江戸前期の国学者、俳人、歌人。通称久助。別号は芦庵(ろあん)、拾穂軒(しゅうすいけん)、湖月亭など。近江(おうみ)国(滋賀県)野洲(やす)郡(現、野洲市)の人で、医師北村宗円の長男として寛永(かんえい)元年12月11日に生まれる。若くして上京し、初め俳諧(はいかい)を安原貞室(やすはらていしつ)(1610―1673)に師事し、ついで貞室の師松永貞徳(まつながていとく)に従って、広く古典を学んだ。24歳のとき季寄(きよせ)『山之井(やまのい)』を刊行し、ついで『師走(しわす)の月夜』などを刊行。貞徳没後は俳諧宗匠として独立し、積極的に俳諧活動を行い、『祇園(ぎおん)奉納連歌誹諧合(はいかいあわせ)』『新続犬筑波集(しんぞくいぬつくばしゅう)』(1660序)等の句合や撰集(せんじゅう)を出し、また古典の注釈にも力を注ぎ、『大和(やまと)物語抄』(1653)『土佐日記抄』(1661)『伊勢(いせ)物語拾穂抄』(1680)などを完成させている。1683年(天和3)には京都新玉津島神社の社司となったが、1689年(元禄2)66歳のときに将軍家の歌学方として、長男の湖春(1648―1697)とともに召され、江戸に居住した。1699年には法印に叙せられ、再昌院(さいしょういん)の号を受け、栄達の極みに達した。季吟は芭蕉(ばしょう)の師とされるが、それは若年の一時期で、以後二人の交流はみられない。季吟の編著は『季吟十会集(じっかいしゅう)』(1672)『続連珠(ぞくれんじゅ)』(1676)『誹諧埋木(うもれぎ)』(1673)などの俳諧関係、大部な『源氏物語湖月抄』(1673成立)『枕草子春曙抄(まくらのそうししゅんしょしょう)』(1674成立)『八代集抄』(1682)などの注釈書、その他歌集などがある。宝永(ほうえい)2年6月15日没。
[雲英末雄 2016年5月19日]
一僕(いちぼく)とぼくぼくありく花見かな
『野村貴次著『北村季吟の人と仕事』(1977・新典社)』
江戸前期の歌学者,俳人。名は静厚(しずあつ)。通称は久助。別号は蘆庵(呂庵),七松子,拾穂軒(しゆうすいけん),湖月亭。山城国粟田口の生れ。祖父宗竜・父宗円が連歌をよくした影響で,早くから文事に親しみ,16歳で貞室,22歳で貞徳に入門。1648年処女作《山之井(やまのい)》を刊行し,重頼と抗争中の貞室を助けて俳壇に名を挙げ,53年には《紅梅千句》の大興行に参加,跋文も書いた。貞徳没後は飛鳥井雅章(まさあきら)・清水谷実業(さねなり)に和歌・歌学を学び,歌道に明るくなると,貞室の無知がうとましく不和となり,56年《誹諧合(はいかいあわせ)》を出して独立を宣言,以後は撰集《新続犬筑波(いぬつくば)集》(1660),俳論書《埋木(うもれぎ)》(1673),句合書《六百番誹諧発句合(ほつくあわせ)》(1677)等を続々と著し,俳壇に不動の地位を築いた。一方歌学者としても,和歌詠作に資する目的で,1652年刊《大和物語抄》から,86年成立《万葉拾穂抄》に至る約30年間に,《土左日記抄》《伊勢物語拾穂抄》《徒然草文段抄》《源氏物語湖月抄》《枕草子春曙(しゆんしよ)抄》など,数多くの古典注釈書を出した。ほかに,仮名草子《仮名列女伝》(1655)がある。83年,京都新玉津島神社の社司となり,89年には子の湖春とともに幕府歌学方に仕え,のち法印,また再昌院の院号を賜った。宝永2年6月15日没。82歳。辞世〈花もみつ郭公をも待ち出でつこの世後の世思ふ事なき〉。俳風は純正の貞門風で可も不可もない。〈地主からは木の間の花の都かな〉(《花千句》)。
執筆者:乾 裕幸
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(久保田啓一)
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1624.12.11~1705.6.15
江戸前期の歌人・俳人・和学者。名は静厚。通称久助。別号は慮庵(りょあん)・呂庵・七松子・拾穂軒・湖月亭。近江国北村の人。祖父・父につぎ医学を修めた。はじめ貞室に,のち貞徳直門となり,「山之井」刊行で貞門の新鋭といわれた。飛鳥井(あすかい)雅章・清水谷実業(さねなり)に和歌・歌学を学んだことで,「土佐日記抄」「伊勢物語拾穂抄」「源氏物語湖月抄」などの注釈書を著し,1689年(元禄2)には歌学方として幕府に仕えた。俳諧は貞門風をでなかったが,「新続犬筑波集」「続連珠」「季吟十会集」の撰集,式目書「埋木(うもれぎ)」,句集「いなご」は特筆される。元隣・芭蕉・素堂らのすぐれた門人を輩出したことも,俳諧史上大きな意義がある。
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…注釈書。著者は北村季吟。60巻60冊。…
…内容は必ずしも高くないが,朗詠の譜や歌会の故実などまで広く含み,戦後乱世を通じて学芸の保持,伝達に果たした役割は大きい。中世の研究は北村季吟《八代集抄》(1679‐81成立)に総括され,近世の研究に基礎を提供した。契沖の《古今余材抄》(1692成立)は近世的な科学的研究を開始した重要な研究であり,本居宣長《古今和歌集遠鏡(とおかがみ)》(1794成立)は最初の口語訳である。…
…俳諧季寄せ。北村季吟著。1647年(正保4)成立,翌年刊。…
※「北村季吟」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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