零点エネルギー(読み)レイテンエネルギー

デジタル大辞泉 「零点エネルギー」の意味・読み・例文・類語

れいてん‐エネルギー【零点エネルギー】

量子力学における粒子の最低エネルギー不確定性原理により、位置および運動量がある程度の幅をもつため、ポテンシャルエネルギーの最低値よりも高い値を取る。また、このエネルギーに対応する振動状態を零点振動という。ゼロ点エネルギー

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「零点エネルギー」の意味・わかりやすい解説

零点エネルギー
れいてんえねるぎー

量子力学における運動状態(量子的状態)にある粒子のエネルギーはもっとも低いエネルギーの状態においても零ではない。また電子中性子陽子などフェルミ粒子ガスは絶対零度の点においても零でないエネルギーを有している。これらのエネルギーを零点エネルギーという。

 量子的状態にある粒子が空間的に有限な広がりaをもつ領域で運動している場合、その運動量は不確定性原理により、平均の値を中心とするħ/a(ħはプランク定数hを2πで割ったもの)程度の幅の値を有している。したがってaが無限大でない限りその運動エネルギーはけっして零にはならない。また同様に不確定性原理のため運動エネルギーの有限な粒子は空間の一点にのみ存在することはできない。以上の結果として、量子的状態にある粒子はポテンシャルエネルギーの最低値の点にとどまっていることができず、そのエネルギーはこの最低値よりも高い値をもつ。2分子が接近すると各分子の双極子間の相互作用のため各分子の零点エネルギーの和が減少し、結果として分子間に引力的効果が生じる。またパウリの原理のため電子ガス内の各電子はエネルギーの低い順に各量子的状態に1個ずつ入っており、電子ガス全体のエネルギーは零でない大きさをもつ。この場合、電子ガスは零点エネルギー密度の3分の2の圧力を有している。これを縮退圧という。白色矮星(わいせい)が強い重力にもかかわらずその形を保っているのは電子の縮退圧のためである。

田中 一]


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化学辞典 第2版 「零点エネルギー」の解説

零点エネルギー
レイテンエネルギー
zero point energy

振動体のエネルギーを量子化して得られる振動準位において,振動量子数

v1v2 = … = vn = 0,
すなわち,すべての基準振動が最低エネルギー準位にある場合でも,系の振動エネルギーは0とはならず,

E0hcwidi/2

のエネルギーが残る.これを零点エネルギーという.ここで,hプランク定数cは光の速度,wは振動の縮退度,dは基準振動の波数である.このことは,振動運動を完全に凍結することが原理的に不可能なことを意味しており,E0 に対応する振動状態を零点振動という.分子振動における零点エネルギーの存在は,エンタルピー比熱容量などの測定からも認められている.本質的には不確定性原理に由来する事柄である.

出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「零点エネルギー」の意味・わかりやすい解説

零点エネルギー
れいてんエネルギー
zero-point energy

古典力学では,粒子などの平衡の位置はポテンシャルエネルギーが最小の位置であるが,量子力学では,不確定性原理により,ポテンシャルエネルギーが最小の位置に静止した状態は実現されず,基底状態のエネルギーはそれより必ず高くなる。この量子力学的な基底状態と古典力学的な平衡状態とのエネルギーの差を零点エネルギーという。たとえば振動数νの調和振動子の零点振動による零点エネルギーは (1/2)hν である ( hプランク定数 ) 。固体の零点エネルギーの合計は,絶対零度におけるその内部エネルギーである。

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世界大百科事典(旧版)内の零点エネルギーの言及

【零点振動】より

…力学的な系のエネルギー最低の状態でなお残っている運動。そのエネルギーの値を零点エネルギーzero‐point energyと呼ぶ。古典力学で扱えばエネルギー最低の状態では系の構成要素がすべて各自の平衡位置に静止することになるが,これでは位置と運動量がともに確定となり,量子力学では不確定性原理から許されない。…

※「零点エネルギー」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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