外の者と婚姻した場合である。また離婚がらみで発生する重婚もある。たとえば,国籍の異なる男女間の離婚につき,その離婚を成立させた外国判決を一方当事者の本国が承認しなかったときに(いわゆる跛行婚limping marriageという状態はこのようなことを契機に生じる),その者がすでに第三者と再婚していたような場合などである。重婚には以上のようなケースがあるが,ここではもっぱら第1の意味での重婚をとり上げることにする。
近代社会では,私有財産制度の目的に基づく男子に有利な一夫一婦制が採用され,その結果,重婚が禁止されている。日本民法も,重婚を禁止し(732条),また,重婚が悪意である場合には,その相手方となる者(相婚者)とともに,刑法上,2年以下の懲役に処せられる(刑法184条)。ただしここにいう重婚とは,戸籍上の重婚(法律婚)をさし,内縁を含まない。近代社会における重婚の禁止は,道義上というよりは私有財産制度の目的と密接にかかわるものであることが,この点にも反映されている。もっとも,戸籍の届出制度が完備している日本では,法律上重婚が生じたり,重婚罪が適用される場合は,きわめて少ない。
重婚関係が発生する場合として次の各場合があげられる。(1)戸籍事務担当者の不注意により,二重に婚姻届が受理された場合,(2)失踪宣告を受けた者の配偶者が再婚したところ,後に失踪宣告が取り消された場合,(3)離婚後に再婚したところ,後に離婚が無効,あるいは取り消された場合,(4)認定死亡,あるいは戦死公報があった者の配偶者が再婚したところ,後に前配偶者が生還した場合,(5)内地と外地で二重に婚姻した場合,が考えられる。
重婚が生じた場合,民法上はその重婚を当然に無効なものとはせず,単に取り消しうるものとしている(744条)。したがって,重婚者,配偶者,その他の関係者が,重婚に対して,所定の法手続をとらない場合には,重婚は,法律上有効に存続せざるをえない。重婚が発生した場合,民法上の具体的な処置として次の方法がある。(1)前婚,後婚いずれかについて協議上の離婚をする。(2)当事者,その親族,検察官,当事者の配偶者または前配偶者からの請求によって,裁判所に重婚の取消しを請求する。この取消しに遡及効はないから,重婚者間の子は両者の嫡出子となり,重婚者間の財産関係についても,民法755~766条の規定が適用される。(3)前婚の配偶者が,重婚をなした配偶者に離婚を提起する。
執筆者:橋本 宏子
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
出典 平凡社「普及版 字通」普及版 字通について 情報
…この婚姻法は全27条からなり,結婚と離婚の自由,一夫一婦制,男女の権利の平等を骨子としている。家父長制下の強制的な結婚,重婚,蓄妾,童養媳,寡婦の再婚の自由への干渉は厳重に禁止された。また結婚登記の制度を導入した点も新しい。…
※「重婚」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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