緑色の凝灰岩を意味する語であるが,Green Tuffと書く場合には,日本列島で第三紀中新世前期・中期の地層中に多い変質した火山岩や火山灰,火山礫(れき)などの火山砕屑物を主とする地層に対してつけられた固有名で,変質の結果,緑色を呈する部分があるためこう呼ばれている。この地層は,千島列島から北見地方一帯,渡島(おしま)半島から東北地方の奥羽山脈より西側の地域や新潟をへて能登・奥丹後・島根の各半島に至る日本海沿岸一帯,長野北部から富士山周辺,伊豆半島一帯などに広く分布する。同じ時代の変質した火山岩類は環太平洋各地に広く知られている。グリーンタフには,安山岩・石英安山岩・流紋岩の溶岩,凝灰角レキ岩,軽石凝灰岩などが多く,このうち石英安山岩・流紋岩質の軽石凝灰岩が緑色を呈することが多い。栃木県下で石材として採掘されている大谷石はその例である。緑色となるのは,変質によってできた鉱物のなかに,緑泥石,モンモリロナイト,セラドナイトなどに属する緑色の粘土鉱物があるためである。したがってグリーンタフといっても緑色を呈さない部分のほうが多い。また火山物質でない砂岩,泥岩などもはさまれており,これには植物化石や石炭層があって,グリーンタフの一部は陸上に堆積したものであることを示す。また海生の有孔虫類や二枚貝類の化石も発見され,海成層の部分もあることがわかる。火山岩類の変質の主な原因は,後の堆積の進行により,地下2~10kmの深さに埋もれて高い温度と圧力の下におかれたこと,および花コウ岩類の貫入や熱水の浸透などによると考えられている。
グリーンタフが分布している地域をグリーンタフ地域と呼ぶ。この地域には一般に厚い海成の新第三系が分布し,グリーンタフはその下部を占める。グリーンタフを形成した火山活動が始まった時代は,第三紀漸新世初頭(3700万年前)かもっと古い。全域で活動が盛んになったのは中新世初頭(2300万年前)で,中新世中期の初めごろ(1500万年前)まで続いた。この火山活動は日本列島に現在みられるものよりはげしく,現在の火山の総体積が約5000km3なのに対し,グリーンタフは15万km3にも達する。またその分布も広い。東北地方ではグリーンタフの火山活動の中心は奥羽山脈地帯で,ここは活動が終わるとまもなく隆起に転じ,山脈となって現在に至る。秋田県大館市付近など奥羽山脈の西側に沿う地帯では,この火山活動の末期に海底で金,銀,鉛,亜鉛などの金属が沈殿して黒鉱鉱床が形成された。黒鉱はグリーンタフ地域内の各地で発見されている。これよりさらに西側の日本海沿岸部では,グリーンタフ層の上に海成層が厚く発達する。これを堆積した海は初め深く,のちしだいに浅くなり,東から西へ陸化が進行した。この地層はグリーンタフとともに強く褶曲し,日本列島で最大の油田,ガス田を形成している。このようなグリーンタフの火山活動にはじまり,厚い地層群の堆積やその褶曲,隆起などを経て現在に至る一連の地殻変動をグリーンタフ変動と呼ぶことがある。
執筆者:鎮西 清高
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
岩石名として緑色化した凝灰岩をさす場合もあるが、新生代新第三紀中新世前期から中期の火山噴出岩を中心にした堆積(たいせき)物の総称として用いられる場合のほうが多い。後者の場合、特定の層準の地層の呼称になるわけであるが、現在では、門前層、台島層、西黒沢層およびそれらの相当層をさすのが一般的である。これらの地層中には、変質作用によって緑色化した凝灰岩(緑色凝灰岩)類と火山岩類が頻繁に認められる。
グリーンタフは、千島列島から北海道のオホーツク海側、西南北海道、東北日本の日本海側からフォッサマグナ、さらに西南日本の日本海側に広く分布する。これらの地域をグリーンタフ地域とよぶことがある。この地域においては、多くの場合、中新世前期から中期に、著しい陥没運動とともに激しい海底火山活動があり、しばしば数千メートルに及ぶ大量の火山噴出物を堆積させている。この大量の火山噴出物の存在がグリーンタフ地域を特徴づける第一の点である。第二の点は、高い地熱勾配(こうばい)と埋没の進行によって引き起こされる続成作用や、マグマ活動に伴う接触変成作用と熱水変質作用などによる著しい変質作用の存在である。これらの特徴は、千島‐東北日本‐伊豆‐マリアナと、西南日本という、新第三紀の二つの弧状列島におけるマグマ活動域の地質条件に対応している。
これに対して、グリーンタフと同層準の地層がありながら、その中に緑色化した火山噴出岩類をまったく、もしくはほとんど含まない地域を非グリーンタフ地域とよぶことがある。しかし、グリーンタフ地域と非グリーンタフ地域は、明瞭(めいりょう)な境界によって画されるものでなく、両者は漸移的である。
[伊藤谷生・村田明広]
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