児童福祉法に基づき、子どもの福祉や権利擁護のため、都道府県や政令市などが設置する行政機関。虐待を受けるなどした子どもの一時保護や保護者の指導に当たるほか、強制的に家庭へ立ち入り調査をする権限もある。虐待相談対応件数の増加に伴い業務負荷が増しており、民間事業者への委託も活用しながら児童の支援強化を図ることなどを規定した改正児童福祉法が2022年に成立した。
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市町村と適切な役割分担・連携を図りつつ、子どもに関する家庭その他からの相談に応じ援助を行うことにより、子どもの福祉を図るとともに、その権利を擁護することを主たる目的とした行政機関。児童福祉法(昭和22年法律第164号)第12条に基づいて、全国の都道府県および政令指定都市に設置することが義務づけられ、加えて中核市と政令で定める市および特別区(あわせて児童相談所設置市等)にも設置できる。2023年(令和5)4月の時点で、全国に232か所設置されている。
児童相談所の運営は「児童相談所運営指針」(2005年2月改正)に基づいており、業務遂行体制は原則として総務部門、相談・判定・指導・措置部門、一時保護部門の3部門制をとっている。それぞれの専門職からなる受理会議、判定会議、援助方針会議において、子ども、保護者等の援助について検討し、さらに検証していく作業を行う。
もともと児童相談所は、その名のとおり児童に関する総合的な相談機関であった。2004年(平成16)12月の児童福祉法の改正により、市町村が児童家庭相談に応じることを業務として法律上明確にされ、住民に身近な市町村に対して、虐待の未然防止・早期発見を中心とした積極的な取り組みを求めることになった。一方、児童相談所の役割については、市町村相互間の連絡調整や、専門的な知識および技術を必要とする事例への対応、市町村の後方支援など、地域における児童家庭相談体制の充実を図ることになった。児童相談所は、こうした法律改正の趣旨を踏まえ、児童家庭相談に応じる市町村に対して適切な支援を行うことはもとより、幅広い専門機関や職種との連携強化、司法関与の仕組みの有効活用などにより、児童家庭相談に迅速かつ的確に対応することになった。同時に、親子が安全で安心できる状態でお互いを受け入れられるようになる親子(家族)再統合の促進への配慮、その他の児童虐待を受けた子どもが良好な家庭的環境で生活するために必要な配慮をするなど、子どものみならず保護者も含めた家庭への支援にいっそう積極的に取り組むこととなった。
[中村強士 2023年11月17日]
所長、児童福祉司、相談員、医師(精神科医)、保健師、児童心理司、心理療法担当職員、その他に小児科医や理学療法士(言語治療担当職員を含む)、臨床検査技師、弁護士、児童指導員、保育士を置く児童相談所もある。地域の実情や規模に応じて、看護師や栄養士などの職員も配置される。
[中村強士 2023年11月17日]
(1)相談の受付、(2)調査、診断(社会診断、医学診断、心理診断)、(3)判定会議の実施と援助内容の決定、(4)援助の実行(在宅・通所指導、児童福祉司・児童委員・児童家庭支援センター指導、他機関斡旋(あっせん))、(5)里親委託推進、(6)児童福祉施設入所措置、指定医療機関委託、(7)児童自立生活援助の実施(自立援助ホーム)、(8)福祉事務所送致、(9)家庭裁判所送致(家事審判の申立て、親権喪失宣告の請求、後見人選任・解任の請求など)、(10)管轄区域における子どもや家庭が抱える問題の把握および予防的活動、(11)一時保護している子どもの生活指導、行動観察、行動診断、健康管理の援助、などである。
[中村強士 2023年11月17日]
市町村が児童家庭相談の業務を担うことになったとはいえ、児童相談所の総合相談窓口としての機能は縮小されていない。児童相談所での相談の対応件数は毎年増加しており、2021年度(令和3)は約57万件に上っている。その内容は、障害児、発達障害などの障害相談、不登校などの育成相談、父母の離婚、被虐待児などの養護相談、非行相談、早産児などの保健相談、その他の相談に分けられるが、そのうちもっとも多い相談が養護相談である(49.5%)。養護相談のうち、児童虐待に関する相談の対応件数も増え続けており、2020~2021年度は年間20万件を超えている。その増加の理由について厚生労働省は、心理的虐待の定義を拡大したり、児童相談所全国共通ダイヤルの3桁化(189)の広報、マスコミによる児童虐待の事件報道などにより、国民や関係機関の児童虐待に対する意識が高まったことによるとしている。
増加する児童虐待の防止対策を強化するために2016年(平成28)に児童福祉法等が改正され、次のような児童相談所の体制強化が行われた。(1)児童心理司、医師または保健師、スーパーバイザー(他の児童福祉司の指導・教育を行う児童福祉司)を配置する、(2)児童福祉司(スーパーバイザーを含む)は、国の基準に適合する研修を受講しなければならないものとする、(3)児童相談所設置自治体は、法律に関する専門的な知識・経験を必要とする業務を適切かつ円滑に行うため、弁護士の配置またはこれに準ずる措置を行うものとする。
