青海波(読み)セイガイハ

デジタル大辞泉 「青海波」の意味・読み・例文・類語

せいがいは【青海波】


(「清海波」「青海破」とも書く)雅楽。唐楽。盤渉ばんしき調で新楽の中曲。舞は二人舞で、舞姿は優美。「輪台りんだい」を序として引き続いて舞う。番舞つがいまいは「敷手」。
清元。永井素岳作詞、2世清元梅吉作曲。明治30年(1897)5世清元延寿太夫の襲名披露曲として初演。初世の定紋の青海波にちなんだもの。
波形をかたどった文様。半円形を同心円状に重ねたもの。の舞人の衣装に用いられたところから名づけられたという。

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精選版 日本国語大辞典 「青海波」の意味・読み・例文・類語

せいがいは【青海波】

  1. [ 1 ]
    1. [ 一 ] 雅楽の曲名。唐楽。新楽。黄鐘調盤渉調(ばんしきちょう)の中曲。舞楽の時は盤渉調の曲が用いられる。左方舞。舞人は二人。舞姿は優美であり、衣装は[ 二 ]の模様の下襲(したがさね)に千鳥模様の袍を着し、非常に凝ったものである。数ある舞楽中最も優美華麗な曲とされる。
      1. 青海波<b>[ 一 ]</b><b>[ 一 ]</b>〈舞楽図譜〉
        青海波[ 一 ][ 一 ]〈舞楽図譜〉
      2. [初出の実例]「源氏の中将はせいかいはをぞ舞ひ給ひける」(出典:源氏物語(1001‐14頃)紅葉賀)
    2. [ 二 ] 清元。永井素岳(ながいそがく)作詞。二世清元梅吉作曲。明治三〇年(一八九七)東京両国の中村楼で初演。五世清元延寿太夫の襲名披露曲で、初世の紋が青海波だったことからこの名がつけられた。東北から西国にかけての海の情景をうたったもの。
  2. [ 2 ] 〘 名詞 〙 [ 一 ][ 一 ]に用いる、波形を描いた衣服の染模様。また、それに似た模様。浅葱(あさぎ)に藍(あい)で渦(うず)を四分したような形のもの。また、その模様を描いた蒔絵。せいがいなみ。
    1. 青海波<b>[ 二 ]</b>
      青海波[ 二 ]
    2. [初出の実例]「殊勝御扇、絵〈青海波〉」(出典:教言卿記‐応永一二年(1405)八月九日)
    3. 「五十間の砂利に青海波(セイガイハ)のさまを見せ」(出典:洒落本夜半の茶漬(1788)発端)

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改訂新版 世界大百科事典 「青海波」の意味・わかりやすい解説

青海波 (せいがいは)

雅楽,管絃,舞楽の曲名。唐楽にふくまれ盤渉(ばんしき)調。二人舞の文ノ舞(平舞)。清海波,静海波,青海破とも書く。舞楽のときは,《輪台(りんだい)》(盤渉調,四人舞)を序,《青海波》を破として続けて舞う。舞楽の中では珍しく,箏と琵琶が伴奏に用いられるので,〈管絃舞楽〉と呼ばれる。番舞(つがいまい)は《敷手(しきて)》。《輪台》は左方襲(さほうかさね)(常)装束に別甲(べつかぶと)を,《青海波》はこの曲用の別装束の袍を片肩袒(かたかたぬぎ)に,別甲をかぶり,太刀を腰につけて舞う。《青海波》の袍は青海波の地紋に千鳥模様を刺繡した麴塵袍(きくじんのほう)といい,舞楽装束のうちでもっとも華麗なものである。輪台,青海はともに中国の西域地方の地名とされ,《輪台》は唐時代に中国で作られ日本に伝えられたとする説や,承和年間(834-848)に勅命によって,大納言良岑安世(よしみねのやすよ)が舞を作り,小野篁(おののたかむら)が詠(えい)(現在,詞のみ残っているが,発声法が伝わっていない)を作ったという説もある。一方,《青海波》は,音楽を太田麿あるいは大戸清上(おおとのきよがみ),舞を良岑安世が作ったとされる。この曲を正式に演奏するには多くの人数と時間,それに複雑な作法を必要とするので,近来は省略した形で行われている。演奏次第は,盤渉調調子・音取-延輪台(《輪台》の曲をゆっくり奏する。早八拍子,舞人登場)-早輪台(《輪台》を舞楽吹で早く奏する。早八拍子,当曲舞)-青海波(早八拍子,当曲舞)-延輪台(退場)。《輪台》の舞人4人のうち上位2人は先に舞台を降り,残り2人は舞い続ける。《輪台》の舞が終わらないうちに《青海波》の舞人が登場し,《輪台》の2人と行違いに舞台に登る。《輪台》が終わるとすぐに《青海波》の演奏がはじまり,舞人も舞いはじめる。《青海波》には両手を振り上げたり下ろしたり,波を思わせる振りが多く,打物にも千鳥懸(ちどりがけ),男波(おなみ),女波(めなみ)など特殊な手法が用いられる。また《輪台》《青海波》ともに管絃曲としても奏されるし,《青海波》は黄鐘調に渡物(わたしもの)がある。

