因果応報(読み)インガオウホウ

デジタル大辞泉 「因果応報」の意味・読み・例文・類語

いんが‐おうほう〔イングワ‐〕【因果応報】

仏語前世あるいは過去善悪行為が因となり、その報いとして現在に善悪の結果がもたらされること。

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精選版 日本国語大辞典 「因果応報」の意味・読み・例文・類語

いんが‐おうほうイングヮ‥【因果応報】

  1. 〘 名詞 〙 仏語。善悪の因縁に応じて吉凶禍福の果報を受けること。善因には富楽などの善果を受け、悪因には貧苦などの悪果を受けること。現在では悪因悪果の意で用いることが多い。因果報応
    1. [初出の実例]「因果応報(イングヮオウハウ)(けがれ)を浄(きよ)むる。かちかち山の切火打(きりびうち)」(出典:安愚楽鍋(1871‐72)〈仮名垣魯文〉初)

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改訂新版 世界大百科事典 「因果応報」の意味・わかりやすい解説

因果応報 (いんがおうほう)

仏教語で,因果報応ともいう。善悪の原因があれば必ずそれに相応する楽苦の結果のあることをいう。ことばとしては《大唐慈恩寺三蔵法師伝》に見える。仏教の基本的考えである因・縁・果・報の認識をもとに,宗教的達成をめざすための教えであるが,結果的には勧善懲悪的な役割を果たした。早くから,仏教が日本人に教えたことであったが,平安時代初頭の《日本国現報善悪霊異記(日本霊異記)》にはこれが横溢している。この教えのすこぶる普及したことは,多くの因果応報説話によっても知られる。その反面では,現状肯定やあきらめムードをもたらしたことはいなめない。この善因善果,悪因悪果応報の考えを転換させたのが,親鸞悪人正機説であった。いっぽう,本居宣長が〈人の禍福などの道理にあたらぬ事あるをも,或は因果報応と説き……都合よきやう作りたる物〉(《玉くしげ》)と否定するのは,この教えの影響力の大きさを認めたからであろう。
執筆者:

陶潜は,〈飲酒〉詩第二首に,〈善を積めば(善き)報い有りと云ふも,夷叔は西山に在りき。善悪苟(いや)しくも応ぜずんば,何事ぞ空言を立つる〉という。〈積善の家には余慶あり〉と《易経》に言ってあるのに,あの伯夷・叔斉という義人の兄弟は報われることなく西山で餓死した。《易経》の言葉は〈空言〉ではないのか。ここには陶淵明自身の生存の深みから発せられた懐疑があり,それは漢の司馬遷が同じ人について発した〈天道は是か非か〉(《史記》伯夷列伝)という憤りとも深く響き合う。あの《書経》湯誥に揚言する〈天道は善に福(さいわい)し淫に禍(わざわい)す〉というテーゼは,漢代以後その権威を失い始めた。因果応報の天道的理法が,個々の人間の生存と倫理の次元では論理的にも現実的にもその整合性を失わざるをえなかったからである。孔子も天命そのものの解明はしなかったし,人間の生死の問題に深入りすることも避けた。しかし時代の転変とともに,この理法と人間の現実との乖離(かいり)はいよいよ深刻となり,正しき者が衰亡し悪しき者が栄えるという事態に対して,従来の儒教倫理は有効な説明を与えることができなくなった。もはや倫理を超えた異次元の問題を指向しなければならなくなったのである。

 仏教はそこに〈業(ごう)〉の理を導入した。とは本来は単に人間の行為のことであるが,一つの行為は必ず善悪・苦楽の応報をもたらすという因果観と結びつくことで,業は一種のパワーとみなされ,そこから過去・現在・未来の三世にわたる輪廻(りんね)の思想が,しだいに中国人の生死観に定着するようになった。こうして因果応報の観念は,超自然的ないし宗教的な枠組みへと拡大したのであるが,それが民衆教化の便法として〈勧善懲悪〉の教えに通俗化されると,世間法との自然な習合によって再び現世倫理と密着しつつ中国在来の宿命論的天命観と融合していった。民間道教に説かれる因果応報観もほぼこれと対応する。
執筆者:

仏教説話はすべて因果応報の色彩を帯びている。その中でも特に因果応報説話の性格が鮮明なのは,冥界説話,禽獣への転生の因縁を語る説話,現在因現在果の現報説話,の3種である。この3種はいつの時代にも盛んに行われたが,善因善果・悪因悪果を説く基本的モティーフに変化はない。7世紀の唐臨《冥報記》は中国の,9世紀の景戒《日本霊異記》は日本の,因果応報説話の集成の代表的なものであり,それぞれ後代の因果応報説話の形成に大きく影響している。日本ではこの2書に《善悪因果経》を加えた3書の影響のもとに多くの因果応報説話が形成された。仏教説話集はすべて因果応報説話集といえるが,中でも《今昔物語集》巻九,巻二十は,それぞれ中国・日本の因果応報説話の集成として注目すべきものである。また,近世に多く行われた〈鼓吹(くすい)〉〈直談(じきだん)〉などを書名にもつ通俗仏教注釈書は,中世以前の因果応報説話を多く継承している。
因果
執筆者:

