彼処(読み)アソコ

デジタル大辞泉 「彼処」の意味・読み・例文・類語

あそ‐こ【処/所】

[代]
遠称指示代名詞話し手と聞き手の双方が承知している場所状況、人などをさす。
㋐あの場所、または、例の場所。あすこ。「―に見える店」「また―で待ってるよ」
㋑あのような程度。あれほど。「―まで仲が悪いとは思わなかった」
三人称人代名詞。あの人。彼。
「此の事―と少将ともろ心に」〈宇津保嵯峨院
[類語]あすこあそこらあそこいらあちらあっち彼方かなた

あす‐こ【処/所】

[代]あそこ」の音変化。「また、―へ行こう」
[類語]あそこあそこらあそこいらあちらあっち彼方かなた

かし‐こ【処】

[代]遠称の指示代名詞。
話し手・聞き手の両方から離れた場所をさす。あそこ。「どこも彼処満員だ」
「笑声嬉々として此処に起これば、歓呼怒罵乱れて―に湧く」〈独歩・忘れえぬ人々〉
話の中にあげられた場所をさす。そこ。
「この山守やまもりが居る所なり。―に小童あり」〈方丈記

あ‐こ【処/所】

[代]あそこ」に同じ。
「わしゃ―ではえらうきれるがな」〈滑・膝栗毛・五〉
[補説]現代でも京阪地方などで用いる。

あし‐こ【処/所】

[代]遠称の指示代名詞。場所を示す。あそこ。
「―に立てる何人ぞ」〈梁塵秘抄・二〉

出典 小学館デジタル大辞泉について 情報 | 凡例

精選版 日本国語大辞典 「彼処」の意味・読み・例文・類語

あそ‐こ【彼処】

〘代名〙 他称。話し手、聞き手両者から離れた場所を指し示す(遠称)。
(イ) あの場所。また、漠然とした場所や方向をさし、「ここ」と対比して用い、「あちこち」の意にもなる。
平家(13C前)一「あそこに追ひかけ、ここに追っつめ」
※あさぢが露(13C後)「あそこに燈台かしこに屏風など置きてありくを」
(ロ) 両者が了解し合える特定の場所をぼかしていう。例の所。
※夢を植える(1975‐76)〈清岡卓行〉バス停留所「そのかわり、あそこは、しだいに、痛いほど勃起してくる」
(ハ) 物事事態進展の度合をいう。「あそこまでしなくてもよい」

かし‐こ【彼処】

〘代名〙
① 他称。話し手、聞き手の両者から離れた場所を指し示す(遠称)。あそこ。
伊勢物語(10C前)九六「かしこより人おこせば」
※平家(13C前)一〇「ここにたたかひ、かしこにあらそひ」
② 他称。話の中で語られた場所を指し示す。そこ。
※阿波国文庫旧蔵本伊勢物語(10C前)八二「みなせといふところに宮ありけり。としごとのさくら花盛りにはかしこへなんかよひおはしましける」
[語誌]平安時代に発生した語。上代の中称・遠称代名詞「そこ」が平安時代、中称にだけ使用されるようになり、遠称にはあらたに「かしこ」を用いるようになった。

あす‐こ【彼処】

〘代名〙
① 他称。話し手、聞き手両者から離れた場所を指し示す(遠称)。あそこ。
※洒落本・廻覧奇談深淵情(1803)其四「あすこに見へるのは面(めん)かねへ」
② 両者が了解し合える、特定の場所を指していう。例の所。
※いつか汽笛を鳴らして(1972)〈畑山博〉三「本当にあすこへローソクはさむんだとよ」

あし‐こ【彼処】

〘代名〙 他称。話し手、聞き手両者から離れた場所を指し示す(遠称)。あそこ。かしこ。
※宇津保(970‐999頃)国譲上「あしこに待ちわたりなむとするを」
※源氏(1001‐14頃)若菜上「あしこに籠りなむのち、また人には見え知らるべきにもあらず」
[補注]同義語「あすこ」は後に発生して共通語となるが、「あしこ」は上方などに方言的なものとして残った。

あ‐こ【彼処】

〘代名〙 他称。話し手、聞き手両者から離れた場所を指し示す。あそこ。
※物類称呼(1775)五「あそこここといふを〈略〉京にてあこと云」

あっそ‐こ【彼処】

〘代名〙 「あそこ(彼処)」の変化した語。
※三体詩幻雲抄(1527)五「あっそこに青々と見へたは枝歟葉歟」

出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報

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