鼻のしくみとはたらき(読み)はなのしくみとはたらき

家庭医学館 「鼻のしくみとはたらき」の解説

はなのしくみとはたらき【鼻のしくみとはたらき】

◎鼻のおもな役割
◎鼻の主要な症状

◎鼻のおもな役割
 鼻は、呼吸のときの空気の通り道としてのはたらき以外に、吸い込んだ空気の加温・加湿、細菌や有毒物質などに対する防御、においを感じる感覚器、発声の際に音を響かせる共鳴器などの役割をはたしています。
 鼻のしくみは、外鼻(がいび)、鼻腔(びくう)、副鼻腔(ふくびくう)に分けられます。顔の外に張り出している鼻の外観を外鼻といいます(図「外鼻」)。外鼻の骨格は、骨と軟骨(なんこつ)でできています。鼻の中の穴を鼻腔(びくう)といい(図「正面から見た鼻の構造」図「横から見た鼻の構造」)、鼻腔と交通する、顔面の骨の中にある空洞(くうどう)を副鼻腔といいます(図「副鼻腔のいろいろ」)。
●鼻腔(びくう)のしくみ
 鼻腔は、その中央を鼻中隔(びちゅうかく)という骨と軟骨で構成されている仕切りの壁によって、左の鼻腔と右の鼻腔に分かれています。
 鼻腔の入り口の部分を外鼻孔(がいびこう)といい、ここからやや入ったところで、皮膚でおおわれている鼻腔の内部を鼻前庭(びぜんてい)といいます。鼻翼(びよく)でかこまれている部分の鼻腔の内部が、ちょうど鼻前庭に相当します。鼻前庭には鼻毛が生えていて、吸い込んだ空気の中の大きなごみを取り除くはたらきをしています。
 鼻前庭から奥の部分は、鼻粘膜(びねんまく)という薄い粘膜でおおわれています。鼻腔は単なる吹き抜け穴ではなく、複雑な構造をしています。
 鼻腔の外側の壁から鼻甲介(びこうかい)と呼ばれる、粘膜でおおわれた骨の隆起が張り出しています。鼻甲介は、上鼻甲介、中鼻甲介、下鼻甲介の3つがあって、ちょうどカーテンのようにぶらさがっています。そのため鼻腔の表面積はずいぶん大きくなっています。
 鼻腔のもっとも奥の後鼻孔(こうびこう)より後方では、仕切りはなくなってひとつの腔となり、のどのいちばん上の部分である上咽頭(じょういんとう)に続いています。
 鼻粘膜のはたらき 鼻粘膜には、線毛(せんもう)というごく細く短い毛がびっしりと生えています。また、鼻粘膜の中には、鼻腺(びせん)が存在し、たえず微量粘液(ねんえき)が分泌(ぶんぴつ)されています。線毛の上にある粘液は、線毛の動きによって1分間に約1cmのスピードで、鼻腔の前から後ろへと動いています。1日に鼻腺から分泌される粘液の量は、約1ℓにもなります。
 鼻前庭を通過した空気中の小さなごみ、ほこり、細菌などの微生物は粘液に付着し、線毛の運動によって鼻腔の奥へ運ばれ、のどからたんとなって出されたり、食道を通って胃に入ります。また、鼻の中の空気は鼻粘膜の表面の粘液によって湿気が加えられ、粘膜へ流れてくる血液によって温められます。
 このようにして、適度に温められ、湿りけをもったきれいな空気が、のどを通って肺に送られるしくみになっています。
●副鼻腔(ふくびくう)のしくみ
 顔の骨にはいろいろな形の空洞が鼻腔をとりかこむように存在しています。これらの空洞を総称して、副鼻腔と呼んでいます。
 副鼻腔はそれぞれ名前がついていて、頬(ほお)の裏側にあるのが上顎洞(じょうがくどう)、目と目の間には篩骨洞(しこつどう)、額(ひたい)の裏側は前頭洞(ぜんとうどう)、奥のほうにある空洞を蝶形骨洞(ちょうけいこつどう)といい、それぞれ左右一対あります。
 それぞれの副鼻腔が、鼻腔とつながる入り口は原則的には1つですが、人によっては複数の入り口が存在する場合もあります。
 副鼻腔の内壁は、鼻粘膜と同じ種類の粘膜でおおわれています。副鼻腔の粘膜にも線毛が生えていて、副鼻腔に入ったゴミをその上の粘液層でとらえて外に出します。
 副鼻腔のはたらき 副鼻腔がどんな役割をしているのかは、まだよくわかっていません。昔からいろいろな議論があって、たとえば外から力が顔面にきたときに、空洞があれば力が逃げるので衝撃を吸収するはたらきをしているとか、頭の重さを軽くしているという説があります。
 また、鼻腔と同様に、副鼻腔も吸気(きゅうき)の加温・加湿作用や、音声の共鳴作用にかかわっているのではないかとの説があります。
 これらの説は、いずれもまだ証明できる十分な結果が出ていません。

