鉄を熱して赤くなったのを鉄火というが、転じて活気みなぎる意のこと、さらには、裸で博打(ばくち)をする者の意にも用いる。また料理名にもよく使われる。江戸時代の『皇都午睡(みやこのひるね)』のなかに、「芝えびの身を煮て細末にし鮨(すし)の上に乗せたるを鉄火鮓(ずし)と云(い)うは身を崩してという説なるべし」とあり、これは博打の意から転じた名称である。また『春色恵の花』に、「鉄火味噌(みそ)に坐禅(ざぜん)豆梅干」とあり、鉄火みそは江戸時代からあった。色が赤く、辛味がきいているものにも鉄火の名がつけられた。鉄火みそは、炒(い)り大豆、刻みごぼう、麻の実などを油で炒(いた)め、みそやみりんなどを加えて練り上げる。マグロを用いた料理に鉄火の名がしばしば使われているが、天保(てんぽう)(1830~1844)中期以前にはすしにマグロは用いていない。鉄火巻きの名称は明治以降からみられ、また、マグロの角切りを丼(どんぶり)飯の上に置き、焼きのりをふりかけたものを鉄火丼(どん)と名づけたのは大正以後とみられる。鉄火和えは、マグロを粗い賽(さい)の目に切り、熱湯をくぐらせたミツバ(2センチメートル長さに切る)少々を加え、わさびのきいたしょうゆで和えたものである。
[多田鉄之助]
…《看聞日記》によると,伏見宮領近江国山前荘と隣荘観音寺との間の山論で,1436年(永享8)3月に湯起請が行われている。戦国期になると,湯起請に代わって〈鉄火〉を取る例が目についてくる。〈鉄火〉は,双方の代表者が灼熱した鉄梃を手に取ったあと,その手のぐあいによって神意を判定するものであった。…
…呪術神託【杉本 良男】
[日本]
日本においては,先に中田薫が整理した8種のうち,火,神水,沸油,抽籤の4種によく似た方法が古代から近世初頭にかけて行われている。例えば火神判は鉄火(灼熱した鉄棒を握らせる),神水神判は神水起請(しんすいきしよう),沸油神判は盟神探湯(くかたち),湯起請(熱湯の中の石をとらせる)が類似のものであり,また抽籤神判にあたる鬮(くじ)とりもしばしば行われた。日本で行われた神判としては,このほか,参籠起請(2日,3日または7日,14日などあらかじめ決められた日数を社頭に参籠させる),村起請(多数の村人をいっせいに参籠させることか),落書(らくしよ)起請(無記名の落書で犯罪者を投票させる)などをあげることができる。…
…湯起請は史料の上では15世紀,室町時代中ごろのものが最も多いが,おそらく在地の慣行ではもっと古くから行われていたものであろう。 ところで,戦国時代末から江戸時代初頭にかけては,理非相半ばして決着をつけがたいような境相論に際しては,鉄火(火起請)もしばしば行われた。これは掌に牛玉宝印(ごおうほういん)を広げ,その上に灼熱した鉄棒,鉄片を受け,湯起請と同じように,かたわらの棚の上に置くものである。…
※「鉄火」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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