 なお同名の曲が清元節(1897,作詞永井素岳,作曲2世清元梅吉)および都山流尺八本曲(1904,作曲中尾都山)にあるが,雅楽曲との関係はない。
執筆者:


青海波 (せいがいは)

文様の一種。同心の半円形を互い違いに重ねて波の模様を表現したもの。単純な文様なので,初めから大波を図案化したものかどうかはわからない。古くは人物埴輪(はにわ)の衣文にみえ,十二単(ひとえ)の〈大海の摺裳(おおうみのすりも)〉もこれである。蒔絵師青海勘七がこの文様を得意としたことから名称が出たともいわれるが,勘七が青海を自称したというべきであろう。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「青海波」の意味・わかりやすい解説

青海波(雅楽)
せいがいは

雅楽の曲名。「静海波」「清海波」「青海破」とも書く。唐楽で、左舞(さまい)。舞人は2人で、四人舞の『輪台(りんだい)』と続けて一組で奏される。曲名は西域の青海(せいかい)地方(中国青海省)の地名による。『輪台』と同じく伝来当時は平調(ひょうじょう)であったが、仁明(にんみょう)天皇(在位833~850)のとき、勅命により盤渉(ばんしき)調に改作される。当曲を繰り返し奏する間に、「詠(えい)」「音取(ねとり)」「唱歌(しょうが)」「吹渡(ふきわたし)」といった一連の小曲を差し挟む長大なもので、最後はふたたび『輪台』が奏され、舞人は楽人とともに行列をして退場する。実際には「詠」の詞(ことば)など、伝承が欠け不明な部分が多いため、略式で奏される。打物には「千鳥懸(ちどりがけ)」「男波(おなみ)」「女波(めなみ)」の特殊奏法がある。装束はこの舞専用の別装束で、下襲(したがさね)の波文がいわゆる「青海波文」である。舞楽であるが、正式演奏のときは「管絃(かんげん)舞楽」といい、箏(そう)、琵琶(びわ)を用いる。番舞(つがいまい)は『敷手(しきて)』。

[橋本曜子]


青海波(模様)
せいがいは

イチョウ形の波を左右45度の方向に反復した一種の割付け模様。元来は雅楽『青海波』の舞人の下襲(したがさね)にこの模様がつけられていたところから名づけられたという。日本では奈良時代以降今日に至るまで吉祥(きちじょう)模様の一つとして愛用されている。なお、元禄(げんろく)年間(1688~1704)江戸の塗師(ぬし)勘七が、特殊な刷毛(はけ)を使って黒漆でこの波模様を描くのを得意としたため、青海勘七とよばれた。彼により当時の流行模様となったという。

村元雄]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「青海波」の意味・わかりやすい解説

青海波
せいがいは

雅楽の楽曲。「清海波」「静海波」とも書く。現行は左方の唐楽の1つで,盤渉 (ばんしき) 調。舞楽としては『輪台 (りんだい) 』に続けて奏され,舞人は舞台4人,青海波2人のほかに「反鼻 (へんぴ) 」という桴 (ばち) を持った「垣代 (かいしろ) 」が 40人ほど出,楽人も各楽器1人ずつ出て後列に並ぶ。『輪台』の管弦吹である『延輪台』の演奏中に,舞人,垣代の「大輪 (おおわ) 」という道行があり,当曲 (中心の曲) になって舞吹の『早輪台』4帖,『青海波』5帖が奏され,いずれもその途中に「詠」「音取 (ねとり) 」「唱歌 (しょうが) 」「吹渡」などの特殊なものが入る。最後の退出楽には『延輪台』を用いる。両弦も用いるので管弦舞楽ともいう。本来平調 (ひょうぢょう) の曲を仁明天皇のときに移調したものとも伝えられる。

青海波
せいがいは

清元節の曲名。「清海波」とも書く。2世清元梅吉作曲。 1897年初演。5世清元延寿太夫の名披露の曲。永井素岳作詞。

青海波
せいがいは

都山流尺八の楽曲名。 1904年1世中尾都山作曲。都山流本曲の最初の曲。

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百科事典マイペディア 「青海波」の意味・わかりやすい解説

青海波(音楽)【せいがいは】

(1)雅楽の曲名。盤渉(ばんしき)調の唐楽。舞楽としても管弦としても演奏される。舞楽の場合は輪台(りんだい)に続いて舞われる優雅な二人舞である。(2)清元節の曲名。雅楽とは無関係で,5世清元延寿太夫の襲名披露の祝儀物。永井素岳作詞,2世清元梅吉作曲。1897年初演。

青海波(文様)【せいがいは】

海の波のうねりをかたどった模様。古くからあり,雅楽《青海波》の舞人の装束の模様に定められている。吉祥(きっしょう)模様の一つとして広く衣料に応用。

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世界大百科事典(旧版)内の青海波の言及

【ツツジ(躑躅)】より

…品種には関寺(せきでら),藤万葉,白万葉などがある。またモチツツジそのものの品種には胡蝶揃(こちようぞろい),花車(はなぐるま),青海波(せいかいは),駿河万葉(するがまんよう)がある。 サツキはツツジの仲間であるが,江戸時代からツツジとサツキは区別されてきた。…

※「青海波」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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