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四字熟語を知る辞典 「因果応報」の解説

因果応報

仏教で、前世やその人の過去の行いが原因で、さまざまの結果を報いとして受けること。

[使用例] もとより、私は因果応報を信じない。厄日や家相などというものを信じない[檀一雄*波打際|1957]

[使用例] 後鳥羽院の隠岐へながされたことにふれている部分は、怨霊のおそろしさと因果応報の理を強調するために、あとになって付け加えられたものであって[花田清輝*小説平家|1965~67]

[使用例] 物語を通じて、仏の功徳、因果応報のことわり、仏教徒として生きる道などを説きました――そういうと、いかにも抹香くさく、形式的な説教集のように思われがちですが、一つ一つのお話が、とてもいきいきして面白いのです![田辺聖子*文車日記|1974]

[解説] 他人にひどい仕打ちをすると、その相手から恨みを買います。恨みを買った結果、その相手からひどい仕打ちを受けます。世の中の原因と結果は、小さな車輪のようにぐるぐる回ります。これが「因果応報」です。
 仏教で「因果」とは「原因・結果」のこと。「応報」は「報い」のこと。つまり、「因果応報」とは、「いい原因にはいい結果が、悪い原因には悪い結果が、報いとして現れる」ということです。
 古典には、前の世で悪いことをしたために、この世でつらい目にあう話がよく出てきます。これも「因果応報」です。身体的な障害まで前世の行動のせいにされることも多かったのですが、さすがにこれは現代の感覚には合いません。
 現代では、自分の行動について、あとで報いを受ける場合に多く使います。たとえば、部下をどなりつけていばっていた上司が、定年後、誰からも連絡をもらえなくなることがあります。これなど、因果応報の典型例と言えるでしょう。

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ことわざを知る辞典 「因果応報」の解説

因果応報

善悪の因縁に応じて吉凶禍福の果報を受けること。善因には富楽などの善果を受け、悪因には貧苦などの悪果を受けること。現在では悪因悪果にかたよった意味に用いることが多い。

[使用例] おぞくもわなに落ちて、この野の露と消えんこと、けだし免れぬ因果応報[巌谷小波*こがね丸|1891]

〔英語〕As you sow, so shall you reap.(まいた種は刈らねばならぬ)

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「因果応報」の意味・わかりやすい解説

因果応報
いんがおうほう

仏教用語。原因としての善い行いをすれば,善い結果が得られ,悪い行いは悪い結果をもたらすとする。善因善果,悪因悪果,三世因果などと表現される。

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世界大百科事典(旧版)内の因果応報の言及

【因果】より

…仏教の説くこのような因果法則は自然科学的因果法則というよりは,むしろわれわれの行為に関するものである。したがって〈因果応報〉といわれるように,それはわれわれの行為を倫理的に規定する教説である。自己の原因としての業がなんの結果ももたらさないと考え,いかなる道徳的行為をも否定する見解を〈因果撥無の邪見〉とよび,そのような見解をいだく人を,けっして悟りを得る能力のない〈断善根〉の人とよんで強く非難する。…

【業】より

…行為を意味するサンスクリットのカルマンkarmanの漢訳語。善人も悪人も死んでしまえばみな同じだというのは不公平だという考えをもとに,インドではブラーフマナ文献あたりから因果応報思想が見え始める。それがウパニシャッド文献では,輪廻思想の成立とともに急速に理論化されるにいたった。…

【罰】より

…旧約聖書では律法に対する違犯は律法にもとづいて罰せられるとしたが,新約聖書では,とくに〈最後の審判〉のときに神によって下される永遠の刑罰が重要視された。またインドでは,一般に業(ごう)(行為,カルマン)の理論と因果応報の観念が成立することによって,現世における悪しき行為はそれにふさわしい報い(罰)をうけるという考えが発達し,それが世俗法(《マヌ法典》)と宗教法(仏教の〈律〉)に影響を与えた。仏教においては,姦淫,盗み,殺生(せつしよう)などの罪の種類に応じて教団からの追放,一定期間の懺悔(ざんげ)謹慎,公の場での懺悔告白などの罰則が設けられた。…

※「因果応報」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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