一般に戦場でのさけび声をいう。敵味方対陣するなか,戦闘は,それぞれがまず鬨をつくることから始められた。戦勝での勝鬨(かちどき)はよく知られている。《和訓栞》には〈軍神招禱したてまつる声を時つくるといひ,敵軍退散して神を送りたてまつる声を勝時と名(なづ)くともいへり〉とある。出陣にさいしても鬨をつくったことは,《吾妻鏡》の宝治合戦(1247)を記す部分に〈城九郎泰盛……一味の族,軍士を引率し,……神護寺門外において時声を作る〉とある例からも知られる。鬨は将と士卒以下の兵が相呼応して団結するための士気高揚を目的とした行為であり,古来から行われていた。しかし軍陣作法が云々された後世には,鬨の声の回数まで規定されるようになった。《軍陣聞書》には〈軍陣にて鬨の声を上る事,初めは大将などのえいえいと言へば,続の者おうと永く言うべし。三度程も上ぐべし〉と見えている。このように全員の呼吸に合わせて気勢をあげることが,戦場での精神的団結のうえでも必要とされた。また《武功雑記》には〈ときの声は左より右へあげ候は吉なり,右より左へあげ候は忌むなり〉とあり,左を陽,右を陰とする陰陽思想の関係で右回りを忌む作法が定着していたようすを知ることができる。こうした鬨について細かな規定も,それが勝敗吉凶を左右する儀式であったからにほかならない。
執筆者:関 幸彦
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
出典 平凡社「普及版 字通」普及版 字通について 情報
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