翻訳|cobra
コブラ科コブラ亜科の毒ヘビのうち,興奮すると頸部を広げて立ち上がる特有の威嚇姿勢で知られる仲間の総称。アジア,アフリカ,オーストラリアの熱帯,亜熱帯に広く分布する。インドコブラNaja naja(英名Indian cobra)は全長1.2~2.2m。しばしばコプラと呼ばれたりするが,これは誤り。中央アジア,インド,熱帯アジア,中国南部,台湾に分布し,生息地により体色,斑紋などに変異がある。他のコブラ類同様,外形はナミヘビ科の無毒ヘビに類似し,頭部も胴もむしろ細長い。しかし身辺の異変を察知するとすぐに頸部を広げ,興奮が高まるにつれて体の前半部を立ち上がらせて,シューッという音(噴気音)とともにとびかかるしぐさを繰り返す。ただこの段階では,口を閉じたままの威嚇行動にすぎないが,身の危険を感ずると口を開いてとびかかる。このようなコブラ類特有の威嚇行動は,無益な戦いを未然に防止する目的の警告信号であり,天敵への脅しでもある。インドコブラ類にはさらに脅しの効果を高めるため,広がった頸部の背面に円形の目玉模様があり,おそらく背後に回る敵をたじろがせる効果があるのだろう。インド産のものでは2個の目玉模様が横に並び,そのためメガネヘビの異名がある。
フード(ずきん)と呼ばれるコブラ類の頸部は,長く発達した肋骨によって広げられ,インドコブラではもっとも著しい。写真や映像で見るコブラはほとんどが威嚇姿勢であるため,一般にこれが通常の形態だと思われがちであるが,ふつうの形態は無毒ヘビと大差ない。不意を打たれたコブラは無警告でかみつくため,現地では夜間に踏みつけて被害を受けることがある。
インドコブラは深い森林から開けた水田地帯まで分布し,夜行性で,夜間に市街地の公園や人家の庭先,道路にも出没する。餌はおもにネズミなど小哺乳類で,産卵は一度に20~40個ほど。神経毒を主成分とする毒性が強く,きわめて危険であり,生息密度も高いため各地で人畜の被害が大きい。熱帯アジアに分布し,最大の毒ヘビとして知られるキングコブラOphiophagus hannah,アフリカ産のエジプトコブラN.hajeやケープコブラN.niveaなどはインドコブラ同様の威嚇姿勢をとるが,頸部の幅は狭い。熱帯アフリカ産のクロクビコブラN.nigricollisとリンガルスHemachatus haemachatus(英名ringhals)は,特別な毒牙(どくが)のしくみにより敵の目に的確に毒を吐きかけることができるドクハキコブラ(英名spitting cobra)と呼ばれ,数mの距離を隔てても威力を発揮する。オーストラリア産コブラ類は多くは美しい小型の一群であるが,全長3~4mの大型で,もっとも攻撃的な毒ヘビとされるタイパンOxyuranus scutulatus(英名taipan)なども含まれる。ユニークな存在は,コブラでありながら形態,生態ともにマムシ類とそっくりのデスアダーAcanthophis antarcticus(英名death adder)で,“死の毒ヘビ”という名が示すとおり致命率はきわめて高い。
有名なインドコブラの“コブラ踊”は,コブラが笛の音につれて“踊る”ものでなく(ヘビは音がほとんど聞こえない),彼らの威嚇行動をうまく利用したショーである。物語に登場するコブラでは,エジプトの女王クレオパトラの死にまつわるアスプaspが有名で,女王は毒蛇アスプにみずからの豊かな胸をかませて命を断ったともいわれている。現在ではアスプと呼ばれるのはクサリヘビ属のアスプクサリヘビVipera aspisであり,クレオパトラが用いたとされるエジプトコブラではない。しかし古代エジプトではヘビそのものをアスプと呼び,クレオパトラを画題とした歴史画でも,G.フェラリらはコブラを,G.レーニらはクサリヘビをかいている。エジプトには致命率の高い小型のトゲクサリヘビEchis carinatusも分布するので,aspはあるいは本種なのかもしれない。
執筆者:松井 孝爾
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
爬虫(はちゅう)綱有鱗(ゆうりん)目コブラ科コブラ属に含まれるヘビの総称。この属Najaの仲間は、頸部(けいぶ)の目玉模様と「コブラ踊り」で知られる毒ヘビである。また、広義にはアマガサヘビ、サンゴヘビ、タイガースネークなどコブラ科に属する陸生のヘビも含まれる。とくにオーストラリアに分布するヘビでは陸生の70%がコブラ科の毒ヘビである。