◎鼻の主要な症状
鼻閉塞(びへいそく)(鼻づまり)
 鼻閉塞は、鼻腔を通過する空気の通過性が低下して、鼻呼吸が十分かつ円滑にできなくなった状態をいい、程度の差はあっても、ほとんどすべての鼻の病気でおこり得る症状です。
 たとえば、炎症やアレルギーなどで鼻粘膜が腫(は)れたり、腫瘍(しゅよう)などのできものができたり、鼻中隔の弯曲(わんきょく)が強かったりすると、鼻腔内が狭くなって空気の通りが悪くなります。
 鼻閉塞が強くなると、口から空気を吸うようになります(口呼吸)。この結果、きたない、乾いた冷たい空気がのどに直接触れるために、のどを痛める原因となります。
 また、鼻腔は共鳴腔(きょうめいくう)としてのはたらきもしているため、鼻づまりがおこると、発声の際に音声に変化を生じて、いわゆる鼻声(びせい)になります。
鼻漏(びろう)
 正常の鼻粘膜は、鼻腺などからの一定量の鼻汁(びじゅう)でおおわれています。鼻汁は線毛運動によってのどに運ばれた後に飲み下されて、正常な状態では鼻汁の存在は自覚されることはありません。しかし、鼻の炎症やアレルギーなどの病気によって鼻汁量が増加すると、鼻腔内にたまったり、外鼻孔のほうへ流れ出てくるようになります。
 この症状を鼻漏(鼻水)といい、鼻汁が後鼻孔からのどに流れる場合を、とくに後鼻漏(こうびろう)といいます。
 鼻漏はその性状によって水様性の水っぱな、白いネバネバした粘液性、黄色や黄緑色をした膿性(のうせい)に大別されます。
 水様性鼻漏は急性鼻炎(きゅうせいびえん)(「急性鼻炎」)やアレルギー性鼻炎(鼻過敏症(アレルギー性鼻炎/血管運動性鼻炎)の「どんな病気か」のアレルギー性鼻炎(鼻アレルギー))などの場合にみられます。粘液性鼻漏は、慢性鼻炎(「慢性鼻炎」)や慢性副鼻腔炎(まんせいふくびくうえん)(「慢性副鼻腔炎(蓄膿症)」)などでみられます。
 また、細菌の感染を併発したときには膿性鼻漏となり、急性副鼻腔炎(「急性副鼻腔炎」)や慢性副鼻腔炎の急性増悪(ぞうあく)(悪化)のときにみられます。
 片側の鼻から、悪臭のある血液の混じった鼻漏が続く場合には、上顎(じょうがく)がんなどの悪性腫瘍(あくせいしゅよう)である場合もあります。
●鼻乾燥
 いろいろな原因で鼻粘膜の線毛機能や分泌機能が障害されたり、また鼻・副鼻腔手術の影響によって鼻腔空間が広くなったりすると、鼻の乾燥感が生じたり、鼻腔内に鼻かすがたまったりします。
 この場合の鼻かすは、鼻粘膜に付着している吸い込んだほこりや脱落した鼻粘膜の上皮(じょうひ)、鼻汁などがかたまりとなってたまったものです。悪臭のある鼻かすが多くたまる病気としては、萎縮性鼻炎(いしゅくせいびえん)(「萎縮性鼻炎」)や進行性鼻壊疽(しんこうせいびえそ)(コラム「進行性鼻壊疽(ウェゲナー肉芽腫症/非腫瘤型T細胞リンパ腫)」)があります。
●くしゃみ
 くしゃみは、鼻からの刺激によっておこる爆発的な呼気(こき)であり、鼻腔内に入ってきた異物を体外に排除し、呼吸器の健康を守ろうとする防御反応です。
 鼻アレルギーや急性鼻炎の特徴的な症状であり、多くは水様性鼻漏や鼻閉塞とともにおこります。
●鼻声(びせい)(共鳴障害(きょうめいしょうがい))
 発声の際に鼻腔の共鳴が異常になると、鼻声になります。
 鼻茸(はなたけ)(「鼻茸(鼻ポリープ)」)、肥厚性鼻炎(ひこうせいびえん)、鼻中隔弯曲症(びちゅうかくわんきょくしょう)(「鼻中隔弯曲症」)などで、鼻腔が閉塞されたり、また、アデノイド増殖症(ぞうしょくしょう)(「アデノイド増殖症(腺様増殖症/アデノイド/咽頭扁桃肥大症)」)や腫瘍で上咽頭(じょういんとう)が閉塞されると、声をだしたときに呼気が鼻腔にぬけなくて、鼻腔共鳴がおこりにくくなりますが、この場合の鼻声を閉鼻声(へいびせい)といいます。
 反対に、口蓋裂(こうがいれつ)(「口唇裂/唇顎口蓋裂/口蓋裂」)、軟口蓋(なんこうがい)まひのように、鼻腔とのどを遮断する機能が失われると、声をだしたときに呼気が鼻腔にもれ、過度の鼻腔共鳴がおこりますが、この場合の鼻声を開鼻声(かいびせい)といいます。

出典 小学館家庭医学館について 情報

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