また、児童相談所の権限強化等については、(1)児童相談所から市町村への事案送致を新設する、(2)臨検・捜索について、再出頭要求を経ずとも、裁判所の許可状により、実施できるものとする、(3)児童相談所・市町村から被虐待児童等に関する資料等の提供を求められた場合、地方公共団体の機関に加え、医療機関、児童福祉施設、学校等が当該資料を提供できる旨を規定する、(4)政府は、改正法の施行後速やかに、要保護児童を適切に保護するための措置に係る手続における裁判所の関与のあり方について検討を加え、その結果に基づいて必要な措置を講ずるものとする、とされた。
さらに、2019年(令和1)の児童福祉法改正では児童相談所の体制強化が進められ、(1)児童心理司の配置基準の法定化、(2)児童福祉司の配置基準の見直し、(3)児童相談所長、児童福祉司の任用要件への精神保健福祉士と公認心理士の追加、(4)児童相談所への弁護士の配置またはこれに準ずる措置、(5)医師および保健師の配置、(6)児童福祉司およびスーパーバイザーの任用要件の見直しが行われた。
今後はさらに、一般事務職ではなく専門職(とくに児童福祉司と児童心理司)の積極的な採用や、業務量に見合った職員配置数の確保および処遇改善が必要である。さらに、児童の意見表明権を保障する仕組みづくりや、「家族再統合」に向けた司法機関による保護者援助制度の導入、一時保護所に特化された設備・運営基準の策定も求められる。
[中村強士 2023年11月17日]
『日本児童福祉協会編・刊『子ども・家族の相談援助をするために――市町村児童家庭相談援助指針・児童相談所運営指針』(2005)』▽『斉藤幸芳・藤井常文編著『児童相談所はいま――児童福祉司からの現場報告』(2012・ミネルヴァ書房)』▽『才村純・芝野松次郎・松原康雄編著『児童や家庭に対する支援と子ども家庭福祉制度』第3版(2015・ミネルヴァ書房)』▽『遠藤久夫他監修、国立社会保障・人口問題研究所編『児童相談所の役割と課題――ケース記録から読み解く支援・連携・協働』(2020・東京大学出版会)』▽『川松亮・久保樹里他編著『日本の児童相談所――子ども家庭支援の現在・過去・未来』(2022・明石書店)』
児童福祉法15条により都道府県,指定都市が設置を義務づけられている施設で,同法に基づいて行われる公的サービス業務の中枢的現業機関である。児童およびその保護者または妊産婦等の福祉ニーズとそれに対応する各種サービスとを媒介し,これらを結びつけることを基本的機能とし,児童に関する諸問題について,相談,判定,措置,指導および一時保護を行う。児童相談所長は都道府県知事から,調査,判定に基づいて児童を措置する権限(措置権)を委任され,施設への入所決定,里親・保護受託者への委託,家庭裁判所への送致等の措置をとる。また3歳児健康診査について保健所と協力するなどの業務もある。専門的機能と行政的機能とを併せもつ児童福祉機関のため,職員も専門技術者を必要とし,所長はじめ児童福祉司や判定,相談,調査にあたる職員など専門家の配置が求められる。所長は精神衛生に関する学識経験を有する医師か,大学で心理学を専攻したものか,児童福祉司として2年以上の経験をもつもの等が任命され,判定を行う職員のうちにはこれと同資格のものが含まれていなければならない。
児童福祉司は児童福祉に関する専門ケースワーカーで専門的技術に基づく指導を行うほか,担当区域の実情把握,要保護児童の発見・通告にあたる。児童相談所はその規模によりA級,B級,C級に分類され,業務を行うため相談調査部,判定指導部,一時保護部の3部制を原則としている。児童相談所の数や場所は都道府県,指定都市ごとに,人口密度,要保護児童数や青少年犯罪の頻度,交通の便などを考慮して定められる。都道府県,指定都市で2ヵ所以上の相談所を設置した場合,知事,市長はその一つを中央相談所として指定できる。中央児童相談所は他に比べ高度の機能をもち,他の相談所に対する援助や相互連絡にあたる。
なお,別に,大学や民間諸団体による私立の児童相談所も存在する。
執筆者:永田 幹夫
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(原田英美 ライター / 2010年)
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【児童福祉諸立法の枠組み】
児童福祉の中核に児童福祉法がある。これは理念およびそれを具現するための国・公共団体の責務,および児童相談所をはじめとする行政機関と施設の機能を規定し,さらに児童福祉司などの専門ワーカーの役割を規定している。児童福祉の精神を宣言したものが児童憲章(1951年,内閣総理大臣の召集による児童憲章制定会議で制定)で,憲章は〈児童は人として尊ばれる,児童は社会の一員として重んぜられる,児童はよい環境の中で育てられる〉という憲法の精神に則した児童福祉の理念を明示した。…
※「児童相談所」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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