コブラ属はインドコブラN. najaをはじめ典型的なコブラ6種を含み、中央アジア、南アジアおよびサハラ砂漠を除くアフリカ全域に分布する。全長1.5~2メートル、普通の状態では形態的に無毒ヘビと大差ないが、危険を感じたりして興奮すると、体の前半部を立ち上がらせ頸部を広げる特有の威嚇姿勢をとる。頸部は肋骨(ろっこつ)が長くなっており、これを張り出して皮膚を広げるが、フード(頭巾(ずきん))とよばれるこの部分はインドコブラがとくに幅広い。中央アジアから南アジアに広く分布し、多くの地方型があるインドコブラのフードの背面には、変化に富んだ目玉模様や眼鏡模様があり、メガネヘビの別名もある。興奮が高まると姿勢を反らせ、シューッと息で音をたてながら飛びかかるしぐさを繰り返す。最初は口を閉じたままの威嚇行動にすぎないが、身に危険を感じるとかみつく。コブラは強い神経毒の持ち主ですべて致命的な危険種であり、夜に行動するため、踏みつけたりして被害にあう人が多い。インドコブラは深い森林から開けた水田地帯まで分布し、昼間は地面の穴に隠れているが、夜には市街地の公園、道路、人家の庭先にも現れる。卵生で一度に20~40個ほどを産み、餌(えさ)は主としてネズミ類である。アフリカ産のエジプトコブラN. haje、ケープコブラN. nivea、クロクビコブラN. nigricollisなどは体の前半部を高く立ち上がらせるが、頸部の幅は狭い。近縁で別属のリンカルスHemachatus haemachatusは、クロクビコブラとともに毒牙(どくが)(溝牙(こうが))の構造がすこし異なる毒吐きコブラspitting cobraであり、危険が迫ると、敵の目をねらって毒を飛ばす。毒は正確に発射され、数メートル離れても効率よく敵に被害を与える。コブラ属の近似種には全長が最大5.5メートルに達する世界最大の毒ヘビであるキングコブラOphiophagus hannahや、アフリカ中部に分布しもっぱら魚を餌とするミズコブラBoulengerina annulataなどがある。
コブラはその威嚇行動の習性を利用した「コブラ踊り」の街頭ショーで知られる。もちろんこれは、聴覚の鈍いヘビが笛にあわせて踊るのではなく、コブラを暗い容器から明るいところに急に出すことと、笛の動きとによって興奮させるためである。コブラやキングコブラは古来信仰の対象とされ、とくに東南アジアでは安産の神として各地で祀(まつ)られている。
[松井孝爾]
ヨーロッパ現代美術のグループ名。1948年デンマーク、ベルギー、オランダの前衛美術運動が合流して結成され、51年まで展覧会活動を行った。コブラという名称はそれぞれの国の首都コペンハーゲンCopenhagen、ブリュッセルBruxelles、アムステルダムAmsterdamの頭文字を組み合わせたものである。その中心的なメンバーにはデンマークのヨルンAsger Jorn(1914―73)、ベルギーのアレシンスキー、オランダのアペルがいる。広義には抽象表現主義の一翼をなしているが、北欧表現主義の伝統にたって、原色を基調とする色彩の陶酔と振幅に富む激情的なマチエールの駆使とによって意識の解放を実現するとともに、合理的、機能的な抽象化に反対して「人間」の問題を表現の中心に置き、反文明的な志向を明らかにしている。それは、戦争による荒廃のつめあとを青春の情感に生々しく刻印された世代の、いわば報復的な熱狂であったかもしれないが、この熱狂が暗く長いトンネルをくぐり抜けた第二次世界大戦後の美術に新しい視覚を衝撃的に目覚めさせた功績は高く評価される。1951年パリ展を頂点としてグループは解散し、各自の制作に分化していった。
[野村太郎]
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… 地方別に,とくに国際的にも知られる重要な民謡,民俗音楽の形式を挙げる。カタルニャ地方のサルダーナsardanaは古い歴史をもつ輪踊りで,その音楽はふつう11人編成の,コブラcoblaと呼ばれる民俗的な管楽合奏団により演奏される。カタルニャにはほかに旋律の美しい民謡も多い。…
…魚類のウミヘビと混同されることがよくあるが,爬虫類のヘビの仲間である。ウミヘビ類は〈海のコブラ〉と呼ばれるように,形質がコブラ類と類似した点が多く,陸生のコブラ類から進化したものと考えられており,コブラ科のウミヘビ亜科Hydrophiinaeとエラブウミヘビ亜科Laticaudinaeに分けられている。ウミヘビ類は15属53種がペルシア湾,インド洋から西太平洋,オセアニアの暖かい海域に分布し,一部が中央アメリカの太平洋沿岸に達している。…
…毒ヘビ類の毒腺は唾液(だえき)腺の唇腺が変形したもので,毒牙に連絡している。ヘビの毒腺からは,呼吸中枢に作用し呼吸麻痺をおこさせる神経毒(コブラのオフィオトキシン,ガラガラヘビのクロトキシンなど),血管壁からの出血をおこし赤血球をこわす溶血毒(マムシのクロタロトキシン)などさまざまの毒素が分泌される。両生類,魚類には皮膚腺が毒液を分泌するものがある。…
…ヒンドゥー教の神名。〈竜〉と漢訳されたが,本来は中国の竜とは異なり,蛇,とくにコブラのことである。蛇神崇拝はすでにインダス文明において存在したと推測される。…
…その居所は竜宮と呼ばれる。インドの美術ではコブラまたはコブラを頭につけた人間の姿で表される。(3)夜叉,薬叉(ヤクシャyakṣa) 森の神として福神と鬼神の両面をもつ。…
※「コブラ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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